H形鋼 横座屈・許容曲げ応力度fb計算

断面と横補剛間隔lbを入れるだけで、横座屈によるfbの低減量・低減カーブ・幅厚比区分FA〜FDを同時に算定。補剛を何本入れれば低減がゼロになるかまで逆算する

H形鋼の断面と横補剛間隔 lb から、横座屈による許容曲げ応力度 fb の低減量・低減カーブ・幅厚比区分(FA〜FD)を同時に算定する。低減がゼロになる補剛間隔と必要な中間補剛の本数も逆算する。

断面寸法

選ぶと5寸法が一括で入る。溶接組立H形鋼は直接入力して r を 0 にする

F値の板厚区分にも使う

溶接組立は 0

材料と補剛条件

補剛本数の算定にだけ使う

圧縮フランジの座屈長さ

迷ったら「等曲げ・等分布」(C=1.0)が安全側

許容曲げ応力度

許容曲げ応力度 fb144.63 N/mm²長期 / 支配: fb2
低減あり
低減率(fb ÷ 上限)92.3% / 100% (低減あり)

横座屈を考慮しない上限

156.67 N/mm²

F=235 / 長期

fb1(細長比式)

131.40 N/mm²

長期基準の生値

fb2(略算式)

144.63 N/mm²

← 支配

T形断面の断面二次半径 ib

52.57 mm

圧縮フランジ+梁せい1/6

細長比 lb/ib

76.1

限界細長比 Λ=119.8

補正係数 C

1.00

分布から決定

採用F値

235 N/mm²

tf=13mm / 40mm以下

許容曲げモーメント Ma

171.4 kN·m

Zx=1,185.2cm³

横補剛の検討

低減がゼロになる補剛間隔 lb0

3,693 mm

あと 307mm 詰める

必要な中間横補剛

2 本

等間隔なら lb=2,667mm(現状 1本相当)

横補剛間隔 lb と許容曲げ応力度 fb の関係(長期

045901351801002,0754,0506,0258,000lb [mm]N/mm²上限 156.7低減なしの限界 3,693mm現在 144.6
採用 fb fb1(細長比式) fb2(略算式) 上限 低減なしの限界現在位置マーカーは判定に応じて色が変わる

幅厚比・部材種別

幅厚比区分(部材種別)FAフランジ FA / ウェブ FA
塑性域まで変形可能

フランジ幅厚比 B/2tf

7.69

FA限界 9.00 → FA

ウェブ幅厚比 (H−2tf)/tw

46.8

FA限界 60.0 → FA

幅厚比の取り方と ib を求めるT形断面

H/6 = 66.7mmB/2H−2tftftw塗り = ib 算定用のT形断面(圧縮フランジ+梁せい1/6)。iy ではない

本ツールは平成13年国土交通省告示第1024号(最終改正 平成30年国土交通省告示第1324号)の式による概算。2026年8月時点の告示に基づく。単純梁・強軸曲げ・2軸対称H形断面が前提で、せん断・たわみ・軸力との組合せ・保有耐力横補剛(令第82条の3)は対象外。実設計は建築基準法に基づく構造計算と構造設計者の判断によること。

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断面はOKなのに、補剛の本数を数えた瞬間にNGへ戻される

鉄骨梁の断面算定で σ = M/Z を出して安全率に余裕あり、たわみもスパンの1/300以内。これで決まりだと思って図面に落とした後で、圧縮フランジの横補剛が何本入るかを数え直す。すると許容曲げ応力度 fb が 156.67N/mm² から 117.19N/mm² まで落ちて、検定比が一気に1.0を割り込む。H-400×200×8×13・SS400 で補剛間隔を3.0mから5.0mに伸ばすと、実際にこうなる。落ち幅は25%。梁せいを1ランク上げるか、補剛を1本足すかの二択に引き戻される。

横座屈は「壊れる前に横に逃げる」現象で、断面性能表をいくら眺めても存在に気づけない。しかも fb をどう低減するかは建築基準法施行令の本文に書かれておらず、告示の側にある。だから令第90条を何度読み返しても式は出てこない。

このツールは、断面寸法と横補剛間隔 lb を入れるだけで、fb・低減率・低減カーブ・低減がゼロになる限界間隔・必要な中間補剛の本数・幅厚比区分 FA〜FD をまとめて出す。「断面はもつのに補剛が足りない」を、図面に落とす前に見つけるための計算機。

なぜ作ったのか — fb を最後まで出すツールが実質1つしかなかった

「許容曲げ応力度 計算」で検索して出てくる計算サイトは、実質1件しかない。kentiku-kouzou.jp の「許容曲げ応力度の計算サイト」だ。実際に開いて確かめたところ、入力欄は Lb・h・Af の3つだけで、fb2 = 89000/(lb·h/Af) を1本計算して終わる。fb1(細長比型の式)は計算しない。F/1.5 の頭打ちも掛けていない。だから補剛間隔を短く入れると 183.5N/mm² のような値がそのまま返ってくる。SS400 の長期なら 235/1.5 = 156.67N/mm² が天井なので、この数字は使えない。鋼種の選択も、幅厚比の判定も、補剛本数の逆算も、低減カーブも無い。

残りの検索上位は解説記事と大学の講義PDFで占められている。式そのものは丁寧に載っているのに、数値を入れる場所が無い。「解説はいくらでもあるがツールが無い」ゾーンだった。

同じ穴が自分のサイトにも空いていた。梁の強度計算・たわみ計算ツール は σ = M/Z とたわみを見るが、横座屈は見ていない。小梁・母屋・胴縁 断面選定ツール に至っては、fb を「ユーザーが手で入れる欄」にしてあり、既定値として156を置いている。その156をどこから持ってくるのか、という計算機が自分の手元に無かったわけだ。

きっかけは、横補剛を1本削って fb が3割落ち、梁せいを1ランク上げる羽目になった案件だった。あのとき欲しかったのは「fb がいくつになるか」ではなく、「あと何mm詰めれば低減がゼロになるか」「そのためには中間補剛が何本要るか」の方だった。だから低減量の表示と同時に、無低減の限界間隔 lb0 の逆算と必要補剛本数を必ず出す設計にしてある。

横座屈とは何か — 許容曲げ応力度 fb 計算の第一原理

横座屈 とは — 圧縮フランジは「梁にくっついた細長い柱」

30cmのプラスチック定規を平らに寝かせて両端を持ち、真ん中を下向きに押してみる。ある程度までは素直にたわむが、力を強めると突然ねじれて横に逃げる。まっすぐ下に曲がり続けることをやめてしまう。これが横座屈(横倒れ座屈)だ。

H形鋼の梁を強軸まわりに曲げると、上フランジには圧縮、下フランジには引張が生じる。圧縮側のフランジだけを取り出して眺めると、それは軸圧縮を受ける細長い部材そのものだ。柱の座屈とまったく同じ理屈で、横方向に押さえる点の間隔が長いほど座屈しやすくなる。違うのは、フランジがウェブでつながっているせいで、真横に平行移動するのではなく、断面のねじれを伴って倒れ込む点だけ。

横方向に押さえる点が「横補剛」であり、その間隔が横補剛間隔 lb だ。lb は座屈長さそのものと考えてよい。柱の座屈で細長比 λ = 座屈長さ / 断面二次半径 を使ったのと同じように、梁でも λ = lb / ib を使う。ここで ib は弱軸の iy ではない。告示は「圧縮フランジと曲げ材のせいの1/6とからなるT形断面のウェブ軸まわりの断面二次半径」と定義していて、フランジ1枚とウェブのごく一部だけを取り出した断面の値になる(この落とし穴は§8で詳しく扱う)。

許容曲げ応力度 fb 計算 — 細長比型の fb1 とフランジ面積型の fb2

横座屈するおそれがあるぶん、許容曲げ応力度は F/1.5 のままでは使えず、lb に応じて低減する。低減後の値を決めるのが次の2式で、大きい方を採り、F/1.5(短期は F)で頭打ちにする。

Λ   = 1500 / √(F/1.5)                      限界細長比
λ   = lb / ib                              圧縮フランジ側の細長比
fb1 = { 2/3 − (4/15)·λ²/(C·Λ²) } · F       細長比型
fb2 = 89000 · Af / (lb · H)                フランジ面積型(Af = B·tf)
fb(長期)= min( max(fb1, fb2, 0), F/1.5 )
fb(短期)= 1.5 × fb(長期)

Λ は柱の座屈でおなじみの限界細長比で、SS400(F=235)なら 119.8、SM490(F=325)なら 101.9 になる。C は補剛区間内のモーメント分布による補正係数で、区間内で曲げが一定な等曲げが最も不利な C=1.0、片端だけにモーメントが載る形が C=1.75、両端が逆向きの複曲率が上限の C=2.3。

なぜ2式の大きい方なのか。この2つは同じ現象に対する別々の近似だからだ。fb1 は細長比 λ を軸に取った柱型の式で、λ が小さい領域ではよく効くが、λ が大きくなると急落し、ついには負の値になる。一方 fb2 は lb·H/Af という「フランジ1枚の面積に対して、どれだけ長く、どれだけ高い梁か」を1つの指標にまとめた略算式で、細長い領域を下支えする。どちらか片方だけでは実態から外れるので、包絡線として大きい方を採る。fb1 が負になる領域では 0 に丸めて fb2 が支配する。

法的根拠 — 令第90条ではなく告示1024号

fb の低減式の法的な出どころは、平成13年国土交通省告示第1024号「特殊な許容応力度及び特殊な材料強度を定める件」(最終改正 平成30年国土交通省告示第1324号)だ。告示の柱書に「鋼材等の曲げ材の座屈の許容応力度」を定めると明記されており、上に挙げた fb1・fb2・Λ・C の形はすべてこの告示に由来する。本ツールと本記事は2026年8月時点の告示に基づいている。

一方、鋼材の許容応力度そのものを定める建築基準法施行令第90条は、基準強度 F に対する長期・短期の表を示すだけで、横座屈の低減には触れていない。座屈現象の一般的な背景は座屈 - Wikipediaにまとまっているが、実務で使う数式は告示の側にある、と覚えておくとよい。

補剛を1本抜くと何が変わるか — 令第90条に「横座屈」は出てこない

数字で見た方が早い。H-400×200×8×13・SS400・スパン8m・等分布荷重(C=1.0)・長期の梁で、横補剛間隔だけを動かすと許容曲げモーメント Ma はこう変わる。

  • lb = 3000mm → fb = 156.67N/mm²、Ma = 185.7kN·m(低減なし)
  • lb = 4000mm → fb = 144.62N/mm²、Ma = 171.4kN·m
  • lb = 5000mm → fb = 117.19N/mm²、Ma = 138.9kN·m

補剛を1本抜いて間隔が3.0mから5.0mになると、許容曲げモーメントは 185.7 → 138.9kN·m へ25%落ちる。断面も鋼種も荷重も何も変えていないのに、である。逆に言えば、断面を上げずに補剛を1本足すだけで25%取り戻せるということでもある。鋼材の重量とファブでの加工手間を天秤にかけるとき、この25%がどちらに転ぶかを判断できるかどうかが効いてくる。

低減を見落とすとどうなるか。σ = M/Z で出した曲げ応力が 130N/mm² で「156.67に対して余裕あり」と判断した梁が、実は fb = 117.19N/mm² の梁だった、という取り違えが起きる。検定比 0.83 のつもりが 1.11 で、たわみでも強度でもなく横座屈で不成立になる。図面に落とし、鉄骨の製作図まで進んでから発覚すると、梁せいの変更が階高・設備ルート・スラブレベルにまで波及する。

もう一つ、幅厚比の区分も同時に見ておく必要がある。フランジ B/2tf とウェブ (H−2tf)/tw を昭和55年建設省告示第1792号の制限値と比べて FA〜FD に分類するもので、FD になると局部座屈のおそれがあると判定され、保有水平耐力計算での構造特性係数 Ds が最も不利な値になる。横座屈(部材全体の座屈)と局部座屈(板要素の座屈)は別現象なのに、どちらもフランジの挙動で決まるため、片方だけ確認して安心してしまいやすい。

そして冒頭で触れた点をここで確定させておく。e-Gov 法令検索の建築基準法施行令の全文を機械検索したところ、令第90条の本文には「横座屈」「曲げ材」「圧縮フランジ」のいずれの語も一度も現れない。第90条は基準強度 F を軸にした許容応力度の表を定めるだけで、低減の具体式は平成13年国土交通省告示第1024号の側にある。「令第90条を読んだのに fb の低減式が見つからない」のは読み落としではなく、そもそも書かれていないのだ。

使いどころ — 断面算定の途中と、既存図の読み直し

鉄骨梁の断面算定の途中で。 σ = M/Z とたわみで断面を仮決めした直後に、fb 側の天井を確認する使い方。梁の強度計算・たわみ計算ツール で応力とたわみを出し、こちらで fb を出して突き合わせると、どちらが効いているかが一度に見える。断面性能そのものは 鋼材重量・断面性能計算ツール、荷重の組み合わせは 荷重組合せ検定ツール が担当する。

横補剛の本数を決めるとき。 スパンと断面が決まっていれば、低減をゼロにできる補剛間隔 lb0 は一意に決まる。そこから必要な中間補剛の本数が逆算できるので、「低減を許容して断面を上げるか、補剛を増やして断面を維持するか」の比較が数字でできる。

既存建物の耐震診断・改修の検討で。 既存図から補剛間隔を拾って fb を出し直すと、当時の設計が現在の告示でどれだけ余裕を持っているかが分かる。小梁の受け方が変わっていたり、後付けの設備で補剛が撤去されていたりするケースは珍しくない。

学習用途。 構造設計一級建築士の受験勉強で、C の符号規約や ib の定義は毎回引っかかるポイントだ。数値を動かしながら fb1 と fb2 のどちらが支配するかを見ていくと、式の意味が体感的に入る。柱の座屈と比べたければ 座屈荷重チェッカー、ラーメンの応力なら 静定ラーメン 反力・M図ソルバー が対応する。

基本の使い方 — 3ステップ

1. 断面を選ぶ。 JIS G 3192 の熱間圧延H形鋼29断面(細幅16・中幅4・広幅9)のプリセットから選ぶと、せい H・フランジ幅 B・ウェブ厚 tw・フランジ厚 tf・フィレット半径 r の5項目が一括で入る。溶接組立H形鋼を計算したいときは、寸法を直接入力してフィレット半径 r を 0 にする。

2. 材料と補剛条件を入れる。 鋼種(SS400・SM490・SM520・SN400B・SN490B、または基準強度 F の直接入力)、梁スパン L、横補剛間隔 lb、モーメント分布(等曲げ・等分布 / 片端のみM / 複曲率 / M₂/M₁ 直接入力)、長期か短期かを指定する。フランジ厚が40mmを超えると、平成12年建設省告示第2464号にしたがって基準強度 F が自動で下がる。スパン L は fb そのものには影響せず、必要な補剛本数の算定にだけ使う。

3. 低減量と補剛本数を読む。 許容曲げ応力度 fb と、横座屈を考慮しない上限(長期 F/1.5・短期 F)に対する低減率が表示される。fb1 と fb2 のどちらが支配しているか、低減がゼロになる補剛間隔 lb0、スパンに必要な中間補剛の本数、許容曲げモーメント Ma、幅厚比 FA〜FD も同時に出る。低減カーブのグラフには、横軸に lb を取った fb の曲線と、上限の水平線、lb0 の位置、現在の lb の位置が描かれる。迷ったらモーメント分布は「等曲げ・等分布」(C=1.0)を選んでおけば安全側になる。

具体的な使用例 — 8ケースの検証データ

以下はすべて告示1024号の式で算出し、値を固定した検証ケース。

ケース1〜3: 同じ断面で lb だけ伸ばす

H-400×200×8×13・SS400・L=8000mm・等曲げ(C=1.0)・長期。共通の中間値は ib=52.57mm、Λ=119.8、Zx=1185.2cm³、lb0=3693mm。

lbfb支配式低減率Ma
3000mm156.67N/mm²上限(F/1.5)100.0%185.7kN·m
4000mm144.62N/mm²fb292.3%171.4kN·m
5000mm117.19N/mm²fb174.8%138.9kN·m

無低減の限界 lb0 が 3693mm なので、lb=3000mm はこれを下回り、fb2=192.83N/mm² が上限で切られて 156.67N/mm² に張り付く。lb=4000mm で限界を超えて低減が始まり(fb1=131.4 < fb2=144.62)、lb=5000mm では支配式が入れ替わる(fb1=117.19 > fb2=115.7)。低減カーブが上限に張り付いた水平部分から下降に転じる境目が、ちょうど lb0 だ。

なお lb=5000mm の条件を短期(地震・風)に切り替えると fb=175.79N/mm²、Ma=208.3kN·m になる。長期のちょうど1.5倍で、低減率は74.8%のまま変わらない。低減の度合いは荷重期間に依存しない。

ケース4: 鋼種だけ SM490 に変える(幅厚比が FA から FB に落ちる)

ケース3(lb=5000mm)と同じ断面・同じ補剛条件で、鋼種だけ SM490 にすると fb=141.17N/mm²、Ma=167.3kN·m。fb は 117.19 から20%上がる。ところが低減率は 74.8% → 65.2% と悪化し、無低減の限界 lb0 は 3693mm → 2670mm に縮み、幅厚比の区分は FA から FB に落ちる。

理由は2つとも F の効き方にある。まず Λ = 1500/√(F/1.5) が 119.8 → 101.9 に小さくなるため、同じ λ=95.1 でも Λ に対する比が悪化して fb1 の低減項が大きくなる。次に幅厚比の制限値が √(235/F) 倍されて厳しくなり、フランジの B/2tf = 7.69 が FA の限界 9×√(235/325) = 7.65 をわずかに超える。「材料を強くしたら部材種別が悪化した」は誤りではなく、制限値が F に連動しているためだ。

ケース5: fb2 支配域では鋼種を上げても fb が1も変わらない

H-500×200×10×16・SM490・L=8000mm・lb=8000mm(中間補剛なし)・長期。結果は fb=71.2N/mm²、低減率32.9%、Ma=136.3kN·m、必要な中間補剛は3本、lb0=2629mm。中間値は ib=51.4mm、λ=155.6、fb1=14.51、fb2=71.2、上限216.67。fb1 はほぼ消えている。

ここで効くのが fb2 = 89000·Af/(lb·H) に基準強度 F が入っていないという事実だ。この断面では 89000×3200/(8000×500) = 71.2N/mm² で、F の値と無関係に決まる。したがって同じ条件を SS400 に落としても fb2 は 71.2 のままで、fb も 71.2 のまま動かない。逆に SM520 に上げても同じ。この領域で効くのは、補剛間隔 lb を詰めるか、フランジ面積 Af(= B×tf)を増やすか、梁せい H を抑えるかのいずれかだけだ。「強度不足だから鋼種を上げる」が完全に空振りする典型例で、材料費だけが増える。

ケース6: モーメント分布が片端のみのとき(C=1.75)

H-600×200×11×17・SS400・L=9000mm・lb=4000mm・片端のみモーメント(C=1.75)・長期。fb=141.25N/mm²、低減率90.2%、Ma=355.7kN·m、必要な中間補剛は2本。中間値は ib=50.87mm、λ=78.6、fb1=141.25、fb2=126.08、lb0=3219mm。

C が 1.75 に上がったことで fb1 が持ち上がり、fb2 の 126.08 を上回って fb1 支配になった。C は fb1 の低減項の分母にだけ入るので、fb2 の値は C に一切影響されない点に注意。等曲げ(C=1.0)で計算すれば当然もっと厳しい値になるので、モーメント分布が読めない段階では C=1.0 を選んでおくのが安全側になる。

ケース7: 広幅系列は横座屈に強いが、幅厚比では FB になる

H-300×300×10×15・SS400・L=7500mm・lb=2500mm・複曲率(C=2.3)・長期。fb=156.67N/mm²(上限)、低減率100.0%、Ma=210.8kN·m、必要な中間補剛は0本、lb0=8521mm。中間値は ib=82.81mm、λ=30.2、fb2=534.0。

広幅系列はフランジが広いぶん ib が 82.81mm と大きく、細長比が30そこそこにしかならない。lb0 が 8521mm なのでスパン7.5mを中間補剛なしで飛ばしても低減はゼロ。ところが幅厚比を見るとフランジの B/2tf = 300/2/15 = 10.0 で、FA の限界9を超えて FB になる。横座屈には余裕があるのに部材種別は FA ではない、という組み合わせで、この2つが別の判定であることがよく分かるケースだ。

ケース8: フランジ厚40mm超で基準強度 F が自動降格する

H-458×417×30×50・SM490・lb=6000mm・長期。フランジ厚 tf が50mmで40mmを超えるため、平成12年建設省告示第2464号にしたがって F が 325 → 295N/mm² に下がる。結果は fb=196.67N/mm²(上限)、低減率100.0%、Ma=1607.1kN·m、必要な中間補剛は0本、幅厚比 FA。中間値は ib=117.62mm、Λ=107.0、λ=51.0、fb2=675.27、lb0=20602mm。

上限は 295/1.5 = 196.67N/mm² であって、325/1.5 = 216.67N/mm² ではない。厚板を使うときに F を 325 のまま計算すると、上限を10%高く読み違えることになる。板厚区分の判定はフランジ厚 tf で行う。曲げはフランジが支配し、横座屈も圧縮フランジの挙動で決まるためだ。

仕組み — 旧規準式を採った理由と、ib が iy ではない話

旧規準式と2005年新規準式、どちらを採るか

許容曲げ応力度の算定式には2系統ある。(a) 旧規準式は fb1 と fb2 の大きい方を採って F/1.5 で頭打ちにするもので、平成13年国土交通省告示第1024号がこの形を法令として定めている。(b) 新規準式は2005年版の鋼構造設計規準で導入されたもので、弾性横座屈モーメント Me を計算し、規準化細長比 λb = √(My/Me) を求め、λb が塑性限界細長比以下・その間・弾性限界細長比超の3区間で場合分けする。

本ツールは (a) を採った。理由は3つ。

  1. 法令が (a) の形で書かれている。 施行令第90条は fb の低減方法を定めておらず、告示1024号が上の2式を示している。実務の計算書も教科書も構造設計一級建築士の試験も、この形で書かれている。
  2. 入力が5寸法で完結する。 旧規準式に必要なのは H・B・tw・tf・r だけ。新規準式は曲げねじり定数 Iw とサンヴナンねじり定数 J を要求するが、この2つは一般的なJIS断面表に載っておらず、寸法から近似すると誤差の出所が1つ増える。ブラウザで数値を入れるだけのツールとしては割に合わない。
  3. 符号規約の取り違えリスクが少ない。 新規準式は補正係数と塑性限界細長比の両方に定義の揺れがあり、片方だけ他所の資料から持ってくると危険側に外れる。

ib は iy ではない — 最も多い実装ミス

告示の定義はこうだ。「圧縮フランジと曲げ材のせいの1/6とからなるT形断面のウェブ軸まわりの断面二次半径」。ここに落とし穴が2つある。

落とし穴1: 弱軸の iy で代用してしまう。 iy は両フランジとウェブ全高を含む断面の値で、ib はフランジ1枚とウェブのごく一部だけを取り出した断面の値だ。まったく別の量である。

落とし穴2: T形断面のウェブ部分の高さを H/6 にしてしまう。 「せいの1/6」なのはT形断面の全せいであって、ウェブ部分の高さは H/6 − tf になる。フランジ厚のぶんを引き忘れると ib が過大に出る。

dw   = H/6 − tf                          T形のウェブ部分の高さ(H/6 ではない)
Afil = r² · (1 − π/4)                    フィレット1個の断面積
e    = r · (10 − 3π)/(12 − 3π) ≒ 0.2234r  フィレット図心の板表面からのオフセット
At   = B·tf + dw·tw + 2·Afil             T形断面の面積
It   = tf·B³/12 + dw·tw³/12 + 2·Afil·(tw/2 + e)²
ib   = √(It / At)

この式は検算済みだ。日本製鉄『建設用資材ハンドブック』2025年9月改訂版のH形鋼断面性能表には「横座屈断面二次半径 i」として公表値が載っており、10断面と突き合わせて誤差 ±0.32% 以内で一致した。さらに、フィレット項(2·Afil2·Afil·(tw/2 + e)²)を落として計算すると、ib が +0.15〜+1.45% 系統的に大きく出る。ib が大きい → λ = lb/ib が小さい → fb1 が大きく出る、という連鎖なので、フィレットの無視は危険側の誤差になる。プリセット29断面のフィレット半径 r は、公表されている断面積・断面二次モーメント・単位質量から逆算して確定させてある。

低減がゼロになる補剛間隔 lb0 の導出

fb1 は lb → 0 のとき 2F/3 = F/1.5 に一致するだけで、上限を上回ることはない。つまり、fb が上限に張り付く(低減ゼロになる)のは fb2 が上限に達したときだけだ。ここから閉じた式が出る。

fb2 ≧ F/1.5
89000·Af/(lb·H) ≧ F/1.5
lb ≦ 1.5 × 89000 · Af/(F·H) = 133500 · Af/(F·H)  ← これが lb0

必要な中間補剛の本数 = ceil(L / lb0) − 1

この式に C も ib も現れないのが重要な点だ。モーメント分布をどう仮定しても、無低減の限界間隔は動かない。動かすには Af(フランジ面積)を増やすか、H を抑えるか、F を下げるしかない。ケース5の SM490 の梁で lb0 が 2629mm と短かったのは、分母に F=325 が入っているからで、同じ断面でも SS400 なら限界は長くなる(そのぶん上限 F/1.5 も下がる)。

ステップバイステップ計算例(H-400×200×8×13・SS400・lb=4000mm)

1. Af  = B·tf = 200 × 13 = 2600 mm²
2. F   = 235 N/mm²(tf=13mm ≦ 40mm → SS400 は 235)
3. Λ   = 1500/√(235/1.5) = 1500/12.517 = 119.8
4. ib  = 52.57 mm(上のT形断面の式)
5. λ   = lb/ib = 4000/52.57 = 76.1
6. C   = 1.0(等分布荷重)
7. fb1 = { 2/3 − (4/15)×76.1²/(1.0×119.8²) } × 235 = 131.4 N/mm²
8. fb2 = 89000 × 2600/(4000 × 400) = 144.62 N/mm²
9. 上限 = F/1.5 = 235/1.5 = 156.67 N/mm²
10. fb = min( max(131.4, 144.62, 0), 156.67 ) = 144.62 N/mm² → fb2 支配
11. 低減率 = 144.62/156.67 = 92.3%
12. Ma = 144.62 × 1185.2×10³ / 10⁶ = 171.4 kN·m

補正係数 C の符号規約

C は告示の形をそのまま使っている。C = 1.75 + 1.05·(M₂/M₁) + 0.3·(M₂/M₁)²、ただし 2.3 を超える場合は 2.3。M₁・M₂ は補剛区間の端部モーメントのうち大きい方・小さい方で、M₂/M₁ は複曲率のとき正、単曲率のとき負という規約になっている。検算すると、β = −1(単曲率・等曲げ)で C = 1.75 − 1.05 + 0.3 = 1.0、β = 0(片端のみ)で 1.75、β = +1(複曲率)で 3.1 → 上限2.3 となり、固定モードの3つの値と一致する。

ここは事故が起きやすい。「単曲率が正」の規約で書かれた資料では式が 1.75 − 1.05β + 0.3β² になっており、値そのものは同じになる。ところが式だけを片方の資料から、符号規約をもう片方から持ってくると、等曲げのときに C = 2.3 を返してしまう。C は fb1 の低減項の分母に入るので、最も不利なはずの等曲げを最も有利な値で計算することになり、危険側に大きく外れる。区間内の曲げモーメントが M₁ より大きくなる場合(等分布荷重の梁が該当する)は C = 1 とする、という規定もあわせて実装してある。

既存の「許容曲げ応力度 計算サイト」との違い

前半で書いたとおり、fb を数値まで出してくれる計算サイトは実質1件しかない。ここでは足りているものと足りていないものを、機能の切り口で並べておく。

差は、出せる数字の数ではなく、出したあとに何が決まるかにある。本ツールは fb1 と fb2 の両方を出して支配式を示し、F/1.5(短期は F)の頭打ちを掛けたうえで、低減率・低減がゼロになる限界間隔 lb0・必要な中間補剛の本数・幅厚比区分 FA〜FD・低減カーブまで一度に返す。「fb がいくつか」で終わらせず、補剛を足すのか、断面を変えるのか、このままでよいのか、という次の一手が決まるところまで運ぶ。

名前の似たものに d-engineer.com の「座屈計算ツール」があるが、あちらは圧縮材の座屈荷重・座屈応力を出すもので、曲げ材の横座屈ではない。用途がまるで違うので混同しないほうがいい。

サイト内の役割分担も整理しておく。梁の強度計算・たわみ計算ツールは σ=M/Z とたわみを見るところまでで、横座屈は扱っていない。小梁・母屋・胴縁 断面選定ツールは許容曲げ応力度 fb を手入力の欄として持っていて、免責にも「横補剛が少ない場合は低減後の fb を入れる」旨が明記してある。その欄に入れる数字を作るのがこのツールで、2本はセットで使う関係にある。断面性能そのものを引きたいときは鋼材重量・断面性能計算ツール、曲げモーメントを決める荷重側は荷重組合せ検定ツールが受け持つ。

89000 という半端な係数は、どこから来たのか

fb2 = 89000·Af/(lb·H) の 89000。lb·H/Af は無次元の比なので、この係数が応力の次元を丸ごと背負っている。理論から出てくる定数ではなく、単位付きの経験係数だ。

骨格にあるのは圧縮フランジのオイラー座屈だが、弾性座屈をそのまま追いかければ座屈長さは2乗で効くはずで、告示の式では lb が1乗にしかならない。ここが「略算式」と呼ばれるゆえんで、理論式ではなく実験結果に合わせて安全側に均した近似になっている。材料の強さ F がどこにも顔を出さないのも同じ理由による。この式は座屈という幾何の問題だけを見ている。桁が半端なのは、規準が kgf 系で書かれていた時代の係数を N/mm² に読み替えた名残でもある。

この式が載ったのは1973年版の鋼構造設計規準で、半世紀たったいまも現役だ。2005年版で弾性横座屈モーメント Me と規準化細長比 λb を使う新しい式が導入されたが、旧式は消えていない。平成13年国土交通省告示第1024号が法令としてこの形を採っているからで、実務の計算書も教科書も構造設計一級建築士の試験も、いまだに半世紀前の式で回っている。

告示の同じ条文には、細かいが効いてくる但し書きも入っている。溝形鋼が強軸まわりに曲げを受ける場合は fb2 の式のみによる、というものだ。H形鋼のように2式の大きい方を採らない。1軸対称の断面では fb1 の前提が崩れるためで、本ツールを2軸対称H形断面に限っているのも同じ線引きによる。

部材種別のほうにも、幅厚比とは別のルートがある。梁の横補剛が保有耐力横補剛の規定(建築基準法施行令第82条の3ほか)を満たさない場合、幅厚比がどれだけ良くても FD 扱いになる。本ツールが出すのは幅厚比だけによる区分なので、保有水平耐力計算まで進む場合は別途の確認が要る。

横補剛と幅厚比をめぐる実務Tips

lb はスパンではなく、圧縮フランジが押さえられている点の間隔。 小梁の取り付き位置、ブレースの節点、床の固定点を図面から拾い、そのうち圧縮フランジを実際に拘束しているものだけを数える。中間補剛が1本も無ければ lb はスパン全長になる。lb がスパンを超える入力には注記が出る。

fb2 が支配しているときは鋼種を上げても1も動かない。 使用例のケース5がその状態で、fb2 = 89000·Af/(lb·H) に基準強度 F が入らないためだ。効くのは補剛間隔を詰めるか、フランジ面積 Af を増やすか、梁せいを抑えるかのどれか。

溶接組立は r=0、圧延材は r をそのまま入れる。 フィレットを無視すると ib は1%前後大きく出る。H-600×200相当なら圧延(r=13)で 50.87mm、溶接組立(r=0)で 51.28mm。圧延材を r=0 のまま計算すると細長比が小さく出て危険側に転ぶ。

幅厚比を直すなら、フランジ幅を詰めるよりフランジ厚を増やす。 B/2tf はどちらでも下がるが、幅を詰めると Af = B·tf が減って fb2 と lb0 が同時に悪化する。厚を増やす側は Af が増えるぶん横座屈にも効く。ただし tf が40mmを超えると基準強度 F が一段下がる(SS400 なら 235→215)ので、そこは行き過ぎない。

横座屈・fb 計算のよくある質問

断面表に載っている iy を ib の代わりに使ってはいけないのか

使ってはいけない。iy は両フランジとウェブ全高を含む弱軸まわりの値で、ib は圧縮フランジ側だけを取り出したT形断面の値だ(定義と2つの落とし穴は前半の仕組み解説で扱った)。iy のほうが大きく出るため、代用すると細長比 lb/ib が小さくなり fb1 を過大評価する。表から引きたい場合は、メーカーの断面性能表に「横座屈断面二次半径」として別欄で載っているほうを見る。本ツールは寸法とフィレット半径から毎回自前で計算するので、表を引く必要は無い(H-400×200×8×13 なら 52.57mm)。

メーカーの断面表と幅厚比のランクが違うのはなぜか

判定方法が2通りあるためだ。本ツールは昭和55年建設省告示第1792号の本則、つまりフランジとウェブをそれぞれ単独で制限値と比べる方法を使っている。一方、メーカーの断面性能表は「2020年版建築物の構造関係技術基準解説書」の別法(フランジとウェブの相関式・昭55建告1791号第四号ただし書/1792号第1ただし書)で判定していて、本則より良いランクになることがある。例えば H-400×400×13×21 はフランジ幅厚比 9.52 で、SM490 なら本則では FC。ところが日本製鉄の建設用資材ハンドブックの断面表では、同じ断面の梁が SN490 で FA になっている。本ツールは安全側の本則を採り、FA 以外になったときはこの差異の注記を添える。

M₂/M₁ は単曲率と複曲率、どちらを正で入れるのか

複曲率が正、単曲率が負だ。等曲げは −1、片端のみモーメントは 0、両端が逆向きの複曲率は +1 を入れる。式と符号規約がセットになっている理由は前半で扱ったが、取り違えの影響は小さくない。H-400×200×8×13・SS400・lb=5000mm で比べると、−1 のとき fb=117.19N/mm²、+1 のとき fb=139.5N/mm² で2割近い差になる。しかも誤りは必ず過大評価の側に出る。符号に自信が無ければ M₂/M₁ 入力を使わず、「等曲げ・等分布」(C=1.0)を選べば最も不利な側で計算される。

2005年版の新規準式(Me・λb)で計算したいときはどうするか

本ツールは旧規準式(告示1024号の形)だけを扱っており、新規準式には対応していない。採らなかった理由は前半の仕組み解説に書いたが、実務上いちばん大きいのは、弾性横座屈モーメント Me の算定に曲げねじり定数 Iw とサンヴナンねじり定数 J が要り、一般のJIS断面表には載っていない点だ。新規準式で詰めるならメーカーの公表値か解析ソフトを使うことになる。確認申請の計算書に載せる許容応力度としては告示の式で足りるので、まず本ツールで fb と必要補剛本数を押さえ、どうしても成立しないときだけ新規準式に進む順番が手戻りが少ない。

入力した断面や補剛間隔はどこかに送信されるのか

送信も保存もしない。断面寸法・鋼種・横補剛間隔・スパンといった入力はすべてブラウザの中だけで処理していて、計算はページを開いた時点で端末に読み込まれた JavaScript が行う。結果をサーバーへ送る処理は持っていない。断面プリセットの選択も結果のコピーも同じで、外部に出ていくデータは無い。社外に出せない物件の断面を入れても差し支えない。

まとめ

σ=M/Z に余裕があっても、横補剛の間隔を入れた途端に fb が落ちて検定比がひっくり返る。断面と lb を入れて低減カーブと必要補剛本数を先に見ておけば、その手戻りは避けられる。断面が決まったら 梁の強度計算・たわみ計算ツール で σ とたわみを確認し、小梁や母屋なら 小梁・母屋・胴縁 断面選定ツール の fb 欄にここで出した値を入れて選び直すといい。断面性能は 鋼材重量・断面性能計算ツール、荷重側は 荷重組合せ検定ツール が担当する。式の解釈や断面の追加で気づいた点があれば お問い合わせページ まで。

M

Mahiro

Mahiro Appの開発者。横補剛を1本削って fb が3割落ち、梁せいを1ランク上げ直した案件から作った。低減量だけでなく『あと何mm詰めれば低減が消えるか』まで出すようにしてある。

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