疲労寿命シミュレーター

SN曲線・修正グッドマン線図・マイナー則で繰返し荷重の疲労寿命を即判定

材料ベース(σa・σm と修正グッドマン/ソダーバーグ線図)と、IIW F-class/JSSC 等級ベース(ΔS)の両モードで安全率と推定寿命を計算。マイナー則の累積損傷度評価にも対応。

シナリオプリセット

材料条件

汎用鋼。軸・歯車に多用

評価条件

繰返し応力の片振幅

引張が正

修正グッドマン線図

5010015020025030035040045050055060065070075050100150200250300350400平均応力 σm (MPa)応力振幅 σa (MPa)σe=310σB=690修正グッドマン線

判定結果

安全率 S

1.92

安全
等価応力振幅 σa_eq
161.7 MPa
推定寿命 N
∞(疲労限度以下)

疲労限度以下のため無限寿命

本ツールの計算結果は参考値です。実際の疲労設計では切欠き係数・表面仕上げ・寸法効果・環境因子などの補正が必要です。安全性の最終判断は専門の技術者が行ってください。

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関連ツール

回転軸がある日突然折れる——疲労破壊という静かな破滅

金属は曲げても戻る。引っ張っても耐える。でも「繰り返す」と、ある日なんの前触れもなく割れる。これが疲労破壊だ。見た目には何の変形もない部品が、10万回、100万回と応力を受け続けた末にパキッと折れる。機械設計をやっていれば、この恐怖は他人事じゃない。

このツールは、応力振幅 σa と平均応力 σm を入力するだけで修正グッドマン線図上にプロットして安全率と推定寿命を返す「材料ベース」モードに加え、IIW F-class(FAT40〜125)や JSSC A〜H 等級を選んで応力範囲 ΔS だけで寿命判定できる「疲労等級ベース」モードを搭載した。滑らかな回転軸の母材から、止端破壊を起こす隅肉溶接継手まで、同じ画面内で評価を切り替えられる。複数荷重のマイナー則累積損傷にも両モードで対応する。

なぜ疲労寿命シミュレーターを作ったのか

手計算グッドマン線図の苦痛

修正グッドマン線図の評価自体はシンプルだ。σa/(1 − σm/σB) で等価応力振幅を出して、疲労限度で割るだけ。でも実務では材料を変え、荷重条件を振り、安全率の感度を見る——何十パターンも手計算するのは正直つらい。Excelで組むにしても、線図の可視化まで作り込むのは面倒だった。

累積損傷の計算が特に面倒

単一応力ならまだいい。問題はマイナー則だ。荷重パターンごとにBasquin式で寿命を求め、繰返し数との比をとり、全パターン合算する。手計算だとミスの温床になる。「パターンを1つ追加して再計算」がワンタップでできるツールが欲しかった。

溶接継手の評価が別枠

もうひとつ困ったのが溶接継手。母材と同じ m≒10 の S-N 曲線を当てると寿命を大幅に過大評価してしまう。国際規格では IIW の FAT 等級が事実上の標準で、日本では JSSC や道路橋示方書の A〜H 等級が主流。でも既存の無料ツールは母材ベースばかりで、ΔS と FAT 値を入れるだけで評価できるものが見当たらなかった。自分で両対応を実装することにした。

既存ツールの物足りなさ

「グッドマン線図 ツール」で検索しても、インタラクティブに操作できるものはほとんど見つからない。CAEソフトは高価で大げさだし、論文PDFの図を眺めても設計判断には使えない。材料プリセット+等級プリセット+SVG線図+累積損傷の全部入りを自分で作ることにした。

疲労破壊とは何か——SN曲線と疲労限度の基礎

疲労破壊 とは

金属材料に繰返し応力を加え続けると、静的な引張強さよりはるかに低い応力レベルで破壊が起きる。これが疲労破壊だ。日常的なたとえでいえば、針金を何度も同じ場所で曲げ伸ばしすると折れるのと同じ原理。微小なき裂が発生し、繰返しのたびに少しずつ進展し、ある臨界長さに達した瞬間に一気に破断する。

SN曲線 とは

SN曲線(S-N curve)は横軸に繰返し数 N、縦軸に応力振幅 S をとったグラフだ。試験片を一定の応力振幅で繰り返し負荷し、何回で折れるかをプロットしていく。応力が高いほど少ない回数で壊れ、低いほど長持ちする。

鋼の場合、繰返し数が10^7回あたりで曲線が水平に近づく。この水平部分の応力を**疲労限度(σe)**と呼ぶ。疲労限度以下の応力なら、理論上は何回繰り返しても壊れない(無限寿命)。

応力振幅 S
  │
  │\
  │  \
  │    \___________  ← 疲労限度 σe
  │
  └──────────────── 繰返し数 N(対数軸)
       10^3  10^5  10^7

ただしアルミニウム合金など非鉄金属には明確な疲労限度がない場合もあり、その場合は10^7回や10^8回時点の応力を便宜的に疲労限度とする。

参考: 疲労 (材料) - Wikipedia

疲労限度 求め方

疲労限度の正確な値は回転曲げ疲労試験(JIS Z 2274)で求めるが、簡易的には引張強さ σB の約0.4〜0.5倍(鋼の場合)で推定できる。本ツールのプリセット値もこの範囲に基づいている。

Basquin 指数 m——S-N曲線の傾き

高サイクル疲労領域のS-N曲線は、両対数表示でほぼ直線になる。この直線の傾きを表すのが Basquin 指数 m だ。式で書くと σ^m × N = 定数 で、m が大きいほど傾きが緩やか(応力変動に対して寿命が鈍感)、小さいほど急勾配(応力を少し上げただけで寿命が激減する)。

部材の種類で代表的な m の値はまったく違う。

  • 母材・滑らか試験片: m ≒ 10(応力集中なし、鋼の典型値)
  • 切欠きあり母材: m ≒ 5
  • 溶接継手(止端破壊): m = 3(IIW・JSSC の標準値)

溶接継手の m=3 は母材の m≒10 と比べて3倍以上急勾配で、応力範囲が 2倍 になれば寿命は 2³=8 倍短くなる。同じ条件で母材なら 2¹⁰=1024 倍の差が出る。溶接部を母材と同じ S-N 曲線で評価してしまうと寿命を過大評価するので、継手は等級モード(m=3)で評価するのが原則だ。

なぜ疲労設計が重要か——事故と規格が語る現実

コメット号の教訓

1954年、世界初のジェット旅客機デ・ハビランド コメットが相次いで空中分解した。原因は客室窓角部の疲労き裂。与圧・減圧の繰返しで窓の角にき裂が発生し、進展して胴体が破裂した。この事故をきっかけに航空機の疲労設計基準が根本的に見直され、損傷許容設計(Damage Tolerance)の概念が確立された。

規格が求める疲労評価

日本のJIS規格でも疲労設計は多くの分野で要求されている。

  • JIS B 2704(コイルばね): 疲労限度線図による設計が必須
  • JIS B 1082(ボルト): 繰返し荷重を受けるボルトの疲労強度評価
  • 道路橋示方書 II 鋼橋編: 溶接継手を A〜H 等級に分け、ΔS 基準で疲労照査
  • JSSC「鋼構造物の疲労設計指針・同解説」: 道路橋示方書と整合した等級体系で、一般鋼構造の疲労評価に使われる

安全率が1.0を下回る設計は、静的には持っても繰返し荷重で壊れる。逆に過剰な安全率は重量・コスト増に直結する。適切な疲労評価は「壊れない設計」と「軽量化」の両立に不可欠だ。

数値の感覚

S45C(σB=690MPa, σe=310MPa)で応力振幅150MPa・平均応力100MPaの場合、修正グッドマン線図での安全率は約1.77。これは「安全」判定だが、切欠きや表面粗さを考慮するとマージンは減る。同じ条件でSUS304(σe=230MPa)に変えると安全率は約1.18——「注意」レベルまで下がる。材料選定一つで疲労寿命は劇的に変わる。

繰返し荷重と戦う現場——こんな場面で使える

回転軸・シャフトの疲労評価

モーターや減速機の出力軸は回転曲げ応力を受け続ける。1分間に1000回転なら、1日で144万回。設計段階で安全率を確認しておかないと、数ヶ月で折損する。

ばね・弾性部品の寿命推定

圧縮ばねやトーションバーは繰返し変形が本業。荷重パターンが複数ある場合(通常走行+急ブレーキなど)はマイナー則での累積損傷評価が有効だ。

溶接継手の疲労照査(IIW / JSSC 等級ベース)

溶接部は応力集中が大きく、母材より疲労強度が低い。鉄骨建屋のブラケット、橋梁のガセット、プラント配管の取付溶接——このあたりは等級モードで評価する。隅肉溶接の止端破壊なら IIW FAT71〜80 相当、全溶込み突合せなら FAT90〜112 あたりが目安になる。

圧力容器の繰返し与圧

ボイラーや化学プラントの圧力容器は、起動・停止のたびに内圧が変動する。年間300回の起動停止で20年運転すれば6000回。低サイクル疲労の領域に入るケースもある。

基本の使い方

3ステップで疲労安全率がわかる。

Step 1: 評価系を選ぶ

まず「材料ベース(σa)」か「疲労等級(ΔS)」を切り替える。滑らかな軸・ばね・ボルトは材料ベース、溶接継手は疲労等級ベースが基本。

Step 2: 条件を入力する

材料ベースなら材質プリセット(または σB・σe・σy を直接入力)と応力振幅 σa・平均応力 σm を入れる。修正グッドマン/ソダーバーグ線図の切替も可能。 疲労等級なら IIW FAT40〜125 か JSSC A〜H から選択し、応力範囲 ΔS を入れる。

「累積損傷」モードを選べば、複数の荷重パターンをマイナー則で合算できる。

Step 3: 線図と結果を確認する

材料ベースでは修正グッドマン/ソダーバーグ線図に応力点がプロットされ、安全率・等価応力振幅・推定寿命がリアルタイム表示される。等級ベースでは ΔS_ref と ΔS の比が安全率、Basquin 式から推定寿命 N が出る。CAFL(定振幅疲労限度)以下なら無限寿命判定になる。

具体的な使用例——8つのケースで検証

ケース1: S45Cシャフトの回転曲げ(材料ベース)

入力値:

  • 材料: S45C(σB=690MPa, σe=310MPa)
  • 応力振幅 σa: 200 MPa
  • 平均応力 σm: 50 MPa

計算結果:

  • 等価応力振幅 σa_eq: 215.6 MPa
  • 安全率 S: 1.44
  • 推定寿命: ∞(疲労限度以下)

解釈: 安全率1.44は「注意」領域。σa_eq=215.6 は疲労限度 310 MPa を下回るため理論上は無限寿命だが、切欠き係数(Kt=1.5程度)を考慮すると実効応力が σE を超える可能性がある。応力低減か材料変更を検討すべきケース。

ケース2: SCM440高強度ボルトの繰返し引張(材料ベース)

入力値:

  • 材料: SCM440(σB=980MPa, σe=440MPa)
  • 応力振幅 σa: 120 MPa
  • 平均応力 σm: 300 MPa

計算結果:

  • 等価応力振幅 σa_eq: 172.9 MPa
  • 安全率 S: 2.54
  • 推定寿命: ∞(疲労限度以下)

解釈: 安全率2.54で「安全」判定。高強度鋼の恩恵で余裕がある。ボルトの場合は締付力が平均応力に相当するため、適正トルク管理が前提。

ケース3: A5052アルミ部材の振動疲労(材料ベース)

入力値:

  • 材料: A5052(σB=230MPa, σe=110MPa)
  • 応力振幅 σa: 80 MPa
  • 平均応力 σm: 30 MPa

計算結果:

  • 等価応力振幅 σa_eq: 92.0 MPa
  • 安全率 S: 1.20
  • 推定寿命: ∞(疲労限度以下)

解釈: 安全率1.20は注意域。アルミは明確な疲労限度を持たないため、カタログ上の「無限寿命」判定でも長期間の繰返しでは超高サイクル疲労(VHCF)で破壊する可能性がある。設計寿命を10^9 回などで区切るのが安全。

ケース4: 累積損傷評価(材料ベース・マイナー則)

入力値:

  • 材料: SS400(σB=400MPa, σe=180MPa)
  • パターン1: σa=300MPa, σm=50MPa, n=1,000回
  • パターン2: σa=250MPa, σm=50MPa, n=5,000回
  • パターン3: σa=200MPa, σm=50MPa, n=10,000回

計算結果:

  • P1: σa_eq=342.9 → N≈15,900 → D=0.063
  • P2: σa_eq=285.7 → N≈98,400 → D=0.051
  • P3: σa_eq=228.6 → N≈914,000 → D=0.011
  • 累積損傷度 D: 0.125

解釈: D=0.125で「余裕あり」。寿命を支配しているのは最も高応力なP1で、全損傷の約半分を占める。実務では P1 の応力を下げるか回数を減らすのが最も効く。m=10 の鋭いS-N曲線のため、σaが少し下がるだけで寿命は劇的に延びる。

ケース5: IIW FAT80 隅肉溶接継手(等級ベース)

入力値:

  • 等級: IIW FAT80(全溶込み突合せ・止端仕上げなし、ΔS_ref=80 MPa)
  • 応力範囲 ΔS: 100 MPa

計算結果:

  • 安全率 S: 0.80(= 80 / 100)
  • CAFL: 46.8 MPa
  • 推定寿命 N: 1.02×10⁶ 回(= 2×10⁶ × (80/100)³)

解釈: 安全率が1.0未満なので2×10⁶回を待たずに疲労破壊する計算になる。溶接ビードを機械研削して FAT90 以上の等級に上げるか、板厚を増やして ΔS を 80MPa 未満に下げるのが対策。母材同じ応力(σa=50, σm=0 相当)でS45Cなら寿命∞だが、隅肉溶接になると100万回持たない——これが m=3 の怖さだ。

ケース6: JSSC E等級(道路橋の標準的な隅肉溶接継手)

入力値:

  • 等級: JSSC E等級(隅肉溶接・止端破壊、ΔS_ref=80 MPa)
  • 応力範囲 ΔS: 60 MPa

計算結果:

  • 安全率 S: 1.33(= 80 / 60)
  • CAFL: 46.8 MPa
  • 推定寿命 N: 4.74×10⁶ 回(= 2×10⁶ × (80/60)³)

解釈: 安全率1.33で「注意」。設計寿命 100 年分の ΔS=60 MPa を 4.74×10⁶ 回持たせる計算。年間の実応力繰返しが 5×10⁴ 回以内なら 100 年はクリアする。E等級は国内の橋梁・鉄骨で最も頻出する継手クラスなので、値の肌感を覚えておくと便利。

ケース7: JSSC A等級(母材・圧延まま)

入力値:

  • 等級: JSSC A等級(母材・応力集中なし、ΔS_ref=190 MPa)
  • 応力範囲 ΔS: 120 MPa

計算結果:

  • 安全率 S: 1.58
  • CAFL: 111.1 MPa
  • 推定寿命 N: 7.94×10⁶ 回

解釈: 母材領域は等級が上位(A)なので同じ ΔS でも寿命が1桁以上長い。設計する構造物では「母材部の ΔS」と「溶接部の ΔS」を別々に見積もって、それぞれ A等級と E〜F等級で照査するのが王道だ。

ケース8: 多軸荷重を受ける圧力配管の等価応力評価(材料ベース)

入力値:

  • 材料: SUS316L(σB=480MPa, σe=210MPa)
  • 内圧変動による周方向応力振幅: 90 MPa
  • 熱応力による軸方向応力振幅: 60 MPa
  • 等価応力振幅(von Mises換算): σa = √(90² + 60² − 90×60) ≈ 79.4 MPa
  • 平均応力 σm: 120 MPa(常時内圧による)

計算結果:

  • 等価応力振幅 σa_eq: 105.9 MPa
  • 安全率 S: 1.98
  • 推定寿命: ∞(疲労限度以下)

解釈: 安全率1.98で「安全」判定。多軸荷重の場合、個々の応力成分だけを見ると見落としがちだが、von Mises等価応力に変換してから本ツールに入力することで統一的に評価できる。なお、配管の場合は腐食環境下での疲労(腐食疲労)も考慮が必要で、腐食環境では疲労限度が30〜50%低下することがある。SUS316Lの耐食性を加味しても、σeを150MPa程度に下げた保守的な評価を推奨する。

仕組み・アルゴリズム——4つの手法の組み合わせ

修正グッドマン線図 vs ソダーバーグ線図

材料ベース モードは2種類の疲労限度線図に対応している。

修正グッドマン線図は、応力振幅 σa を縦軸、平均応力 σm を横軸にとり、(0, σe) と (σB, 0) を結ぶ直線を安全限界線とする。この線の内側が安全領域だ。

等価応力振幅 σa_eq = σa / (1 - σm / σB)
安全率 S = σe / σa_eq

ソダーバーグ線図は、グッドマン線図の σB を降伏点 σy に置き換えたもの。より保守的な評価になるため、永久変形を許容しない部品の設計に使われる。

等価応力振幅 σa_eq = σa / (1 - σm / σy)

なぜグッドマンをデフォルトにしたか——実務で最も広く使われているからだ。ソダーバーグは保守的すぎて過剰設計になりがちだが、安全最優先の用途では選択できるようにした。

Basquin式による寿命推定(材料ベース・m=10)

SN曲線の高サイクル領域(10^3〜10^7回)は、Basquin式で近似できる。

N = N_e × (σe / σa_eq) ^ m

N_e = 10^7(疲労限度の基準繰返し数、材料ベース)
m = 10(鋼の典型値、材料ベース)

たとえば σe=180MPa, σa_eq=342.9MPa(ケース4 P1)の場合:

N = 10^7 × (180 / 342.9)^10
  = 10^7 × 0.5250^10
  ≈ 10^7 × 1.59×10⁻³
  ≈ 1.59×10^4 回

式の向きに注意——σa が σe より大きい(つまり疲労限度を超える)とき、(σe/σa) < 1 なので m 乗すると小さな値になり、N は基準繰返し数 Ne より短くなる。これが「応力が高いほど寿命が短い」という直感と整合する。

IIW F-class / JSSC 等級による ΔS 評価(m=3)

溶接継手のS-N曲線は母材とまったく違う傾き(m=3)を持つため、IIW(国際溶接学会)と JSSC(日本鋼構造協会)はそれぞれ標準化された等級体系を整備している。

IIW F-class(FAT値): FAT X は「2×10⁶ 回で破壊する応力範囲 ΔS [MPa]」と定義される(生存確率 97.7%)。FAT40〜FAT160 まで23等級が規定されており、継手形状・溶接法・仕上げ方法で等級が決まる。FAT80 なら ΔS_ref=80 MPa @ N=2×10⁶、m=3 の S-N 曲線を使う。

JSSC 等級(A〜H): 道路橋示方書 II 鋼橋編と整合した体系で、A(母材・応力集中なし、ΔS_ref=190 MPa)から H(部分溶込み・ルート破壊、ΔS_ref=40 MPa)まで8段階。いずれも N=2×10⁶ を基準とし m=3 で評価する。

寿命式:

N = N_ref × (ΔS_ref / ΔS) ^ m

N_ref = 2×10⁶
m = 3(溶接継手の標準)

CAFL(定振幅疲労限度): IIW/JSSC では N=10⁷ を超える領域を「打ち切り」として無限寿命扱いする。対応する応力範囲 ΔS_CAFL は次式で計算できる。

ΔS_CAFL = ΔS_ref × (N_ref / 10⁷) ^ (1/m)
        = ΔS_ref × (2×10⁶ / 10⁷) ^ (1/3)
        ≒ ΔS_ref × 0.585

FAT80 なら CAFL=46.8 MPa、JSSC A 等級なら CAFL=111.1 MPa。この値を下回る ΔS なら無限寿命と判定する。

計算例(ケース5の詳細): FAT80 で ΔS=100 MPa の寿命:

N = 2×10⁶ × (80 / 100)^3
  = 2×10⁶ × 0.512
  = 1.02×10⁶ 回

ΔS を 100 MPa から 80 MPa に下げれば、N = 2×10⁶ × 1 = 2×10⁶ 回で FAT 値の定義通り。さらに 60 MPa まで下げれば、N = 2×10⁶ × (80/60)^3 = 4.74×10⁶ 回。溶接部の応力を20%下げるだけで寿命は2倍以上延びる——m=3 の効き方がよく分かる。

参考: Fatigue strength - IIW Recommendations (Hobbacher)

マイナー則(線形累積損傷則)

複数の荷重パターンが混在する場合、各パターンの損傷度を合計するのがマイナー則だ。材料ベース・等級ベースどちらでも同じ形で使える。

D = Σ (ni / Ni)

ni: パターン i の実際の繰返し数
Ni: パターン i の応力レベルでの破壊寿命(Basquin式から算出)

D < 1.0 → 安全
D ≥ 1.0 → 疲労破壊の可能性

マイナー則は荷重順序の影響を無視する線形モデルなので、実際の寿命とは乖離する場合がある。それでも簡便で規格にも採用されており、初期設計段階の評価手法として広く使われている。

参考: マイナー則 - Wikipedia

既存ツールとは何が違うか

CAE不要でブラウザ完結

有限要素法ベースのCAEソフト(ANSYS, Abaqus等)は疲労解析が可能だが、ライセンス費用・学習コスト・モデル構築の手間が大きい。本ツールは入力項目が数個だけで、結果が即座に出る。

SVG線図がリアルタイムに動く

材料ベースモードでは、入力値を変えるたびにグッドマン線図上の点がリアルタイムに移動する。安全率の感度——「平均応力を50MPa減らしたら安全率はどう変わるか」——を体感的に把握できる。

IIW F-class / JSSC 両対応

Webで見つかる疲労計算ツールは母材ベース(m=10)ばかりで、IIW FAT値や JSSC 等級を直接指定できるものは稀だ。本ツールは両方の等級表を内蔵し、プルダウンから等級を選んで ΔS を入れるだけで寿命と安全率が出る。m=3 の急勾配 S-N 曲線と CAFL 判定も自動で処理する。

累積損傷計算まで一画面で

単一応力の評価だけでなく、マイナー則の累積損傷評価まで同じ画面でできるツールは珍しい。荷重パターンの追加・削除もワンタップだ。

疲労にまつわる豆知識

Wöhlerの功績——SN曲線の発見

SN曲線を最初に体系的に研究したのは、ドイツの鉄道技術者アウグスト・ヴェーラー(August Wöhler)だ。1860年代、鉄道車軸の折損事故が相次いだことをきっかけに、繰返し荷重と破壊寿命の関係を実験的に明らかにした。SN曲線は「ヴェーラー曲線」とも呼ばれる。

参考: August Wöhler - Wikipedia

「無限寿命」は迷信?

鋼には疲労限度があり、それ以下なら無限寿命——というのは古典的な理解だ。しかし近年の超高サイクル疲労(VHCF)研究では、10^9回を超える領域でも内部起点の疲労破壊(フィッシュアイ破壊)が報告されている。「疲労限度以下だから絶対安全」とは言い切れない時代になっている。IIW/JSSC が採用する「CAFL で打ち切り」も、変動振幅荷重下では CAFL 以下の応力でも損傷に寄与するので、厳密に無限寿命にはならないことが知られている。

疲労強度と表面状態

疲労き裂は部品の表面から発生することが多い。ショットピーニング(表面に圧縮残留応力を付与)で疲労寿命が2〜3倍に伸びることもある。逆に、加工傷や腐食ピットがあると疲労限度は大幅に低下する。溶接止端のグラインダー研削は、まさにこれを利用して FAT 値を1〜2ランク上げる手法だ。

疲労設計をもっと上手く使うコツ

安全率の目安を知っておく

一般的な機械部品の疲労安全率の目安:

  • S ≥ 3.0: 十分安全。重要保安部品向け
  • 1.5 ≤ S < 3.0: 安全。通常の機械設計
  • 1.0 ≤ S < 1.5: 注意。切欠き係数等の補正が必要
  • S < 1.0: 危険。設計見直し必須

切欠き係数を忘れずに(材料モード)

材料ベースの計算は平滑試験片ベース。実部品にはキー溝・段付き・穴などの応力集中がある。切欠き係数 Kt は1.5〜3.0程度になることが多く、実効的な安全率はツール表示値の1/Kt倍と考えるのが安全だ。溶接継手なら切欠き係数を使わず、最初から等級モードで評価したほうが整合する。

ソダーバーグを使うべき場面

降伏点を超える変形が許されない精密部品や、振動で位置精度が要求される場合はソダーバーグ線図を使う。グッドマンより保守的な評価になるが、永久変形リスクを排除できる。

等級選定は「破壊モードの絵」から

IIW/JSSC の等級表は継手形状だけでなく「どこからき裂が入るか」(止端破壊/ルート破壊/母材破壊)で等級が変わる。FAT値を決めるときは、単に「隅肉溶接だから FAT80」ではなく、規格書の絵を見て自分の継手に近い絵を選ぶ。IIW Recommendations (Hobbacher) や JSSC『鋼構造物の疲労設計指針・同解説』に詳細な図版がある。

よくある質問

Q: 疲労限度がない材料(アルミ等)ではどう評価すればいい?

アルミニウム合金など明確な疲労限度を持たない材料では、10^7回または10^8回時点の疲労強度を便宜的に疲労限度として入力する。ただし「無限寿命」判定が出ても、それは基準繰返し数までの話であり、超長寿命域では破壊の可能性がある点に注意が必要だ。

Q: マイナー則の累積損傷度はどこまで信頼できる?

マイナー則は荷重順序の影響を無視する線形モデルなので、実験値とのずれが大きい場合がある。研究によると、実際の破壊はD=0.5〜2.0の範囲で起きることが多い。D=1.0は目安であり、重要部品ではD=0.5以下を安全側の判定基準とすることが推奨される。

Q: 入力したデータはサーバーに送信される?

一切送信されない。全ての計算はブラウザ内のJavaScriptで完結しており、サーバーとの通信は発生しない。入力データはページを閉じると消える。

Q: 圧縮側の平均応力はどう入力する?

本ツールでは平均応力 σm は引張を正とし、0以上の値を入力する設計になっている。圧縮平均応力下では疲労寿命が向上する方向に働くが、グッドマン線図の圧縮側補正は材料・条件依存が大きいため、現バージョンでは引張側のみをカバーしている。等級モードの ΔS は符号を持たないので影響を受けない。

Q: IIW FAT値と JSSC 等級、どちらを使えばいい?

どちらも m=3 を使う近縁の体系だ。国内案件(橋梁・鉄骨・機械構造)なら JSSC A〜H 等級が規格と整合する。海外案件や学術論文に合わせるなら IIW FAT。両者の強度値はほぼ重なり、例えば JSSC E 等級(80 MPa)は IIW FAT80 相当と考えて差し支えない。

Q: Basquin 指数 m を自分で指定できる?

本ツールでは評価系ごとに m を固定している——材料モードで m=10(鋼母材の典型)、疲労等級モードで m=3(溶接継手の標準)。切欠きあり母材(m≒5)やアルミ溶接(m=4〜5)のように中間の m が必要な場合は、該当する IIW 等級の ΔS_ref を試験値に合わせて読み替えて使うか、将来バージョンでのカスタム m 入力対応を待ってほしい。

まとめ

疲労寿命シミュレーターは、材料ベース(修正グッドマン・ソダーバーグ線図+Basquin 式 m=10)と疲労等級ベース(IIW FAT / JSSC A〜H、m=3)の両方式で、繰返し荷重を受ける部品の疲労安全率と推定寿命をブラウザだけで評価できるツールだ。

母材は σa・σm で線図上プロット、溶接継手は ΔS と FAT 値で直接判定。両モードともマイナー則の累積損傷評価に対応している。

梁の静的強度が気になった人は梁の安全審判員も試してみて。ボルトの繰返し荷重が心配ならボルト強度・破断モード診断、溶接そのものの静的強度は溶接継手の強度計算も参考になる。


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Mahiro

Mahiro Appの開発者。回転軸の疲労で痛い目に遭った経験と、鉄骨建屋の隅肉溶接で m=10 の計算が通用しないことを現場で学んだ記憶から、材料と疲労等級の両対応ツールを作った。

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