除湿機の箱に書いてある「木造7畳/鉄筋14畳」は、なぜ2倍も違うのか
家電量販店で除湿機の箱をひっくり返すと、たいてい同じ場所に3つの数字が並んでいる。「定格除湿能力 5.6L/日」「木造7畳」「鉄筋14畳」。同じ機械、同じ5.6Lなのに、部屋が木造か鉄筋かで対応できる広さがきっちり倍になる。初めて見たとき、機械のほうが部屋の構造を見分けているかのようで気持ち悪かった。
種明かしをすると、この2倍は機械の側ではなく部屋の側の数字だ。JIS C 9617 附属書1 は住宅の種類ごとに「床1m²あたり1日に発生する水分量」を決めていて、一戸建の木造和室は 0.480 L/(d·m²)、集合住宅(コンクリート造)の洋室は 0.240 L/(d·m²)。ちょうど2倍。カタログの畳数表示は、定格能力をこの原単位で割って畳に直しただけの値だ。つまりあれは「あなたの部屋の広さ」ではなく「この能力なら木造ならこれくらいの湿気を引き受けられる」という買い物の目印にすぎない。
そして厄介なのはその先で、原単位も定格能力も、ある1つの決まった空気の状態を前提にしている。27℃・相対湿度60%。梅雨の朝の22℃の部屋でも、冬の12℃の脱衣所でもない。この記事はそのギャップを数字で埋める話だ。
カタログの「7L/日」が出ない条件で選んでいた
梅雨に買ったコンプレッサー式の除湿機を、冬に脱衣所へ持っていったら、ほとんど水が溜まらなかった。故障を疑って取説をめくり、仕様表の隅にある小さな注記を見つけた。「除湿能力は室温27℃・相対湿度60%における値」。さらに使用可能温度範囲の行には「約5℃〜40℃」。買ったときに読んだ「7L/日」は、真夏の湿った部屋で測った最良値だったわけだ。
腹が立ったのは自分の不注意より、選び方の解説がどれも同じ形をしていたことだった。「何畳ならこのL数」の対応表が並び、その表がいったい何度の空気を前提にした値なのかはどこにも書かれていない。部屋干しをすれば水が増えることも、冬は方式ごと変わることも、表の外に置かれたままだ。
どれくらい変わるのかを先に見せておく。8畳・室温10℃・80%を55%まで下げたい部屋に洗濯物3kgを干した条件では、1日に取り除くべき水は 1.367 L/日 で方式によらず同じだ。ところが必要なカタログ定格は、コンプレッサー式が 4.39 L/日、デシカント式とハイブリッド式が 1.37 L/日。3.2倍の開きがある。電気代も 70.8円/日 と 50.9円/日 で逆転する。同じ部屋・同じ水の量なのに、選ぶ機械のクラスが2段階も動く。
もうひとつ、個人的な宿題もあった。加湿側の必要加湿量計算・加湿器容量選定ツールを作ったとき、「目標絶対湿度が入口空気以下です(除湿方向)。冷房・除湿側の検討に切り替えてください」という行き止まりのメッセージを書いた。切り替えた先のページを用意しないまま2年放置していた。このツールはその行き先でもある。
絶対湿度とは何か — 除湿機が本当に相手にしている量
相対湿度 と 絶対湿度 の違いを第一原理から
空気が抱えられる水蒸気の量には上限があり、その上限は温度で変わる。よく使うたとえだが、コップで考えるのが早い。コップの大きさが「その温度で入る水蒸気の最大量(飽和水蒸気圧)」で、実際に注がれている水が「いま空気が持っている水蒸気」。
- 相対湿度 [%] = コップの何%まで入っているか
- 絶対湿度 [g/kg(DA)] = 実際に何g入っているか(乾き空気1kgあたり)
コップの大きさは温度が上がると急に大きくなる。だから同じ「60%」でも、中身の量はまったく違う。27℃60%の空気は 13.41 g/kg(DA)、10℃60%の空気は 4.56 g/kg(DA)。約2.9倍だ。冬に「湿度70%もある」と表示されていても、実際に含まれている水は夏の50%の部屋より少ない、ということが普通に起きる。
除湿機がタンクに溜める水は、この絶対湿度の差の分だけだ。相対湿度そのものを直接下げているわけではない。ここを取り違えると、「湿度計は同じ70%なのに、冬はぜんぜん水が溜まらない」が理解できないままになる。
絶対湿度 の 計算 方法(Magnus-Tetens 式)
飽和水蒸気圧は Magnus-Tetens 式で求める。このサイトの湿り空気線図計算ツールや加湿側のツールと同じ式なので、数値が食い違うことはない。
Ps(t) = 610.78 · exp(17.27·t / (t + 237.3)) [Pa] 飽和水蒸気圧
pv = Ps(t) · φ / 100 [Pa] 水蒸気分圧(φ は相対湿度[%])
x = 0.62198 · pv / (P − pv) [kg/kg(DA)] 絶対湿度
0.62198 は水蒸気と乾き空気の分子量比(18.015 / 28.966)で、P は大気圧 101325 Pa。表示するときは1000倍して g/kg(DA) にする。25℃なら Ps = 3167.7 Pa、相対湿度75%なら pv = 2375.8 Pa で、絶対湿度は 14.93 g/kg(DA) になる。
規格そのものを確認したい人はJIS C 9617:1992 電気除湿機の全文を見てほしい。定格除湿能力が「8.4で規定する条件で運転したときの除湿水量を1日(24時間)当たりのリットルで表したもの」と定義されていること、標準試験条件が乾球27℃/湿球21.2℃(≒相対湿度60%)であることが本文に載っている。
除湿量 計算 方法 — 部屋に出入りする水を4つに分ける
必要な除湿量は、目標の絶対湿度 x_tgt を保つために取り除かなければならない水の合計だ。本ツールは4つに分けて積み上げている。
換気由来 = ach × V × 1.2 × (x_out − x_tgt) × 24 [L/日] ← 負にもなる
洗濯物 = 洗濯物[kg] × 0.41 [L/日]
在室者 = 人数 × 50 [g/h] × 運転時間[h] / 1000 [L/日]
初期水分 = max(0, V × 1.2 × (x_now − x_tgt)) [L] ← 1回分
合計 = 換気由来 + 洗濯物 + 在室者 + 初期水分
V は室容積 [m³]、1.2 は空気密度 [kg/m³]、ach は換気回数 [回/h]。時間の扱いが項ごとに違うのは意図したもので、換気は止まらないので24時間分、在室者は運転時間ぶん、洗濯物と部屋の空気に最初から入っている水はその日1回分だ。
そして換気の項には絶対値もクリップも掛けていない。外気の絶対湿度 x_out が目標より低ければ、この項は堂々とマイナスになる。冬の換気は除湿そのものだからだ。多くの計算例が「換気負荷」を必ず正の値として足しているが、それでは冬に「窓を開けたほうが早い」という結論に永久にたどり着けない。
湿度60%を超えると何が起きるか
カビの多くは相対湿度60%を超えたあたりから活動が目立ちはじめ、80%が続くと数日で目に見える。除湿の目標を50〜60%に置くのはこのためで、逆に40%を下回る維持は家庭用除湿機の仕事ではない(本ツールも目標30%未満は受け付けない)。
能力を外したときの実害は、上振れと下振れで症状が違う。
下振れ=能力不足は「一晩回しても湿度が下がらない」という形で出る。たとえば12畳のリビングで在室4人・洗濯物6kg・換気0.5回/hの条件だと、必要な定格は 13.92 L/日、市販クラスなら14.0L/日が要る。ここに5Lクラスを置くと、入ってくる水のほうが多く、目標湿度には原理的に到達しない。タンクは溜まるのに湿度計は動かないので、故障だと思って買い替える人が出る。
冬の方式ミスはもっと直接的だ。コンプレッサー式は空気を冷やして結露させる仕組みなので、冷やす前の空気が冷たいと取れる水が激減する。カタログの使用可能温度範囲も三菱電機 MJ-M120ZX が7℃〜40℃、コロナのHシリーズが約5℃〜40℃と、下限が切ってある。3℃の脱衣所という条件では実効能力係数が 0.2090、つまり定格の2割しか出ない計算になり、本ツールは方式の適否を「使用下限を下回る」と判定する。実機では熱交換器が凍って除霜運転ばかりになるので、モデル値よりさらに落ちる。
もうひとつ、カタログ畳数を信じきる前に知っておきたい前提がある。JIS C 9617 附属書1 の簡易計算は、「外気の相対湿度が80%の日でも室内の70%をおおむね60%にできる」「室の構造は普通で天井は高くない」「開口部は人の出入り以外は閉じている」「水蒸気を発生する器具は特にない」という条件で成り立っている。部屋干しをした瞬間に、この最後の1行から外れる。洗濯物4kgが室内へ放つ水は 1.64 L/日 で、これは6畳(容積23.85m³)の空気が丸ごと持っている水を目標まで下げる量(0.120 L)の13倍以上だ。畳数表の外側にいちばん大きな水源が立っている。
だから本ツールは、床面積から一括で見る附属書1の簡易目安(木造 床面積×0.480、集合住宅 床面積×0.240)を参考値として併記し、換気・洗濯物・在室者を積み上げたボトムアップの値と突き合わせられるようにしてある。両者がかけ離れていたら、どちらかの前提が現実と合っていない合図になる。
数字が要るのはこういう部屋
梅雨の部屋干し。いちばん多い場面で、いちばん外しやすい。洗濯物の重さを入れると、負荷の過半が洗濯物になることがその場で見える。乾くまでの時間そのものは洗濯物乾燥時間シミュレーターの担当。
引っ越しや新居で「何Lを買うか」を決めるとき。部屋の広さだけで選ぶと、換気の効いた部屋と締め切った部屋で同じ機種を選ぶことになる。必要定格とカタログ表示の畳数を先に出しておけば、店頭では仕様表の数字を照合するだけで済む。
冬の結露対策で方式を選ぶとき。窓が結露するのか壁の中で結露するのかで打ち手が変わるので、表面結露は結露・露点温度チェッカー、壁体内結露は内部結露シミュレーターと併用してほしい。除湿機より断熱・防湿の問題であることも多い。
地下室・ガレージ・機材や楽器の保管庫。人がいなくても外気が入り続けるので、換気由来だけで負荷が決まる。24時間運転が前提になり、電気代が効いてくる領域だ。
使い方は3ステップ
1. 部屋と室内の温湿度を入れる。 広さは m² と畳をボタンで切り替えられる(畳は中京間 1.6562 m² で換算)。天井高・室温・いまの相対湿度・目標の相対湿度を入れると、現在と目標の絶対湿度が g/kg(DA) で表示される。
2. 換気・発湿源・機器を指定する。 換気回数と外気の温湿度、部屋干しの洗濯物(脱水後の重さ)、在室人数、1日の運転時間、除湿方式の3択、電力単価。方式ボタンの下には3方式それぞれの実効能力係数が並ぶので、切り替える前に差が読める。
3. 結果を読む。 上から「必要除湿量」と「方式の適否」、続いて4つの内訳と積み上げ横棒の図、そして本命の「必要なカタログ定格能力」「推奨クラス」「実効能力係数」。その下に木造/プレハブ/鉄筋の畳数換算が並ぶ。買い物で照合するのはこの3つの畳数だ。到達時間・消費電力量・電気代・定格消費電力の目安もまとめて表示される。
どこから入れればいいか迷うときは、プリセット5件(6畳の部屋干し/冬の結露対策/洗面所・脱衣所/クローゼット・押入れ/地下室・ガレージ)を押すと14項目が一括で埋まる。そこから自分の部屋の値に直していくのが早い。
実際の入力と出力:7ケースの検証データ
すべて実装のエンジンに同じ入力を与えて出力を確認した値だ。電力単価は全ケース31円/kWh(全国家庭電気製品公正取引協議会の目安単価)。
ケース1:既定値の6畳(25℃ 75%→55%)
入力 6畳・天井2.4m/室内25℃ 75%→55%/換気0.5回/h・外気25℃80%/洗濯物なし・在室0人/8時間運転・コンプレッサー式
結果 絶対湿度は現在14.934 → 目標10.882、外気15.955 g/kg(DA)。内訳は換気1.742/洗濯物0/在室者0/初期水分0.116 で、合計 1.858 L/日。実効能力係数 0.8112 で必要定格は 2.29 L/日、推奨クラス5.0 L/日。カタログ表示なら木造3畳・プレハブ4畳・鉄筋6畳。1.191 kWh/日・36.9円/日(1,108円/月)。
解釈 洗濯物も人もいない部屋で、負荷の94%が換気で入ってくる水だ。必要定格2.29 L/日は市販の最小クラスにも届かないので、能力ではなくタンク容量や運転音で選んでよい。ここで「6畳だから木造6畳の機種」と考えると、必要量の倍以上を買うことになる。
ケース2:6畳に洗濯物4kgを干す(22℃ 80%→55%)
入力 6畳・天井2.4m/室内22℃ 80%→55%/換気0.5回/h・外気20℃85%/洗濯物4kg・0人/8時間運転・コンプレッサー式
結果 内訳は換気1.164/洗濯物 1.640/在室0/初期水分0.120、合計 2.924 L/日。f=0.6751 で必要定格 4.33 L/日、推奨クラス5.0。木造5畳・プレハブ8畳・鉄筋11畳。2.252 kWh/日・69.8円/日(2,094円/月)。目標到達まで約5.05時間。
解釈 ケース1と部屋は同じなのに合計が1.57倍になり、必要定格は1.89倍になった。増分の主因は洗濯物1.64 L/日で、内訳の56%を占める。室温が25℃から22℃に下がったぶん f も0.81から0.68へ落ちるので、負荷の増加と能力の低下が同時に効いてくる。梅雨の部屋干しが「湿度が下がらない」の常連なのはこの二重効果のせいだ。
ケース3:10℃で3方式を比べる(同一条件・このツールの核心)
入力 8畳・天井2.4m/室内10℃ 80%→55%/換気0.5回/h・外気5℃80%/洗濯物3kg・0人/8時間運転。方式だけを変える
結果 必要除湿量はどの方式でも 1.367 L/日(換気0.064/洗濯物1.230/初期水分0.073)。ここから先が割れる。
| 方式 | 実効能力係数 | 必要定格 | カタログ表示(木造) | 比消費電力 | 電気代 | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| コンプレッサー | 0.3111 | 4.39 L/日 | 6畳 | 1,671 Wh/L | 70.8円/日 | 使えるが不利 |
| デシカント | 1.0000 | 1.37 L/日 | 2畳 | 1,200 Wh/L | 50.9円/日 | 適した方式 |
| ハイブリッド | 1.0000 | 1.37 L/日 | 2畳 | 1,200 Wh/L | 50.9円/日 | 適した方式 |
解釈 取り除く水は同じ1.367 L/日なのに、買うべき定格が3.2倍違う。しかも「デシカントは電気代が高い」という通説がここでは逆転している。コンプレッサー式は消費電力がほぼ一定のまま取れる水だけが減るので、比消費電力が 520 / 0.3111 = 1671 Wh/L まで悪化するからだ。冬の脱衣所や北側の部屋で「コンプレッサー式は省エネ」を鵜呑みにすると、能力も電気代も両方負ける。
ケース4:冬の高気密マンション(換気由来がマイナスになる)
入力 8畳・天井2.4m/室内20℃ 70%→55%/換気0.1回/h・外気5℃60%/洗濯物なし・在室4人/12時間運転・デシカント式
結果 外気の絶対湿度は3.229 g/kg(DA)で、目標の7.996 g/kg(DA)より大幅に低い。内訳は換気 −0.436/在室者2.400/初期水分0.085 で、合計 2.048 L/日。f=1.0(デシカント)なので必要定格も 2.05 L/日、推奨クラス5.0。2.458 kWh/日・76.2円/日。
解釈 換気の項がマイナス、つまり換気そのものが水を持ち出している。負荷の主役は在室者4人が12時間で出す2.4 Lだ。この状態で除湿機の能力を上げるより、止めている24時間換気を回すほうが速くて安い。多くの計算式が換気項を必ず正で足すのに対し、本ツールがクリップしないのはこの結論を消さないためだ。なお窓の結露は室内の相対湿度とは別問題なので、そちらは露点で見る。
ケース5:洗面所を4時間だけ回す(断続運転のペナルティ)
入力 4m²・天井2.4m/室内24℃ 85%→60%/換気1.0回/h・外気25℃80%/濡れタオル2kg・0人/4時間運転・コンプレッサー式
結果 内訳は換気1.318/洗濯物0.820/初期水分0.055、合計 2.193 L/日。f=0.8340。24時間連続運転を前提にした必要定格は 2.63 L/日 だが、4時間で1日分を取り切るなら 15.78 L/日 が要る。6.0倍だ。推奨クラスは5.0で、木造3畳・プレハブ5畳・鉄筋7畳。42.4円/日。
解釈 換気扇が回る部屋は換気回数が大きく、除湿機を止めている20時間のあいだも水は入り続ける。それを4時間に押し込もうとすれば、必要な瞬間能力は跳ね上がる。15.78 L/日は家庭用の上位機クラスで、洗面所に置くサイズではない。現実解は運転時間を延ばすか、入浴直後だけ換気扇を回して湿気を外へ出してしまうことになる。
ケース6:地下室を24時間回す(電気代が主役になる)
入力 20畳(33.12m²)・天井2.4m/室内18℃ 85%→60%/換気0.3回/h・外気25℃75%/発湿源なし/24時間運転・ハイブリッド式
結果 内訳は換気 4.971/初期水分0.311 で、合計 5.283 L/日。ハイブリッドは f=max(0.5737, 1.0)=1.0 なので必要定格も 5.28 L/日、推奨クラスは5.6 L/日。木造7畳・プレハブ10畳・鉄筋13畳。到達まで11.89時間、6.339 kWh/日・196.5円/日(5,896円/月)。
解釈 負荷の94%が換気由来で、外の湿った空気が入り続ける限り運転は終わらない。ここでハイブリッドは能力こそ定格を維持するが、室温18℃ではデシカント運転側に入るため比消費電力は1,200 Wh/Lで計算される。カタログの定格消費電力(27℃/60%のコンプレッサー運転の値)から想像する電気代より高くつく。地下室は能力より、開口部を塞いで換気量を減らすほうが投資対効果が高い。
ケース7:在室4人・洗濯物6kgのリビング(クラスが決まる例)
入力 12畳・天井2.4m/室内26℃ 78%→55%/換気0.5回/h・外気28℃85%/洗濯物6kg・在室4人/16時間運転・コンプレッサー式
結果 内訳は換気6.050/洗濯物2.460/在室者3.200/初期水分0.284、合計 11.994 L/日。f=0.8617 で必要定格 13.92 L/日、推奨クラス 14.0 L/日。カタログ表示なら木造18畳・プレハブ27畳・鉄筋35畳。7.238 kWh/日・224.4円/日(6,731円/月)。到達まで19.26時間。
解釈 ここまでで唯一、能力クラスがはっきり決まったケースだ。「12畳のリビング」という情報だけで木造12畳クラスの機種を選ぶと必要量に届かない。カタログでは木造18畳以上と書かれた機種、つまり14 L/日クラスを探すことになる。到達に19時間かかるのは、運転中も換気と洗濯物と人から水が入り続けるためで、この規模になると連続運転が前提になる。
実効能力係数はどう決めたか
手法比較:コイル温度モデルか、吸込絶対湿度比か
コンプレッサー式が低温で弱ることは誰でも知っているが、「何倍弱るのか」を数字にするには、カタログ以外の一次資料が要る。候補は2つあった。
(A) コイル表面の飽和との差モデル。 除湿量は吸込空気の絶対湿度と、冷却コイル表面の飽和絶対湿度の差に比例する、という物理的に素直な2パラメータモデル(capacity ∝ x_in − x_coil)。ところがこれを検証しようとして詰まった。米国DOEが2019年に可搬型除湿機の試験温度を80°F(26.7℃)から65°F(18.3℃)へ変更した際、ENERGY STAR が公表した旧定格→新定格の換算表(70パイント→40〜45パイント等、比率0.58〜0.67)を再現できるコイル温度を逆算すると、−25℃以下という非現実的な値を要求してきた。実態の落ち方はこのモデルでは説明できない。
(B) 吸込空気の絶対湿度比モデル。 除湿量は吸込空気が持っている水の量に比例する、という1パラメータモデル(capacity ∝ x_in)。同じDOEの換算表に当てると x(18.3℃,60%) / x(26.7℃,60%) = 0.5954 を返す。公表比率の中央値0.60〜0.61と2%以内で一致した。
調整パラメータを持たないモデルが公表換算表をこの精度で再現するので、(B) を採用した。
f_compressor = x(室温, 目標相対湿度) / x(27℃, 60%) x(27,60) = 0.0134142 kg/kg(DA)
コンプレッサー: f = f_comp, 比消費電力 = 520 / f_comp [Wh/L]
デシカント : f = 1.0, 比消費電力 = 1200 [Wh/L]
ハイブリッド : f = max(f_comp, 1), 比消費電力 = f_comp≧1 なら 590、そうでなければ 1200
分母の x(27,60) が JIS C 9617 の標準試験条件、つまりカタログの定格除湿能力が測られた空気の状態だ。デシカント式にも室温依存はあるはずだが、ロータの吸着等温線が一次資料で取れなかったため f=1.0 固定とし、その旨をツール側の注記にも書いてある。着霜・除霜による追加の低下も含んでいないので、低温側の表示は楽観に出る。だからこそ低温では警告を出す作りにした。
単位床面積当たり除湿負荷は、カタログ25組から逆算した
JIS C 9617 附属書1表1 の数値そのものは、公開されている規格本文のテキスト層に含まれていない(表が画像になっている)。そこで、メーカー5社が公表している「定格除湿能力 [L/日] → 適用床面積 [m²]」の組から原単位を逆算した。Panasonic F-YZX60B(5.6L→12/18/23m²)、F-YHVX120(9.0L→19/29/38m²、10.0L→21/32/42m²)、三菱電機 MJ-M120ZX(11L→23/35/46m²、12L→25/38/50m²)、コロナ BD-H1826(16.0L→33/51/67m²)、アイリスオーヤマ IJD-I50(5.0L→10/16/21m²)。
結果、21組すべてが次の3つの原単位で割った値の四捨五入と完全に一致した。木造和室 0.480、プレハブ洋室 0.315、集合住宅洋室 0.240(いずれも L/(d·m²))。5社が独立に同じ値を使っている以上、これが附属書1の値と考えて差し支えない。畳への換算係数も同じ21組で検証し、エアコンでよく使う1.62では大容量機で1畳ずれ、中京間の 1.6562 m² なら全組が一致した。
方式別の比消費電力も同じやり方だ。定格能力と除湿時の定格消費電力から W × 24 / 能力 を出すと、コンプレッサー式は413〜770と散らばるので中央値付近の520を、デシカント式は1221と1200の2機種から1200を、ハイブリッド式は588から590を採った。機種差が大きい量なので、電気代は桁を見る値と考えてほしい。
計算例:ケース1をステップで追う
§3で出した絶対湿度の値をそのまま使う。6畳=6 × 1.6562 = 9.9372 m²、容積 V = 9.9372 × 2.4 = 23.85 m³。
1. 絶対湿度 x_now = 14.934, x_tgt = 10.882, x_out = 15.955 [g/kg(DA)]
2. 換気由来 0.5 × 23.849 × 1.2 × (15.955 − 10.882)/1000 × 24 = 1.742 [L/日]
3. 洗濯物・在室者 0 kg → 0.000、0 人 → 0.000 [L/日]
4. 初期水分 23.849 × 1.2 × (14.934 − 10.882)/1000 = 0.116 [L]
5. 合計負荷 1.742 + 0 + 0 + 0.116 = 1.858 [L/日]
6. 実効能力係数 f = 10.882 / 13.414 = 0.8112
7. 必要定格 1.858 / 0.8112 = 2.29 [L/日]
8. カタログ換算 2.29 / 0.480 = 4.77 m² → 4.77 / 1.6562 = 2.9 → 木造3畳
2.29 / 0.315 = 7.27 m² → プレハブ4畳
2.29 / 0.240 = 9.54 m² → 鉄筋6畳
6番目の割り算がこのツールの本体だ。「1日に取り除くべき水 1.858 L」と「買うべきカタログ定格 2.29 L/日」は別の数字で、その差は室温25℃・目標55%という実使用条件が、JISの27℃/60%より水を取りにくい空気だから生まれている。逆に猛暑日の30℃80%のような条件では f が1.0931になり、カタログ定格を上回る水が取れる。カタログの数字は上限でも下限でもなく、ある1点の条件での値でしかない。
電気代は「取り除く水の量 × 比消費電力」で出しているので、運転時間を変えても変わらない。同じ量の水を取り出すには、いつ取り出しても同じだけの電力量が要るからだ。運転時間が効くのは、在室者の発湿量と「その時間で取り切るなら定格はいくら必要か」の側になる。
「取り除く水の量」と「買うべき定格」を別々に出す
既存の解説が「除湿量◯L/日 → 木造◯畳」の対応表で止まっていることは前半で書いたとおり。ここではその先を本ツールがどう埋めているかだけを書く。
このツールが既存の解説と違うのは、同じ L/日 という単位の数字を2つ、別のものとして出すところにある。ひとつは部屋から1日に取り除くべき水の量。もうひとつは、その水を取るためにカタログのどの数字の機種を買えばいいか、という定格除湿能力。この2つは一致しない。25℃で目標55%なら実効能力係数は 0.8112、つまりカタログ定格の81%しか出ない。10℃まで下がると 0.3111 まで落ち、負荷の3倍以上の定格が必要になる。「一晩回しても湿度が下がらない」の正体はたいていここで、必要な水の量ではなく定格への割り戻しを誰も計算していないから起きる。
除湿機 選び方 畳数 — 方式の有利不利は室温で入れ替わる
方式の選択も数値で割り切れるようにした。同じ部屋・同じ負荷でも、コンプレッサー式・デシカント式・ハイブリッド式では必要な定格と1日の電気代が別々の答えになり、どれが有利かは室温で入れ替わる。方式のボタンを押し替えれば、逆転する境目がその場で見える。
海外の Dehumidifier Size Calculator 系は、部屋の広さと「moderately damp / very damp」といった湿り具合の主観選択だけで決めるものが大半で、外気条件も換気回数も部屋干しの洗濯物も入らない。メーカーの選定ガイド(Panasonic の除湿機の選び方 など)は対応表としては正確だが、その表がどんな空気を前提にした値なのかまでは書かれていない。
湿気まわりのツールは役割で分けてある。加湿側の容量選定は必要加湿量計算・加湿器容量選定ツール、湿り空気の状態量そのものを追いたいときは湿り空気線図計算ツール、窓ガラスの表面結露は結露・露点温度チェッカー、壁の中で起きる結露は内部結露シミュレーター、部屋干しが何時間で乾くかは洗濯物乾燥時間シミュレーター、エアコン側の能力選定はエアコン能力選定シミュレーター。このツールは「除湿機を何L/日で買うか」の一点だけを担当している(リンクはまとめに置いた)。
27℃・湿球21.2℃という半端な試験条件の出どころ
JIS C 9617 の試験条件はなぜ「湿球」で書かれているのか
カタログの定格除湿能力は JIS C 9617:1992 電気除湿機 の標準試験条件で測る。規格の本文を開くと、条件は「乾球27℃±0.3、湿球21.2℃±0.2」と書かれている。相対湿度ではなく湿球温度で規定されているのがミソで、湿球は濡らしたガーゼを巻いた温度計で直接読めるから、試験室が違っても再現しやすい。この組み合わせを換算すると相対湿度は約60%になる。つまり世間で言う「27℃60%」は規格が書いた数字そのものではなく、湿球条件から換算された結果のほうだ。21.2℃という半端さは、切りのいい湿度から決めたのではなく、測る側の都合で決まった値だと分かる。
規格には標準条件のほかに、過負荷(20℃/15℃)、低温A(5℃/4℃)、低温B(0℃/−1℃)の温湿度条件も並んでいる。ただし、ここが肝心なのだが、低温条件で測るのは能力ではない。低温性能試験(8.10)は「霜が最も多く付きやすい状態」で3時間運転し、自動除霜装置のない機は蒸発器に霜と氷が発生しないこと、除霜装置をもつ機は除霜に費やす時間の合計が試験時間の30%を超えないこと——つまり凍りつかないかどうかだけを見る。除湿水量を測って L/日 を出すのは標準条件の試験(8.4)だけだ。
規格が定めているのは、低温条件Aで低温性能を保証する機種を A形、より厳しい低温条件Bで保証し「冬期、気温の低い場所でも除湿性能を発揮できる」機種を B形 と呼ぶ、という形式の区分までである。冬に何L取れるかという数字は、規格上どこにも測る決まりがない。だから誰もカタログに書けないし、書いていないものを読者が読み取れるはずもない。このツールが実効能力係数を推定という形で持たざるを得ないのは、この空白を埋めるためだ。
「70パイントの除湿機が一晩で40パイントになった」事件
米国では2019年、可搬型除湿機の試験温度が80°F(26.7℃)から65°F(18.3℃)へ引き下げられた。ENERGY STAR の解説ページには旧定格と新定格の換算表が載っていて、70パイント/日と書かれていた機種は40〜45パイント、90パイントは55パイント、50パイントは30パイントへ書き換わった。機械の中身は1ミリも変わっていないのに、カタログの数字だけが一斉に4割落ちたわけだ。
背景は単純で、除湿機が本当に置かれるのは地下室のような涼しい場所であって、80°Fで測った数字は現実離れしているという判断だった。試験条件を「その機械が実際に置かれる空気」に寄せた、という点で示唆的な改定だと思う。日本のJISは1992年制定のまま27℃で走り続けている。
畳数表記は中京間で丸められている
除湿機の「木造7畳(12m²)」という表記、括弧の中の m² から係数を逆算すると1畳=1.6562m²、つまり中京間(182cm×91cm)で丸めていることが分かる。エアコンの畳数表記でよく使われる1.62ではない。畳は江戸間なら約1.55m²、京間なら約1.82m²と地域差が大きく、同じ「6畳」でも実面積は2割近く違う。このツールで畳を選んだときも中京間で換算しているので、間取り図に m² が載っているならそちらを入れたほうが正確になる。
使いこなしのコツ
- 洗濯物の真下ではなく、風が下端に当たる位置に置く — 除湿機は湿った空気を吸って乾いた風を出す機械で、その風が濡れた面に当たらないと乾燥は進まない。洗濯物の下から吹き上げる配置が基本。サーキュレーターで空気を回すと、同じ能力でも仕上がりが早くなる。
- 短い時間で取り切ろうとしない — 電気代は「取り除いた水の量 × 方式ごとの比消費電力」で決まるので、同じ水を抜くなら8時間でも24時間でも金額はほとんど変わらない。逆に短時間で1日分を取り切る前提にすると必要な定格が跳ね上がる。使用例の洗面所のケースがその極端な例になっている。
- 冬は除湿機より換気のほうが効くことがある — 外気は冷たいほど乾いているので、換気由来の内訳がマイナスになったら、換気そのものが除湿として働いている。この状態で能力の大きい機種を足しても効果は薄い。
- タンクではなく連続排水にする — 満水で止まっている間も、換気や洗濯物からの水は入り続ける。ホースを洗面台や排水口へ回せる置き場所なら、そのほうが結果的に湿度が安定する。
- 湿度計は吹き出し口から離して置く — 相対湿度は温度で読みが変わるため、除湿機の風が当たる場所や窓際では部屋の代表値にならない。人がいる高さで、温度計と同じ場所の値を見る。
よくある質問
カタログの畳数どおりに買ったのに、湿度が下がらないのはなぜ?
カタログの「木造◯畳」は、JIS C 9617 附属書1 の一般条件——水蒸気を出す器具が特になく、開口部は人の出入り以外は閉じていて、外気80%の日に室内70%を60%程度にできる——を前提にした数字(原単位そのものは前半で扱った)。部屋干しをした時点で、その前提から外れている。脱水後の洗濯物は1kgあたり約 0.41 L の水を室内へ出すし、人がいれば1人あたり 50 g/h が上乗せされる。ツールに洗濯物と在室人数を入れると、同じ広さの部屋でも「カタログ上で何畳と書かれた機種が要るか」がどれだけ動くか分かる。
運転時間を変えても電気代が変わらないのはなぜ?
電気代を「取り除く水の量 × 水1Lあたりの消費電力量」で計算しているからだ。部屋に入ってくる水の量が同じなら、それを8時間で抜いても24時間かけて抜いても、抜く水の総量は変わらず、必要な電力量も変わらない。運転時間が効いてくるのは金額ではなく必要な定格のほうで、「その時間で1日分を取り切るなら何L/日の機種が要るか」という側の数字が動く。実機では立ち上がりの無駄や止めている間の再加湿があるぶん、短時間運転のほうが不利になりやすい。表示している電気代は連続運転寄りの見積もりと考えてほしい。
デシカント式は本当に電気代が高い?
条件による。水1Lを取り除くのに要る電力量で比べると、デシカント式は約 1200 Wh/L でほぼ固定なのに対し、コンプレッサー式は 520 / f_comp Wh/L ——実効能力係数が下がるほど増えていく。27℃前後ならコンプレッサー式の圧勝だが、室温10℃では f_comp が 0.3111 まで落ちて比消費電力が 1671 Wh/L になり、順位が入れ替わる。使用例に置いた10℃の3方式比較でも、1日の電気代はデシカント側のほうが安くなっている。「デシカントは電気代が高い」は夏の話であって、冬の脱衣所では逆になる。
除湿機とエアコンの除湿(ドライ)はどちらが得?
室温も下げたい夏場はエアコンに分がある。冷房と除湿を同じ熱交換器でまかなえるうえ、取り除いた熱を室外機から屋外へ捨てられるからだ。一方で、室温を下げたくない時期(梅雨の朝晩や冬の結露対策)や、そもそもエアコンの無い洗面所・地下室・押入れは除湿機の領分になる。このツールはエアコンの除湿能力までは扱っていない。冷房能力そのものの選定は別のツールに分けてあるので、まとめのリンクから移動してほしい。
タンクが満水になるまでの時間は出せる?
出していない。1日に取り除く水の量は計算しているのでタンク容量で割れば概算はできるが、実機は満水センサの位置やタンク形状で有効容量が変わり、機種ごとの差がそのまま誤差になる。精度を装うより、必要除湿量を見て「1日これだけ出るなら、この容量では朝晩2回は捨てることになる」と当たりを付けるほうが実用的だと考えている。置き場所に排水口があるなら、そもそも連続排水にしてしまうのが早い。
入力した数値はどこかに送信される?
されない。計算はすべてブラウザの中で完結していて、部屋の広さも温湿度も電力単価もサーバーへは送っていないし、保存もしていない。ページを閉じれば入力内容は消える。会員登録もアプリのインストールも不要なので、家電量販店の売り場でスマホから条件を入れて、目の前の値札と見比べる使い方もできる。
まとめ
部屋から抜くべき水の量と、そのために買うべきカタログの数字は、同じ L/日 でも別物だ。定格は27℃60%という夏寄りの空気で測った値で、実際に除湿機を使う空気はたいていそれより冷たい。広さと温湿度、換気回数、部屋干しの洗濯物と在室人数を入れれば、必要除湿量・買うべき定格・カタログ表示に換算した畳数・1日の電気代まで一度に出る。買う前の1分で試してみて。
加湿側の容量選定は必要加湿量計算・加湿器容量選定ツール、絶対湿度や露点そのものを詳しく見たいときは湿り空気線図計算ツール、窓の結露が気になるなら結露・露点温度チェッカー、壁の中の結露は内部結露シミュレーター、部屋干しが何時間で乾くのかは洗濯物乾燥時間シミュレーター、エアコン側の能力はエアコン能力選定シミュレーターへ。
係数や前提について気づいたこと、うまく合わなかった実測値があれば、お問い合わせページから教えてほしい。
Mahiro
Mahiro Appの開発者。梅雨に買ったコンプレッサー式の除湿機を冬の脱衣所へ持っていって水が溜まらず、取説の隅にあった「室温27℃・相対湿度60%における値」という注記を読んで初めて意味が分かった。その悔しさをそのまま計算式にしたのがこのツール。
運営者情報を見る