材料の許容応力・安全率 逆引き

材料15種のJIS規格値から許容引張・せん断・曲げ応力を算出し、安全率の根拠と2つの基準の差を同時に表示

材料と荷重の種類を選ぶだけで許容応力が出る。採用した安全率がアンウィンの表のどのセルから来たかと、引張強さ基準・降伏基準の両方の値を毎回一緒に表示する。

シナリオから選ぶ

材料と荷重

引張強さ 400 / 降伏点 245 N/mm²(JIS G 3101板厚16mm以下

荷重の種類

安全率と基準

安全率の決め方

アンウィンの表: × 静荷重 → S = 3

基準の取り方

任意入力

常温域を外れたら注意を出す(低減計算はしない)

≒ 1,019.7 kgf

許容引張応力 σa133.3 N/mm²400 N/mm² ÷ S=3.00
妥当

許容せん断応力 τa

80.0 N/mm²

0.6 × σa(延性金属の慣用値)

許容曲げ応力

133.3 N/mm²

許容引張応力と同値として扱う

降伏までの余裕

1.84 倍

許容応力に対して降伏点が何倍か

引張強さ基準 σB/S

133.3 N/mm²

この値を採用中

降伏基準 σy/S

81.7 N/mm²

切り替えるとこの値になる

降伏比 σy/σB

0.613

低いほど引張強さ基準が危うい

降伏まで 1.840σy 245σB 400降伏基準なら 81.7σa 133.3

引張強さ σB

400 N/mm²

JIS G 3101(板厚16mm以下)

降伏点(耐力)σy

245 N/mm²

規格の最小保証値

採用した安全率 S

3.00

アンウィンの表:鋼 × 静荷重 → 3

縦弾性係数 E

205.0 GPa

参考値(JIS規定外)。許容応力の計算には使わない

密度

7.85 g/cm³

参考値(JIS規定外)。質量換算にのみ使う

アンウィンの安全率表(基準強さは引張強さ)。採用中のセルを強調している

材料静荷重片振り両振り衝撃
鋼(軟鋼・合金鋼・ステンレス)35812
鋳鉄461015
銅および軽金属56915
木材7101520

木材の行は表の全体像を示すためのもので、本ツールの材料選択肢には木材が無い。

必要断面積 A

75.0 mm²

A = F ÷ σa

必要な丸棒径 d

9.8 mm

同じ断面積の角材なら 8.7 mm角

必要断面の質量

0.589 kg/m

材料を切り替えて比べられる

規格値の出どころ:JIS G 3101 一般構造用圧延鋼材。引張強さ 400〜510 N/mm²(下限の400を採用)、降伏点 245 N/mm² 以上(板厚16mm以下)

板厚16mm超40mm以下は降伏点235、40mm超100mm以下は215、100mm超は205に下がる。本ツールは板厚16mm以下の代表値に固定している

降伏基準なら 81.7 N/mm²
引張強さ・降伏点はJIS規格の最小保証値です。板厚・径の区分、熱処理状態、溶接部、鋳造欠陥、切欠き、腐食環境によっては規格値を前提にできません。アンウィンの安全率は材料の種類と荷重形式だけで値を決める経験表で、当たりを付ける道具です。実際の設計では適用規格(JIS B 8265、鋼構造設計規準、社内基準など)が定める許容応力に従い、人命・財産に関わる構造物は有資格者の確認を受けてください。

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「SS400の許容応力はいくつ?」に3人が3通りの答えを返す理由

設計室で「SS400の許容応力っていくつ?」と3人に聞くと、3通りの答えが返ってくる。133 N/mm² と即答する人、81.7 N/mm² だと言う人、そして「うちは社内基準の表に書いてある値を使う」と言う人。おかしなことに、この3人は誰も間違っていない。

同じ SS400(JIS G 3101・板厚16mm以下で引張強さ 400 N/mm²、降伏点 245 N/mm²)を見ていても、基準強さを引張強さに取るか降伏点に取るかで答えは変わる。アンウィンの表で鋼・静荷重の安全率 S=3 を引き、引張強さを割れば 400 ÷ 3 = 133.3 N/mm²。同じ S=3 を降伏点に当てれば 245 ÷ 3 = 81.7 N/mm²。材料も荷重も変えていないのに、1.6倍の差が生まれる。

答えがバラつくのは、誰かが計算を間違えているからではない。基準強さの取り方と、安全率の出どころが違うだけだ。にもかかわらず、世に出回っている許容応力の一覧表には、その2つがほとんど書かれていない。このツールは、許容応力の数字を出すと同時に「その数字がどこから来たか」を毎回一緒に表示する。安全率はアンウィンの表のどの行・どの列から引いたのか、引張強さ基準と降伏基準では値がどれだけ離れるのか、そして引張強さ基準で安全率を取ったとき降伏までの余裕が実際に何倍残っているのか。答えではなく、答えの根拠を持ち帰るための道具だ。

なぜ作ったのか — 表は見つかるのに、その値の出どころが書いていない

強度計算をしていると、必ず一度は手が止まる瞬間がある。断面二次モーメントも曲げモーメントも出た。あとは応力と比べるだけ——「で、この材料は何 N/mm² まで載せていいんだっけ」。

そこで検索すると、許容応力の一覧表はいくらでも出てくる。素材商社のPDF、教科書の付表、社内サーバーの奥に眠っている Excel。数字は載っている。載っているのに、使えない。その値がどの基準強さを、どの安全率で割ったものかが書かれていないからだ。安全率3で割った値なのか、規格が定める固定値なのか、引張強さ起点なのか降伏点起点なのか。それが分からないと、荷重の種類が違う自分のケースに読み替えられない。結局、規格値の引張強さを引っ張ってきて自分で割り直すことになる。表を見に行った意味がない。

もっと厄介なのは、割り直したあとに残る不安のほうだ。以前、ステンレスの部品を引張強さ基準の安全率3で設計したことがある。数字の上では十分な余裕があるはずだった。ところが荷重試験にかけると、破断のはるか手前で塑性変形が起き、寸法が戻らなくなった。原因は単純で、SUS304は降伏比(降伏点÷引張強さ)が0.39しかない。引張強さの1/3という水準は、耐力205 N/mm² に対しては1.2倍程度の余裕しか残さない。安全率3という数字の見た目に安心して、それが「破断までの余裕」であって「変形が始まるまでの余裕」ではないことを見落としていた。

だから作るなら、答えの数字だけを返すツールにはしたくなかった。許容応力を出すのと同時に、その数字がどこから来たのか——安全率をどの表のどこから引いたのか、基準の取り方を変えると値がどう動くのか——を必ず並べて出す。それが見えていれば、冒頭の「3人が3通り」は混乱ではなく、選択の問題として扱える。

許容応力・安全率・基準強さとは何か — 応力ひずみ線図から順に追う

許容応力 とは — 「壊れる応力」ではなく「載せてよい応力」

丸棒を万力で掴んで、少しずつ引っ張っていく場面を思い浮かべてほしい。最初のうちは、手を離せば元の長さに戻る。ゴムひもと同じで、引く力と伸びが比例する領域だ。これを弾性域という。

さらに引くと、あるところで急に伸びやすくなり、手を離しても元に戻らなくなる。この折り返し点が降伏点(記号 σy、単位 N/mm²)。そこから先も引き続けると、荷重は上がり続けていつか最大値を迎える。この最大値が引張強さ(σB)。そして最後に破断する。この一連の流れを描いたグラフが応力ひずみ曲線で、材料強度の議論はすべてこの図の上で行われる。

許容応力(σa)は、この図のどこかに引く線だ。「ここまでなら設計で載せてよい」という上限であって、「ここを超えると壊れる」線ではない。破断も降伏もはるか手前に線を引いて、材料のばらつき・荷重の見積もり誤差・加工の不確かさをまとめて呑み込ませる。その呑み込ませる量が安全率だ。

安全率 計算 方法 — 基準強さを何で割るか

安全率(S)の定義そのものは、拍子抜けするほど単純だ。

許容応力 σa = 基準強さ σ0 ÷ 安全率 S

問題は「基準強さ σ0 に何を置くか」で、ここで流儀が分かれる。

引張強さ基準:  σa = σB / S    ← 破断までの余裕を確保する考え方
降伏基準:      σa = σy / S    ← 塑性変形が始まるまでの余裕を確保する考え方

橋の重量制限にたとえると分かりやすい。「橋が崩落する荷重の1/3まで」と決めるのが引張強さ基準、「橋桁がたわんだまま戻らなくなる荷重の1/3まで」と決めるのが降伏基準だ。同じ「1/3」でも、基準にした現象が違えば意味も許容値も違う。

降伏点 引張強さ 違い — 数字の意味が変わる

引張強さは「破断に至る最大荷重」、降伏点は「形が戻らなくなる境目」。設計で本当に困るのはどちらか、を考えると使い分けは自ずと決まる。軸受のはめあい面が0.1mm伸びてしまえば、破断していなくてもその部品は使い物にならない。寸法精度が製品の機能に直結する部品では、降伏応力を基準に取るのが理にかなっている。

なお、ステンレスやアルミ合金のように明瞭な降伏点を示さない材料では、0.2%の永久ひずみが残る応力を「0.2%耐力」と定め、降伏点の代わりに使う。本ツールが降伏点と呼んでいる値は、これらの材料では0.2%耐力のことだ。

降伏比 σy/σB — 材料によって0.39から0.89まで開く

2つの基準がどれだけ離れるかは、材料ごとの降伏比(σy ÷ σB)で決まる。本ツールが持つ15材料で計算すると、この値は驚くほど幅がある。

材料引張強さ σB降伏点(耐力)σy降伏比
SS4004002450.613
S45C(焼ならし)5703450.605
SCM435(焼入焼戻し)9307850.844
SUS3045202050.394
SUS4304502050.456
A5052P-H342351800.766
A7075BE-T65605000.893
FC250250規定なし

降伏比0.844のSCM435なら、どちらの基準を選んでも許容応力の差は2割弱に収まる。ところが降伏比0.394のSUS304では、引張強さ基準の値は降伏基準の2.5倍以上になる。「安全率3を取った」という同じ一言が、材料によって全く違う安全度を意味するわけだ。ここを可視化するために、本ツールは採用した許容応力に対して降伏点が何倍あるかを常に計算して並べている。

許容せん断応力 τa = 0.6 σa はどこから来た数字か

せん断についても許容値が要る。延性金属がせん断で降伏する条件は、ミーゼスの降伏条件から次のように導かれる。

τy = σy / √3 = 0.577 σy
→ 実務では丸めて  τa = 0.6 × σa

1/√3 = 0.5773… を切り上げて0.6にしたのが慣用値で、機械設計の教科書で広く使われている。ねずみ鋳鉄のような脆性材の実際のせん断強さは引張強さより高いため、0.6を掛けるのは安全側に働く。曲げについては、許容曲げ応力を許容引張応力と同値として扱うのが一般的な扱いで、本ツールもそれに従っている(同じ値が2つ並ぶのは仕様であって不具合ではない)。

アンウィンの安全率表 — 材料区分×荷重の種類で引く経験表

では S にいくつを入れるのか。古典的な答えがアンウィンの表だ。材料の区分と荷重の種類の2次元で安全率を与える経験表で、基準強さを引張強さに取ることを前提としている。

材料区分静荷重繰返し(片振り)繰返し(両振り)衝撃
鋼(軟鋼・合金鋼・ステンレス)35812
鋳鉄461015
銅および軽金属(アルミ合金を含む)56915
木材7101520

読み方は簡単で、鋼の両振り荷重なら鋼の行と両振りの列が交わるセルの8を取る。荷重の種類が静荷重から衝撃に変わるだけで安全率が4倍になるため、許容応力は1/4になる。基準強さが引張強さであるという前提が最重要で、この表の値を降伏点に当てると意図より大きな安全率を二重に掛けたことになる(降伏基準の慣用値は1.5〜2程度)。木材の行は表の全体像を示すために載せているが、本ツールの材料選択肢に木材は含まれない。

許容応力を取り違えると何が起きるか — 断面がずれ、余裕が消える

基準の取り違えは、そのまま断面の見積もりのずれになる。SS400に10,000 Nを引張で載せる場合を、2つの基準で並べてみる。引張強さ基準(400÷3 = 133.3 N/mm²)なら必要断面積は75.0 mm²、丸棒なら直径9.8 mm。降伏基準(245÷3 = 81.7 N/mm²)なら必要断面積は122.4 mm²、直径12.5 mm。断面積で1.63倍、材料費と重量もほぼその比で変わる。図面レビューで「この計算書、断面が過大では」と言われたときに実際に起きているのは、たいていこの基準の食い違いだ。どちらが正しいかではなく、どちらの流儀で書かれた計算書なのかを揃えないと議論にならない

過大側のずれはコストで済む。危険なのは逆方向だ。降伏比の低いオーステナイト系ステンレスで引張強さ基準を使うと、安全率の見た目と実際の余裕が乖離する。SUS304に静荷重・S=3を適用すると許容応力は173.3 N/mm² になるが、耐力は205 N/mm² しかない。降伏までの余裕はわずか1.18倍だ。安全率3で設計したつもりでも、荷重見積もりが2割狂えば塑性変形が始まる水準にいる。SUS430でも同じことが起き、150.0 N/mm² に対して降伏までは1.37倍。ここからさらに踏み込んで、「静荷重だから2で十分だろう」とSUS304に安全率2を手入力すると、許容応力260.0 N/mm² は耐力205 N/mm² を完全に超える。この応力に達する前に必ず塑性変形が起きるのだから、安全率2という数字は設計上ほとんど意味を持たない。

塑性変形が起きても部品は割れないので、事故として表面化しにくいのも厄介なところだ。ボルト穴が伸びてガタが出る、はめあいが緩む、シールが効かなくなる、位置決めがずれ続ける——症状は「壊れた」ではなく「精度が出ない」という形で現れ、原因が材料強度の見立て違いだと気づくまでに時間がかかる。荷重試験でようやく発覚し、材料変更か断面増加のどちらかで作り直すことになる。

規格の側は、この問題を早くから織り込んでいる。JIS B 8265(圧力容器の構造)は常温の許容引張応力を、引張強さの1/4と降伏点の1/1.5のうち小さい方と定めている。片方だけでは足りないと知っているから、両方を計算して厳しい側を採るという二重基準になっているわけだ。降伏比の高い材料では引張強さ側が効き、降伏比の低い材料では降伏点側が効く。どちらが効くかは材料次第で、それを一律のルールで書ききるかわりに「両方見て小さい方」としたのは合理的な割り切りだ。本ツールが引張強さ基準と降伏基準を常に並べて表示するのは、この考え方を手元の材料でもなぞれるようにするためでもある。

こんな場面で使う

断面を決める前の入口。曲げモーメントもねじりトルクも計算できているのに、比較する相手の許容応力が決まらず先に進めない、という場面。材料と荷重の種類を選ぶだけで許容引張・せん断・曲げの3つが同時に出るので、そこから断面の検討に入れる。作用荷重を入れれば、必要断面積と丸棒径まで逆算できる。

計算書・図面のレビューと検図。他人が書いた計算書に「許容応力 133 N/mm²」とだけ書かれているとき、その値がどの基準・どの安全率から出たのかを逆算して確かめる場面。同じ材料・同じ荷重条件を入れて、表示される2流儀の値と突き合わせれば、どちらの流儀で書かれたかがすぐ分かる。

材料変更の検討。SS400をSUS304に置き換えたら許容応力はどうなるか、アルミにしたら断面は何倍必要か。基準と荷重の種類を固定したまま材料だけを切り替えると、許容応力・必要断面積・1mあたりの質量が横並びで比べられる。「アルミは軽い」が、必要断面積まで含めると常に軽いとは限らないことも見えてくる。

材料力学の演習と資格試験の確認。機械設計技術者試験や材料力学の問題では、アンウィンの表の引き方そのものが問われる。表の全4行4列を画面に出したまま該当セルが示されるので、「なぜこの安全率になるのか」を目で追いながら確認できる。

基本の使い方 — 3ステップ

ステップ1:材料と荷重の種類を選ぶ。 材料は15種から選ぶ。選ぶとその材料のJIS規格値(引張強さ・降伏点・準拠規格・製品形態や寸法の区分)がその場に表示されるので、自分が想定している材料と同じ条件かを確認できる。荷重の種類は静荷重・繰返し(片振り)・繰返し(両振り)・衝撃の4つ。回転軸のように応力の向きが正負に反転するものは両振り、片方向に載ったり抜けたりするものは片振りを選ぶ。

ステップ2:安全率の決め方と基準の取り方を選ぶ。 安全率は「アンウィンの表から自動」と「手入力」を切り替えられる。社内基準や適用規格で安全率が決まっているなら手入力を使う。基準の取り方は引張強さ基準(σB/S)と降伏基準(σy/S)の2択だが、どちらを選んでも両方の値が表示されるので、比べながら決められる。

ステップ3:許容応力と、その根拠を読む。 許容引張応力・許容せん断応力・許容曲げ応力に加えて、採用した安全率がアンウィンの表のどの区分×どの荷重から来たかが表示される。表そのものも4行4列で表示され、該当するセルが強調される。あわせて、降伏点に対して何倍の余裕が残っているかも出る。ここが1.5倍を切っていたら、引張強さ基準で取った安全率が塑性変形に対しては効いていないというサインだ。

任意入力として、使用温度と作用荷重がある。作用荷重をNで入れると、その許容応力で持たせるのに必要な断面積・丸棒径・角材寸法・1mあたりの質量が逆算される。使用温度は常温域を外れたときに注意が表示されるだけで、許容応力の低減計算は行わない。

使用例8ケース:入力値 → 結果 → 解釈

ケース1:SS400・静荷重 — すべての出発点

入力値:材料 SS400/荷重 静荷重/安全率 アンウィンの表から自動/基準 引張強さ基準/作用荷重 10,000 N

結果:許容引張応力 133.3 N/mm²、許容せん断応力 80.0 N/mm²、採用安全率 S=3(鋼 × 静荷重)、降伏までの余裕 1.84倍。必要断面積 75.0 mm²、必要な丸棒径 9.8 mm(同じ断面積の角材なら8.7 mm角)、1mあたり質量 0.589 kg/m。

解釈:最も検索される組合せがこれ。400 ÷ 3 = 133.3 で、降伏点245に対しては1.84倍の余裕が残る。引張強さ基準で取っても降伏に対して十分な余裕があるため、SS400は「安全率3で素直に使える」材料だといえる。丸棒でφ10があれば足りる計算になるが、これは引張だけを見た値で、曲げや座屈は別途検討が要る。

ケース2:ケース1の基準だけを降伏基準に変える — 1.63倍の分岐点

入力値:ケース1と同一で、基準の取り方だけ降伏基準に変更

結果:許容引張応力 81.7 N/mm²、許容せん断応力 49.0 N/mm²、採用安全率 S=3、降伏までの余裕 3.00倍。必要断面積 122.4 mm²、必要な丸棒径 12.5 mm。

解釈:冒頭の「3人が3通り」の正体がこれ。基準を変えただけで許容応力は 133.3 → 81.7 に落ち、必要断面積は 75.0 → 122.4 mm² に膨らむ。丸棒径も9.8 mmから12.5 mmへ。ただしアンウィンの表は引張強さ基準の表なので、その値をそのまま降伏点に当てるとかなり保守的な設計になる。降伏基準を採るなら安全率は1.5〜2程度が慣用で、そちらのほうが実務の値に近い。

ケース3:S45C・両振り — 回転軸で安全率が8に跳ね上がる

入力値:材料 S45C(焼ならし)/荷重 繰返し(両振り)/安全率 自動/基準 引張強さ基準/作用荷重 20,000 N

結果:許容引張応力 71.3 N/mm²、許容せん断応力 42.8 N/mm²、採用安全率 S=8(鋼 × 両振り)、降伏までの余裕 4.84倍。必要断面積 280.7 mm²、必要な丸棒径 18.9 mm、1mあたり質量 2.204 kg/m。

解釈:引張強さ570 N/mm² というSS400より4割強い材料なのに、両振りの安全率8が効いて許容応力は71.3 N/mm² まで落ちる。SS400の静荷重(133.3)の半分近い。回転軸は1回転ごとに引張と圧縮が入れ替わる典型的な両振りなので、静荷重の感覚で断面を決めると桁が違う。逆にいえば、材料を強くするより荷重の種類を正しく選ぶほうが結果への影響が大きい。

ケース4:SUS304・静荷重 — 数字は大きいのに余裕がない

入力値:材料 SUS304/荷重 静荷重/安全率 自動/基準 引張強さ基準/作用荷重 5,000 N

結果:許容引張応力 173.3 N/mm²、許容せん断応力 104.0 N/mm²、採用安全率 S=3、降伏までの余裕 1.18倍、判定は「余裕小」。降伏基準なら 68.3 N/mm²。必要断面積 28.8 mm²、必要な丸棒径 6.1 mm、1mあたり質量 0.229 kg/m。

解釈:許容応力173.3という数字だけ見るとSS400より頼もしく見えるが、耐力は205 N/mm² しかないので降伏までの余裕は1.18倍。荷重の見積もりが2割狂えば塑性変形が始まる水準だ。降伏比0.394という材料特性がそのまま出ている。寸法精度が要る部品では、この材料は降伏基準で見るべきという判断が、この1.18という数字から下せる。

ケース5:SUS304・静荷重・安全率を2に手入力 — 降伏点を超える

入力値:ケース4と同一で、安全率を手入力の2に変更

結果:許容引張応力 260.0 N/mm²、許容せん断応力 156.0 N/mm²、降伏までの余裕 0.79倍、判定は「危険な設定」。必要断面積 19.2 mm²、必要な丸棒径 4.9 mm。

解釈:「静荷重だから安全率2でいいだろう」という判断がどうなるかの実例。許容応力260.0 N/mm² は耐力205 N/mm² を超えており、この応力に達する前に必ず塑性変形が始まる。破断に対しては2倍の余裕があっても、変形に対しては余裕がマイナスだ。アンウィンの推奨3を下回っているという指摘と、降伏点超過という指摘の両方が出る。値は隠さず表示されるので、「なぜダメなのか」を数字で説明する材料としても使える。

ケース6:FC250(ねずみ鋳鉄)で降伏基準を選ぶ — 選べない理由が返る

入力値:材料 FC250/荷重 繰返し(両振り)/安全率 自動/基準 降伏基準を選択/作用荷重 8,000 N

結果:許容引張応力 25.0 N/mm²、許容せん断応力 15.0 N/mm²、採用安全率 S=10(鋳鉄 × 両振り)、降伏までの余裕は「—」。基準は引張強さ基準にフォールバックし、その理由が表示される。必要断面積 320.0 mm²、必要な丸棒径 20.2 mm。

解釈:FC250は片状黒鉛が切欠きとして働くため明瞭な降伏を示さず、JIS G 5501にも降伏点の規定がない。だから降伏基準は物理的に選べない。ツールは選択を拒否せず、押した結果どうなったか(引張強さ基準で計算した/規格が降伏点を規定していない)を説明する方式にしてある。押せなくすると理由が伝わらないからだ。あわせて、鋳鉄行の安全率が鋼行より1〜3大きいこともここで効いてくる。脆性材は降伏という「予告」なしに破断するため、経験表の側で余裕を厚く取っている。

ケース7:A5052・片振り — アルミは軽金属行のS=6

入力値:材料 A5052P-H34/荷重 繰返し(片振り)/安全率 自動/基準 引張強さ基準/作用荷重 3,000 N

結果:許容引張応力 39.2 N/mm²、許容せん断応力 23.5 N/mm²、採用安全率 S=6(銅および軽金属 × 片振り)、降伏までの余裕 4.60倍。必要断面積 76.6 mm²、必要な丸棒径 9.9 mm、1mあたり質量 0.205 kg/m。

解釈:アルミは鋼と行が違い、静荷重でも5、片振りで6が割り当てられる。引張強さ235 N/mm² を6で割るので許容応力は39.2 N/mm² と小さい。興味深いのは質量の比較で、ケース1のSS400(10,000 Nで0.589 kg/m)に対しこちらは3,000 Nで0.205 kg/m。荷重あたりで揃えると、必要断面積が増える分だけアルミの軽さは目減りする。密度が1/3でも許容応力が1/3以下なら、同じ荷重を持たせる部材は軽くならないという当たり前の事実が数字で確認できる。

ケース8:A6063・使用温度200℃ — 常温の規格値では設計できない領域

入力値:材料 A6063S-T5/荷重 静荷重/安全率 自動/基準 引張強さ基準/使用温度 200℃/作用荷重 2,000 N

結果:許容引張応力 30.0 N/mm²、許容せん断応力 18.0 N/mm²、採用安全率 S=5、降伏までの余裕 3.67倍。必要断面積 66.7 mm²、必要な丸棒径 9.2 mm。あわせてクリープ域に入っている旨の警告が表示される。

解釈:許容応力そのものは常温の規格値で計算され、温度による低減は行われない。しかしアルミ合金は150℃を超えるとクリープと過時効による強度低下が顕著になる。鋼のクリープ目安が350℃前後なのに対しアルミは200℃低い、という差がここで効く。表示されている30.0 N/mm² は「常温ならこの値」であって、200℃で長時間使う部材にそのまま適用してはいけない。低減しないと明示することも情報だという考え方で、警告を出す設計にしてある。

以上8ケース。同じツールで、基準の違い(ケース1と2)、荷重の種類の違い(ケース1と3)、材料特性の違い(ケース4と7)、規格の限界(ケース6と8)がすべて同じ画面の上で比べられる。

仕組み — 安全率の決め方3通りと、このツールが選んだ道

なぜアンウィンの表を主軸に据えたか

安全率の決め方には、大きく3つの流儀がある。

(a) 経験表による決定(アンウィンの表)。材料区分と荷重の種類だけで安全率を与える。長所は、どんな材料・どんな用途でも必ず値が出て、根拠を1行で説明できること。短所は、応力振幅と平均応力を分けて扱わない、部材形状や切欠きを見ない、といった粗さがある点。

(b) 適用規格が定める固定の許容応力。§4 で触れた JIS B 8265 の二重基準のように、規格が材料ごと・温度ごとの表をあらかじめ持っている。長所は法的・契約的な裏付けがあること。短所は、その規格の適用範囲外(一般の機械部品、治具、架台)では使えないこと、そして規格ごとに除数が違うので横断的な比較ができないこと。

(c) 確率論的安全評価。荷重と強度をそれぞれ分布として扱い、破損確率を直接評価する。理論的には最も正しいが、材料強度の分布パラメータと荷重の分布パラメータの両方が必要で、日常の設計検討には重い。

本ツールが (a) を主軸にしたのは、用途を選ばず必ず答えが出て、その答えの出どころを1行で示せるのがこの表だけだからだ。ただし (a) 単独では冒頭の「3人が3通り」問題が解けないので、引張強さ基準と降伏基準の両方を常時併記し、(b) の考え方——両基準を見て厳しい側を採る——を利用者が自分でなぞれるようにした。(c) は本ツールの範囲外とし、そもそもこのツールは「当たりを付ける道具」であって適用規格の代わりではない、という位置づけを明示している。

計算フロー

入力: 材料 / 荷重の種類 / 安全率の決め方 / 基準の取り方 (+ 使用温度 / 作用荷重)

[1] 材料テーブルを引く
    σB, σy, 材料区分(鋼|鋳鉄|銅および軽金属), 縦弾性係数, 密度
    ※ σy が「規定なし」の材料がある(FC250 / SPCC)

[2] アンウィンの表を2次元で引く
    S_unwin = UNWIN[材料区分][荷重の種類]
    手入力モードなら 0.1〜50 の範囲を確認 → 外れていれば S_unwin へフォールバック

[3] 基準強さを確定する
    引張強さ基準 → σ0 = σB
    降伏基準     → σ0 = σy  (σy が無い材料は引張強さ基準へフォールバック)

[4] 割る
    σa = σ0 / S            許容引張応力
    τa = 0.6 × σa          許容せん断応力
    許容曲げ応力 = σa
    もう一方の流儀:  σB/S と σy/S を常に両方計算しておく
    降伏までの余裕:  σy / σa

[5] 作用荷重 F があれば逆算する
    A = F / σa,   d = √(4A/π),   角材 = √A,   質量 = A × ρ / 1000

ポイントは [4] で、採用しなかった側の流儀の値と「降伏までの余裕」を捨てずに持ち続けているところ。値そのものは1つに決まっても、判断材料は2つ以上ないと選べない。

ケース1をステップバイステップで追う

材料 SS400 → σB = 400 N/mm², σy = 245 N/mm²(JIS G 3101・板厚16mm以下)
区分 = 鋼, 荷重 = 静荷重 → アンウィンの表 → S = 3
基準 = 引張強さ → σ0 = 400

σa = 400 ÷ 3           = 133.3333 N/mm²
τa = 0.6 × 133.3333    =  80.0000 N/mm²
許容曲げ応力            = 133.3333 N/mm²(σa と同値)
降伏基準なら 245 ÷ 3    =  81.6667 N/mm²
降伏までの余裕 = 245 ÷ 133.3333 = 1.8375 倍

F = 10000 N のとき
A = 10000 ÷ 133.3333   =  75.0000 mm²
d = √(4 × 75 ÷ π)      =   9.7721 mm
質量 = 75.0 × 7.85 ÷ 1000 = 0.589 kg/m

式そのものを公表値と突き合わせた

計算式が正しいかどうかは、外部の公表値と一致するかで確かめられる。JIS B 8265 の定め(引張強さの1/4と降伏点の1/1.5の小さい方)をSS400に当てると、min(400 ÷ 4, 245 ÷ 1.5) = min(100, 163.3) = 100 N/mm² になる。これは経済産業省が公開する「鉄鋼材料の各温度における許容引張応力」表のSS400・常温(40℃以下)の値100 N/mm² と一致する。つまり、除する相手を引張強さ・降伏点そのものに取るという式の骨格と、材料テーブルの σB=400・σy=245 という前提の両方が、公表表と同じ土俵に乗っていることが確認できた。

一方、本ツールがアンウィンの表で返すSS400・静荷重の値は133.3 N/mm² で、圧力容器規格の100より大きい。これは式が違うのではなく、安全率の出どころが違うだけだ。圧力容器という用途では規格が定める安全率に従う必要があり、一般の機械部品では経験表で当たりを付ける。冒頭の「3人目」が言っていた社内基準の値も、この種の分岐の産物だ。

規格値の突合で分かった、実装上の判断

材料テーブルの数値は、JIS規格本文と材料データの2ソースで突き合わせて確定した。その過程で、そのまま使えない値がいくつか見つかっている。

A2017(ジュラルミン)の引張強さは345か355か。 検索するとほぼ必ず「A2017は引張強さ355 N/mm²」が出てくるが、これは製品形態の違いによるもので、本ツールが採用したJIS H 4040の押出棒(A2017BE-T4)の規格値は345 N/mm² だ。10 N/mm² のずれは安全率で割れば3 N/mm² 程度の差にしかならないが、押出棒・引抜棒・板・鍛造品で規格値が違う材料を「A2017」の一語でまとめてしまうこと自体が事故のもとなので、材料名に製品形態を併記し、画面にも「押出棒」と出す方式にした。同じ理由で、A5052P-H34の耐力は175ではなく180(JIS H 4000:2017)を採っている。

SPCCには強度の規定がない。 板金部品で最も使われる材料でありながら、JIS G 3141本体はSPCCの引張強さ・降伏点をどちらも「規定しない」としている。受渡当事者間の協定による附属書JA(SPCCT)で、ようやく引張強さ270 N/mm² 以上が規定される。本ツールはこの270を代表値として使い、降伏点はnullとして降伏基準を選べないようにした。実務的な含意は明快で、強度を保証したい部品にSPCCを指定してはいけない。強度規定のある材料(SS400、SPHC-590など)に置き換えるのが正しい対処だ。同じ理由でFC250の降伏点もnullにしてある(JIS G 5501が規定していない)。

なお、画面に表示される縦弾性係数と密度は、JISが規定している項目ではない参考値だ。許容応力の計算には一切使っておらず、密度だけが1mあたり質量の逆算に使われる。規格値と参考値を混ぜて表示しないよう、参考値には必ずその旨を添えている。

許容応力の一覧表ではなく、その数字の「出どころ」を出す

前半で触れたとおり、材料の許容応力そのものは探せば見つかる。素材商社のカタログ、教科書の巻末表、材料データサイトの一覧。ただしそこに並んでいるのは結果の数字だけで、どの基準強さを何で割った値なのかが書かれていない。だから拾ってきた数字を自分の設計にそのまま使ってよいのか判断できず、結局は引張強さから割り直すことになる。このツールが上乗せしているのは3点だ。

1. 材料と荷重の種類を選ぶだけで、3種類の許容応力が同時に出る

15種の材料 × 4つの荷重形式のすべてに対し、許容引張応力・許容せん断応力・許容曲げ応力を一度に返す。一覧表は引張の値しか載っていないことが多く、せん断は「0.6を掛ける」と別のページに書いてある、という分断がよくある。そこを1画面にまとめた。作用荷重を入れれば必要断面積と丸棒径まで戻ってくる。

2. 安全率が表のどのセルから来たかを毎回いっしょに出す

アンウィンの表を4行×4列そのまま画面に描き、いま採用しているセルを強調している。SS400・静荷重なら鋼の行と静荷重の列が交差する3、同じ材料でも衝撃を選べば12に切り替わり、許容応力は133.3 N/mm² から33.3 N/mm² へ落ちる。安全率だけを結果に書く実装では「なぜ3なのか」が読み手に残らないが、表ごと出せばその場で確認できる。手入力に切り替えたときも、表の推奨値を併記して比較できるようにしている。

3. 2つの流儀を並べて、答えが割れる理由そのものに答える

引張強さ基準と降伏基準は、どちらかが正しいのではなく見ている限界が違う。SS400・静荷重・安全率3なら、前者は133.3 N/mm²、後者は81.7 N/mm² で1.6倍以上開く。この2つを常に並べたうえで、「採用した許容応力に対して降伏点が何倍あるか」を数字にしている。SUS304を静荷重・引張強さ基準で計算すると許容応力は173.3 N/mm² と大きく出るが、降伏までの余裕は1.18倍しかない。この一行があるかないかが、安全率3を取ったつもりで塑性変形させる事故を手前で止められるかの分かれ目になる。

関連ツールとの役割分担

このページは強度計算の入口担当だ。梁の曲げ応力とたわみを検定するツール、伝達動力から軸径を決めるツール、細長い柱の座屈を見るツール、ボルトの破断モードを3つに分けて診断するツールは、いずれも「発生する応力」を計算する側で、比べる相手の許容応力は本ツールが決める。切欠きや段付きがある部材では応力集中係数のツールで係数を求め、発生応力側を割り増してから比較する。硬さ換算のツールは、材料証明書がなく硬さしか分からない現物から引張強さを推定する入口として、本ツールの手前に立つ。

材料記号の数字と、100年残った表の話

アンウィンの表は19世紀の経験則である

安全率の表に名前を残しているW. C. アンウィンは、19世紀後半から20世紀初頭にかけて活躍したイギリスの機械工学者だ。材料の種類と荷重形式という2つの軸だけで安全率を決めるこの表が、100年以上たった今も機械設計の教科書に載り続けている。

理由は、粗いが外さないからだ。鋼で 3 / 5 / 8 / 12、鋳鉄で 4 / 6 / 10 / 15、銅および軽金属で 5 / 6 / 9 / 15。静荷重から片振り、両振り、衝撃へと進むにつれて値が跳ね上がる。この段差には、繰返し荷重で疲労限度が引張強さよりずっと低くなること、衝撃では見かけの応力が静的な計算値を大きく超えること、脆性材は前触れなく割れることが、まとめて丸め込まれている。個々を分けて計算するには疲労限度線図も切欠き感度も要るが、当たりを付けるだけなら表を1回引けば済む。ちなみに表には木材の行(7 / 10 / 15 / 20)まである。木材の安全率がどの列でも鋼より一段大きいのは、節や含水率で強度が大きくばらつく材料だからだ。

材料記号の数字は、記号ごとに意味が違う

図面に並ぶ材料記号の数字を「大きいほど強い」と読むと足をすくわれる。同じ位置にある数字が、記号ごとにまったく別のものを指しているからだ。

記号数字が意味するもの
SS400引張強さの下限 400 N/mm²
SM490A引張強さの下限 490 N/mm²
S45C炭素量 0.45%(強度ではない)
SCM435主要合金元素の記号 + 炭素量 0.35%
A50525000番台 = 主要添加元素がマグネシウム
A20172000番台 = 主要添加元素が銅
A70757000番台 = 主要添加元素が亜鉛
FC250引張強さの下限 250 N/mm²
SPCC数字なし(JIS本体に強度の規定がない)

SS400 の 400 は強度、S45C の 45 は成分。この2つが同じ図面に並ぶのが日常なのに、数字の意味は完全に別物だ。アルミはさらに紛らわしい。A2017 の引張強さは345 N/mm²、A5052 は235 N/mm²、A6063 に至っては150 N/mm² で、番号の大小と強度の順序はまったく一致しない。4桁の先頭は添加元素の系統を表す分類記号で、続く3桁は合金の識別番号にすぎないからだ。アルミフレームで見慣れた A6063 が、本ツールの15材料でいちばん引張強さが低いという事実は、番号からは読み取れない。

ステンレスの「降伏点」は、実は降伏点ではない

SUS304 の強度としてカタログに載る205 N/mm² は、正確には降伏点ではなく0.2%耐力だ。オーステナイト系ステンレスは、軟鋼のように応力ひずみ線図に明瞭な折れ点(上降伏点・下降伏点)が現れない。だから「除荷したときに0.2%の永久ひずみが残る応力」という測定上の約束事で代用する。JIS の規格表も、軟鋼には「降伏点」、ステンレスやアルミには「耐力」と書き分けている。

つまり0.2という数字は物理的な境目ではなく、人間が決めた線引きだ。同じ材料でも0.1%耐力を取れば数字は下がり、0.5%なら上がる。本ツールが規格の呼び名をそのまま表示しているのは、この違いを潰さないためだ。

許容応力を外さないための実践Tips

材料を比べるときは、基準と安全率を固定して材料だけ動かす。 材料変更の検討で知りたいのは「同じ条件なら何倍の断面が要るか」であって絶対値ではない。荷重の種類と基準の取り方をそのままに材料だけ切り替えれば、許容応力の比がそのまま実力差になる。作用荷重を入れておけば必要断面の質量まで出るので、軽量化のつもりでアルミに変えたら断面が増えて質量が減らなかった、という落とし穴もその場で潰せる。

降伏比の低い材料では、引張強さ基準の答えを鵜呑みにしない。 耐力が引張強さの4割程度しかない材料では、引張強さを3で割った値が耐力のすぐ手前まで来る。使用例のSUS304のケースを見てほしい。引張強さ基準の安全率だけを見ていると「3を取ったから安全」と読んでしまう。寸法精度が要る部品なら、必ず降伏基準にも切り替えて両方の値を見る。

「衝撃」は落とす・ぶつけるだけではない。 急停止・急起動する搬送装置、モーターの立ち上がりトルクを受けるカップリング、突風を受ける屋外構造物も同じ列に入る。荷重の種類を1つ甘く選ぶだけで許容応力は大きく緩むので、迷ったら安全率の大きい側で計算し、それでも成立するかを先に確かめるほうが早い。

適用規格がある分野では、表より規格の値を優先する。 圧力容器、建築の鋼構造、クレーン。これらには材料ごとの許容応力を定めた規格があり、法的にはそちらが根拠になる。本ツールは規格を引く前の当たり付けと、規格値がなぜその大きさなのかを理解するための道具として使ってほしい。

社内基準の安全率があるなら手入力に切り替える。 手入力モードでも表の推奨値は併記されるので、社内基準が経験表に対して厳しいのか緩いのかがその場で分かる。推奨値を下回っていればその旨が示されるが、根拠のある基準ならそれ自体は問題ではない。

よくある質問

同じSS400なのに、サイトによって許容応力の値が違うのはなぜ?

基準強さの取り方と、安全率の出どころが違うからだ。SS400 の引張強さ400 N/mm² を安全率3で割れば133.3 N/mm²、降伏点245 N/mm² を3で割れば81.7 N/mm²。さらに圧力容器の JIS B 8265 は引張強さの1/4と降伏点の1/1.5の小さいほうを取るので、min(400/4, 245/1.5) = 100 N/mm² になる。建築の鋼構造なら長期・短期でまた別の値だ。どれも間違いではなく前提が違うだけで、本ツールが2つの流儀と安全率の出どころを常に表示しているのは、拾ってきた数字と食い違ったときにどちらの前提がずれているかを特定できるようにするためだ。

アンウィンの安全率は、今でも使ってよいの?

当たりを付ける道具としては十分使えるが、最終的な設計根拠にはできない。材料の種類と荷重形式だけで安全率を決める表であり、応力集中・使用温度・腐食環境・製造ばらつき・検査の有無を一切見ていないからだ。適用規格がある分野では、その規格が定める許容応力を優先してほしい。それでも本ツールが表を採用しているのは、材料や荷重形式を切り替えたときの「効き方」を掴むには2次元表がいちばん見通しがよいからだ。規格の安全率を使いたければ、手入力に切り替えれば同じ計算ができる。

FC250 や SPCC を選ぶと、降伏基準の値が出ないのはなぜ?

JIS がこれらの材料の降伏点を規定していないためだ。ねずみ鋳鉄の FC250 は片状黒鉛が切欠きのように働くため明瞭な降伏を示さず、JIS G 5501 も引張強さだけを規定している。SPCC はもっと極端で、JIS G 3141 の本体表では引張強さも降伏点も「規定しない」となっており、受渡当事者間の協定による附属書JA(SPCCT)でようやく引張強さ270 N/mm² 以上が出てくる。そのため本ツールは、降伏基準を選んでも引張強さ基準へ自動的に切り替えて計算し、その理由を画面に出している。FC250 を両振りで使えば許容応力は25.0 N/mm²、SPCC を静荷重で使えば90.0 N/mm² が引張強さ基準の答えだ。降伏点を根拠にした設計が必要なら、材料そのものを強度規定のあるものに置き換えるのが正しい対処になる。

板厚や径が変わると規格値も変わるはず。どう扱えばいい?

本ツールは材料ごとに最も流通する寸法区分に固定し、その区分を画面に明記している。SS400 は板厚16mm以下として降伏点245 N/mm² を採用しており、16mmを超えると235、40mmを超えると215、100mmを超えると205まで下がる。A7075BE-T6 は径6mm超75mm以下の区分だ。厚い材料・太い材料を使う場合は、材料の注記にある区分の値を読み、その値を安全率で割り直してほしい。引張強さは板厚で変わらない材料が多く降伏点だけが下がるので、引張強さ基準で計算しているなら影響を受けないケースもある。寸法区分の切り替えは今後の検討事項だ。

表示されている縦弾性係数や密度が「参考値」なのはなぜ?

JIS の材料規格が規定しているのは化学成分と引張試験の結果(引張強さ・降伏点または耐力・伸びなど)であって、縦弾性係数や密度は規定項目ではないからだ。設計で一般に使われる代表値を表示しているが、規格が保証する数字ではない。特にねずみ鋳鉄の縦弾性係数は応力の大きさとともに変化し、100〜130 GPa 程度の幅がある。なお、これらの値は許容応力の計算には一切使っていない。密度だけは、作用荷重を入れたときに必要断面積から1mあたりの質量を換算するのに使う。たわみ計算のように縦弾性係数が結果を左右する用途では、材料メーカーの実測値を確認してほしい。

入力したデータはどこかに送信される?

送信されない。材料の選択も安全率も使用温度も作用荷重も、計算はすべてブラウザの中で完結していて、サーバーには何も送られない。開発中の製品の荷重や寸法をそのまま入れても外に出ることはないし、ログインも登録も不要だ。ページを閉じれば入力内容も残らない。

まとめ

許容応力の数字そのものより、その数字がどの基準強さをどの安全率で割ったものかのほうが重要だ。引張強さ基準と降伏基準を並べ、安全率がアンウィンの表のどのセルから来たかまで見えていれば、拾ってきた値と自分の計算が食い違ったときに原因を特定できる。降伏比の低い材料で「安全率3を取ったのに降伏が近い」という危険側の見落としも、降伏までの余裕を1つの数字にしておけば手前で止まる。

ここで決めた許容応力は、そのまま下流のツールの判定基準になる。梁の曲げ応力とたわみは梁の強度計算・たわみ計算ツール、伝達動力から必要軸径を出すなら軸径選定シミュレーターの許容せん断応力に、細長い柱の座屈は座屈荷重チェッカーに渡す。ボルトの締結部は材料の許容応力ではなく強度区分で決まるのでボルト強度・破断モード診断へ、段付き軸や穴のある部材は応力集中係数Kt計算で発生応力側を割り増してから比べてほしい。材料証明書がなく硬さしか分からない現物なら、硬さ換算ツールで引張強さを推定してから本ツールに戻ってくるとつながる。

材料テーブルの規格値やアンウィンの表の値について気になる点があれば、お問い合わせページから連絡してもらえると助かる。

M

Mahiro

Mahiro Appの開発者。引張強さ基準の安全率3で設計したステンレス部品が、破断のはるか手前で塑性変形して寸法が戻らなくなった経験から、降伏までの余裕を常に画面に出す作りにしている。

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