圧入・締りばめ しめしろ計算

はめあい記号から最小・最大しめしろの両端を引き、接触面圧・伝達可能トルク・圧入力・ハブ安全率をまとめて照査する

はめあい記号(H7/s6 等)から最小・最大しめしろの両端を引き、ラメの厚肉円筒式で接触面圧・伝達可能トルク・圧入力・ハブの相当応力をまとめて照査する。表面粗さでつぶれる分(DIN 7190)も差し引く。

プリセット

しめしろの決め方

自動引き当ては φ3〜120mm。それ以外は直接入力へ

穴(ハブ)の公差域
軸の公差域(しまりばめ)

形状

軸の内径は 0 で中実軸として扱う

材質・条件

目安: 油潤滑で圧入 0.05〜0.10 / 乾燥で圧入 0.08〜0.15 / 焼きばめ(脱脂)0.12〜0.20 / 鋼×鋳鉄・鋼×アルミ 0.08〜0.15

伝達トルクは μ を小さく見るほど安全側、圧入力は μ を大きく見るほど安全側で、保守側が逆を向く。仕上げはハブ穴・軸とも同じと仮定(違う場合は粗いほうを選ぶ)

平滑化係数(DIN 7190)

0 または空欄でトルク判定を省略する

ハブ安全率1.66伝達トルク 116 / 必要 50 N·m
OK

最小しめしろ(公称)

14.0 μm

軸ei 35 − 穴ES 21

最大しめしろ(公称)

48.0 μm

軸es 48 − 穴EI 0

表面の平滑化量

5.1 μm

0.8 ×(Rz3.2+Rz3.2)

有効しめしろ 下限

8.9 μm

トルクの設計値

有効しめしろ 上限

42.9 μm

応力の設計値

接触面圧

22.9 〜 110.4 MPa

有効しめしろの下限〜上限

伝達可能トルク(設計値)

116.4 N·m

上限 561.9 / μ小が安全側

圧入力(設備選定値)

37.5 kN

下限 7.8 / μ大が安全側

ハブ相当応力(Tresca)

294 MPa

フープ応力 σθ 184 MPa

ハブ安全率

1.66

S45C(調質) σy 490 MPa

軸の相当応力

110 MPa

中実:一様圧縮 p

軸の安全率

4.44

トルク安全率

2.33

1.5以上を推奨

ハブが降伏する有効しめしろ

71.4 μm

これを超えるしめしろは設計不可

焼きばめ加熱温度

214 ℃

ΔT 194 ℃・組立余裕0.02mm込み

適用寸法区分

24を超え30以下

JIS B 0401-2

しめしろ–伝達トルク線図

ハブ降伏必要トルク02143648602815618421,122有効しめしろ [μm]伝達可能トルク [N·m]
伝達可能トルク公差でばらつく範囲必要トルクハブ降伏しめしろ

断面図

dh 60.0 mmd 30.0 mmL 30.0 mm側面断面

ハブの色は総合判定に応じて変わる(緑=OK / 黄=注意 / 赤=NG)。赤い矢印は接触面で押し合う面圧

はめあい記号5種の比較(他の条件は同じ)

記号公称しめしろ有効下限面圧上限伝達トルクハブ安全率
H7/p6135 μm0.0 μm77 MPa0.0 N·m2.39
H7/r6741 μm1.9 μm92 MPa24.6 N·m1.99
H7/s61448 μm8.9 μm110 MPa116.4 N·m1.66
H7/t62054 μm14.9 μm126 MPa195.0 N·m1.46
H7/u62761 μm21.9 μm144 MPa286.7 N·m1.28

摩擦係数の感度(この計算で最大の不確かさ)

μ伝達トルク(μ小が安全側)圧入力(μ大が安全側)トルク安全率
0.0877.6 N·m25.0 kN1.55
0.1097.0 N·m31.2 kN1.94
0.12116.4 N·m37.5 kN2.33
0.15145.5 N·m46.8 kN2.91
0.20194.0 N·m62.4 kN3.88
厚肉円筒(ラメ)+DIN 7190 の平滑化。焼きばめ温度は熱膨張フィットシミュレーターと同じ式

弾性域・一様面圧・軸対称を仮定した概算。実際の圧入は面圧分布が端部で高く、かじり・繰返し荷重・フレッチングコロージョン・遠心力の影響を受ける。摩擦係数は表面状態と潤滑で 0.1〜0.4 に散り、伝達トルクはこれに比例する。最終的な設計判断は実機試験と社内基準に従うこと。

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関連ツール

「H7/s6で圧入」と図面に書いたあと、何N·m伝わるか答えられるか

図面の軸に φ30 H7/s6 と書き込む。ここまでは誰でもできる。先輩の図面がそうなっていたから、社内標準にそう書いてあったから、教科書の「しまりばめの常用例」がそうだったから。

問題はその次だ。その締結は結局、何N·mのトルクを伝えるのか。歯車が滑らずに回るのか。プーリーが空転しないのか。そこに答えられる人は急に減る。

はめあい記号は「寸法の決め方」の言語であって、「力の伝わり方」の言語ではない。記号を選んだ瞬間に軸と穴の寸法差は決まるが、その差が接触面圧に変わり、面圧が摩擦を生み、摩擦がトルクを伝えるという翻訳の工程は、図面のどこにも書かれていない。記号と力学のあいだにはこの断絶がある。

しかも翻訳の入口でつまずく。H7/s6 のしめしろはひとつの数値ではない。φ30 なら 14μm から 48μm までの幅を持つ。3倍以上の開きがあり、どちらの端を使うかで答えが変わる。伝えられるトルクを知りたいなら小さいほうの端を、ハブが割れないか知りたいなら大きいほうの端を見る必要がある。

このツールは、はめあい記号を入れると公差域の両端を JIS の表から引き、その両端でそれぞれ面圧・伝達トルク・圧入力・ハブの相当応力まで一気に翻訳する。記号から力への変換を、電卓と公差表を往復せずに1画面で終わらせるために作った。

なぜ作ったのか — 最小しめしろと最大しめしろを別々の紙で計算していた

きっかけは、自分の机の上に同じ計算用紙が2枚並んでいたことだった。

平歯車を軸に圧入する検討をしていて、まず「公差の下振れでもトルクが足りるか」を確認した。JIS の公差表から最小しめしろを拾い、電卓でラメの式を叩き、面圧を出し、伝達トルクを出す。OK。次に「公差の上振れでハブが割れないか」を確認する。同じ表から最大しめしろを拾い、同じ電卓を叩き直し、今度は面圧からフープ応力を出す。紙が2枚になる。

Web の圧入計算ツールも試した。ラメの式で面圧・圧入力・伝達トルク・ハブのフープ応力まで出してくれる完成度の高いものが実在する。ただどれもしめしろを「ひとつの数値」として入力させる設計になっていて、公差域の両端という発想がない。だから結局、最小しめしろで1回・最大しめしろで1回、入力し直して2回計算することになる。紙が2枚あったのと同じ状態が、画面の中で再現されるだけだった。しかも公差表を別ウィンドウで開いて μm を手打ちするので、桁を1つ間違えても気づかない。

もう一点、どのツールにも無くて困ったのが表面粗さの扱いだ。しめしろは幾何学的な寸法差だが、圧入すると山と谷がつぶれるので、実際に効くしめしろはその分だけ減る。DIN 7190 はこれを平滑化量として差し引く方法を規定している。研削 Rz3.2 の面どうしなら差し引く量は 5.1μm。ところが φ20 の H7/p6 は最小しめしろが 1μm しかない。平滑化だけで最小しめしろが消える。この事実は、粗さを見ないツールでは絶対に画面に出てこない。

「両端を同時に扱う」「粗さを差し引く」。この2つを最初から前提にした計算機が欲しかった。それがこのツールを作った理由だ。

締りばめ とは — しめしろが面圧に変わる仕組みを厚肉円筒から理解する

締りばめ とは何か — 穴より軸が太い、その差がすべて

はめあいには、軸のほうが細くて隙間が空く「すきまばめ」、軸のほうが太くて必ず食い込む「しまりばめ(締りばめ)」、その中間の「中間ばめ」がある。締りばめの本質はひとことで言える。穴の直径より軸の直径のほうが大きい。その差が「しめしろ」だ。

φ30 の穴に φ30.048 の軸を入れる。差は 0.048mm、つまり 48μm。直径で測った差なので「直径しめしろ」と呼び、半径あたりでは半分の 24μm になる。式で扱うのは基本的に直径しめしろのほうだ。

寸法差があるものを無理に組み合わせるので、当然そのままでは入らない。押し込む(圧入)か、ハブを温めて膨らませる(焼きばめ)か、軸を冷やして縮める(冷やしばめ)。どの方法で入れても、入ったあとの状態は同じで、材料が弾性変形した分だけ内部に力が残る。詳しくははめあい(Wikipedia)JIS B 0401-1の公差方式の定義が参考になる。

しめしろ 計算の第一原理 — リングと指のたとえ

少しきつい指輪を指にはめる場面を思い浮かべてほしい。指輪は内側から押し広げられて周方向に伸びる。指はぐるりと押されてわずかに凹む。指輪が広がった量と、指が凹んだ量の合計が、もともとの寸法差に等しくなる。この「取り合い」が成立する点で、両者のあいだの圧力が決まる。

圧入もまったく同じだ。ハブ(外側の部品)は内側から押し広げられて内径が増え、軸(内側の部品)は外周から押されて外径が減る。

δ(もとの寸法差) = ハブの内径増加 + 軸の外径減少

そして「どれだけ広がるか/縮むか」は材料と形状で決まる。ハブが厚ければ広がりにくく、その分だけ圧力が高くなる。薄ければよく広がるので圧力は低い。軸が中実なら縮みにくく、中心に穴が空いていればよく縮む。ヤング率が高いほど変形しにくい。これらをすべて弾性論で解くと、次の式になる。

接触面圧 求め方 — ラメの厚肉円筒式

内圧・外圧を受ける円筒の応力は、19世紀のラメの解として閉じた形で書ける(英語版Wikipedia の Cylinder stress が導出を含めて詳しい)。締りばめは「ハブが内圧を受ける厚肉円筒」と「軸が外圧を受ける円筒(または中実棒)」を貼り合わせた問題として解ける。

記号
  d   : 接触面直径 [mm]        L  : はめあい長さ [mm]
  dh  : ハブ外径 [mm]          ds : 軸内径 [mm](中実なら 0)
  qh  = d / dh (ハブの径比)   qs = ds / d (軸の径比)
  δ   : 直径しめしろ [mm]      μ  : 摩擦係数
  E, ν: ヤング率 [MPa]、ポアソン比

ハブ側の係数
  Ch = (1 + qh²)/(1 − qh²) + νh
軸側の係数
  Cs = (1 + qs²)/(1 − qs²) − νs
       ※中実軸は qs = 0 なので Cs = 1 − νs

接触面圧
  p = δ / ( d × ( Ch/Eh + Cs/Es ) )   [MPa]

分母の Ch/Eh + Cs/Es が「合計でどれだけ変形しやすいか」を表す。変形しやすいほど分母が大きく、同じしめしろでも面圧は低くなる。指輪のたとえがそのまま式になっている。

ハブと軸が同じ材料で、しかも軸が中実なら、νh と νs が打ち消し合って驚くほど簡単な形に潰れる。

Ch + Cs = (1 + qh²)/(1 − qh²) + ν + 1 − ν = 2/(1 − qh²)

  p = E·δ·(1 − qh²) / (2d)

面圧はしめしろに正比例し、接触面直径に反比例する。そしてハブが厚い(qh が小さい)ほど高い。φ30・dh60(qh=0.5)・δ=0.04288mm・E=206000 を入れると p = 110.4 MPa になる。この簡約形は暗算での検算に使える。

面圧が摩擦を生み、摩擦がトルクを伝える

面圧が決まれば、あとは高校物理の摩擦だ。接触面の面積は πdL なので、面に垂直に働く力の合計は次のようになる。

全法線力      N = p × π·d·L                    [N]
摩擦力の上限   f = μ·N = μ·p·π·d·L              [N]

軸方向に押し抜く力(=圧入力)
  F = μ·p·π·d·L            [N]  → ÷1000 で kN

回転方向にすべり出すトルク(=伝達可能トルク)
  T = f × (d/2) = μ·p·π·d²·L / 2   [N·mm] → ÷1000 で N·m

圧入力とトルクは同じ摩擦力から出ている。違いは腕の長さ d/2 を掛けるかどうかだけだ。だから圧入力が同じでも、径が太いほど伝えられるトルクは大きくなる。伝達トルクが に比例するのは、面積が d に比例し、腕が d/2 だからだ。

最小しめしろと最大しめしろ、両方見ないと設計にならない理由

φ30 の H7/s6 を例に取る。穴 H7 は上の許容差 +21μm・下の許容差 0、軸 s6 は下の許容差 +35μm・上の許容差 +48μm。ここから、

  • 最小しめしろ = 軸の下限 35 − 穴の上限 21 = 14μm
  • 最大しめしろ = 軸の上限 48 − 穴の下限 0 = 48μm

同じ記号なのに 3.4倍の開きがある。しかもこれは不良品の話ではなく、全数が公差内に入っている正常な状態での幅だ。加工した100個のうち、たまたま穴が上限側・軸が下限側になった1個は 14μm で組まれ、逆の1個は 48μm で組まれる。設計者はその両方に責任を持つことになる。

最小側で足りないと「滑る」

締結力が足りない側の端で何が起きるか。圧入した歯車やスプロケットが軸に対してわずかに回る。破断のような派手な壊れ方はしない。ただ、タイミング系なら位相がずれ、位置決め用のカムなら原点が狂う。厄介なのは、滑ったあとも部品は健全に見えることだ。分解しても外観にはほとんど痕跡が残らず、原因が特定されないまま「たまにズレる機械」として出荷される。微小すべりが続けば接触面は赤い粉を吹き(フレッチング)、その部分から疲労き裂が入ることもある。

そしてこの「足りない側」は、公差表の数字よりさらに厳しい。表面粗さの平滑化を差し引くからだ。φ30 H7/s6 の最小しめしろ 14μm から研削面の平滑化 5.1μm を引くと、実際に効くのは 8.9μm しか残らない。公称の 6割だ。φ20 の H7/p6 に至っては最小しめしろが 1μm しかないので、平滑化だけで全部消える。p6 が「軽圧入・分解を前提とする用途」に位置づけられているのは、こういう理由による。

最大側で過大だと「割れる」

逆側の端では、しめしろが大きいぶん面圧が上がり、ハブの内面には周方向の引張応力(フープ応力)が立つ。φ30・dh60 の鋼ハブなら 48μm 側で σθ が 184 MPa、Tresca の相当応力は 294 MPa に達する。S45C 調質(降伏点 490 MPa)なら安全率 1.66 で持つが、ハブ外径を絞った途端に足りなくなる。φ50 の H7/u6 をハブ外径 60mm・SS400 で組むと、安全率は 0.74 まで落ちて降伏する。

さらに危ないのが鋳鉄だ。ねずみ鋳鉄は明確な降伏点を持たず、降りずに割れる。鋼なら降伏して応力が頭打ちになり、しめしろが多少過大でも寸法が馴染むだけで済む場面が、鋳鉄では縦割れになる。圧入したVプーリーがハブから縦に裂けるという故障は、たいてい最大しめしろ側の照査を飛ばしたときに出る。

小径ほど「しめしろ比」が効く

面圧は p = E·δ·(1 − qh²)/(2d) のとおり、δ に比例して d に反比例する。ということは、同じはめあい記号でも小径ほど条件は厳しくなる。公差表の値は径が大きくなるほど増えるが、増え方が径そのものより緩いからだ。φ20 の s6 の最大しめしろは 48μm、φ100 では 93μm。しめしろは2倍弱にしかならないのに直径は5倍になるので、δ/d の比は小径のほうが 2.6倍大きい。

同じ理屈で、平滑化の効きも小径のほうが深刻になる。差し引く 5.1μm は径によらず一定なのに、公差幅は小径ほど狭い。小さい部品ほど「表と実物のずれ」が相対的に大きくなる。JIS B 0401 の基本公差が寸法区分ごとに刻まれているのは、この相似則が単純な比例では効かないことの裏返しでもある。

こんな設計場面で効く

キーを省いて歯車を軸に固定したい。 キー溝は軸の断面係数を落とし、隅部に応力集中を作る。切削工数も増える。圧入だけで必要トルクが伝わるなら、キーもキー溝も要らない。判断に必要なのは「公差の下振れ側でも必要トルクを超えるか」の一点で、まさにこのツールの最小しめしろ側の出力がそれにあたる。足りなければ、はめあいを一段強めるか、はめあい長さを伸ばすか、素直にキーを併用するかの三択になる。

鋳鉄プーリーが圧入で割れた原因を追う。 現物のハブ外径・穴径・軸径を測って直接入力モードに入れれば、そのロットで実際に生じた面圧とハブの相当応力が出る。鋳鉄は引張強さ基準で見るので、鋼の感覚で安全率 1.1 を許していると足元をすくわれる。割れの再発防止で「はめあいを一段落とす」「ハブ外径を太らせる」のどちらが効くかも、数字で比較できる。

中空軸に軸受スリーブを圧入する。 中空軸は外から押されると内面に応力が集中し、その大きさはハブ側の 2倍相当になる。厚肉のハブより先に軸のほうが降伏する構成は珍しくないが、ハブしか見ないツールでは見落とす。軸の安全率を並べて出すのはこの場面のためだ。

アルミハブに鋼軸を圧入する。 線膨張係数がアルミ 23.8・鋼 11.7 と2倍違うので、機械が温まるとハブのほうが速く膨らみ、しめしろが減る。常温で成立していても運転温度で緩む可能性がある構成なので、温度を振った検討へつなぐ必要がある。

3ステップの使い方

ステップ1:しめしろの決め方を選ぶ。 図面がまだ決まっていないなら「はめあい記号から自動」を選び、接触面直径と穴(H6/H7/H8)・軸(p6/r6/s6/t6/u6)の公差域を指定する。JIS の表から最小・最大しめしろが自動で入る。現物を測ったなら「しめしろを直接入力」に切り替え、実測値を μm で入れる。こちらは呼び径の制限を受けない。

ステップ2:形状と材質を入れる。 ハブ外径・軸内径(中実なら 0)・はめあい長さの3つと、ハブ材・軸材を選ぶ。ハブが薄い、はめあいが長い、軸が薄肉、といった前提から外れる形状には注意の注記が表示される。

ステップ3:摩擦係数と仕上げを合わせ、両端を読む。 摩擦係数の既定は 0.12、仕上げの既定は研削 Rz3.2。必要伝達トルクを入れると、伝達可能トルク(最小しめしろ側)とハブ安全率(最大しめしろ側)の両方から総合判定が出る。しめしろ–伝達トルク線図には、公差でばらつく範囲・必要トルクの水平線・ハブが降伏するしめしろの垂直線が同時に描かれるので、「下振れでも足りて、上振れでも降伏しない」かどうかが1枚で読める。

プリセットは6種類ある。平歯車を鋼軸に圧入/カップリング強圧入/Vプーリー(鋳鉄ハブ)/スプロケット(薄肉ハブ)/中空軸にスリーブ/アルミハブ×鋼軸。近い構成から始めて数値を差し替えるのが早い。

使用例で確かめる — 同じ φ30 でも記号ひとつでトルクは0から287N·mまで動く

実際の8ケースを、入力・結果・解釈の3点セットで並べる。どれも実装した計算エンジンの出力そのままだ。

ケース1:平歯車を鋼軸に圧入(φ30 H7/s6・中実・同材)

入力 — d=30 / H7・s6 / dh=60 / 中実 / L=30 / ハブ・軸とも S45C調質 / μ=0.12 / 研削 Rz3.2 / 係数 0.8 / 必要トルク 50 N·m

結果 — 公称しめしろ 14〜48μm、平滑化 5.1μm を引いて有効しめしろ 8.9〜42.9μm。接触面圧 22.9〜110.4 MPa。伝達可能トルク(最小しめしろ側)116.4 N·m、圧入力(最大しめしろ側)37.5 kN。ハブ安全率 1.66、軸の安全率 4.44、トルク安全率 2.33。焼きばめ加熱温度 214℃。判定 OK。

解釈 — 下振れでも必要トルクの 2.3倍が伝わり、上振れでもハブは降伏しない。両端が挟み込めているので設計として成立している。圧入設備は 37.5 kN、つまり 4トン級を用意する。

ケース2:カップリング強圧入(φ50 H7/u6・軸 SCM435・μ0.15)

入力 — d=50 / H7・u6 / dh=90 / 中実 / L=50 / ハブ S45C調質・軸 SCM435調質 / μ=0.15 / 必要トルク 600 N·m

結果 — 公称 45〜86μm、有効 39.9〜80.9μm。面圧 56.8〜115.2 MPa。伝達トルク 1672.8 N·m、圧入力 135.7 kN。ハブ安全率 1.47、トルク安全率 2.79。焼きばめ 201℃。判定 OK。

解釈 — u6 は最小しめしろが 45μm もあるので、平滑化を引いても 39.9μm 残る。伝達トルクに大きな余裕が出る一方、圧入力が 135.7 kN(約14トン)まで跳ね上がる。この規模になると常温圧入より焼きばめのほうが現実的で、201℃ なら鋼の許容範囲に収まる。

ケース3:Vプーリー(鋳鉄ハブ・φ25 H7/s6)

入力 — d=25 / H7・s6 / dh=55 / L=25 / ハブ FC250・軸 S45C調質 / μ=0.12 / 必要トルク 20 N·m

結果 — 有効しめしろ 8.9〜42.9μm。面圧 18.1〜87.6 MPa。伝達トルク 53.4 N·m、圧入力 20.6 kN。ハブ安全率 1.13、トルク安全率 2.67。焼きばめ 279℃。判定 注意。

解釈 — トルクは足りているのにハブ安全率が 1.13 しかない。ねずみ鋳鉄はヤング率が鋼の半分なので面圧は下がるが、基準にできるのが引張強さ 250 MPa(降伏点が存在しない)なので、余裕が食われる。鋳鉄は降伏せず割れる材料なので、この 1.13 は鋼の 1.13 よりずっと危うい。ハブ外径を太らせるか、r6 に落とすのが正しい対処になる。加熱温度 279℃ も高めで、冷やしばめとの併用を検討したい水準だ。

ケース4:スプロケット(薄肉ハブ・φ40 H7/t6・dh56)

入力 — d=40 / H7・t6 / dh=56(dh/d=1.4)/ L=30 / 同材 S45C調質 / μ=0.12 / 必要トルク 150 N·m

結果 — 公称 23〜64μm、有効 17.9〜58.9μm。面圧 22.6〜74.3 MPa。伝達トルク 204.0 N·m、ハブ安全率 1.62、トルク安全率 1.36。判定 注意。

解釈 — ハブが薄いので面圧が上がらず、しめしろの割にトルクが伸びない。dh/d が 1.4 と薄肉側なのでフープ応力は 229 MPa まで立っており、面圧が低いのに応力は高いという薄肉特有の状態になっている。トルク安全率 1.36 は摩擦係数の不確かさを吸収しきれない水準なので、はめあい長さを伸ばすかキーを併用したい。

ケース5:中空軸にスリーブ(φ60 H7/s6・軸内径 40)

入力 — d=60 / H7・s6 / dh=100 / ds=40 / L=40 / 同材 S45C調質 / μ=0.12 / 必要トルク 300 N·m

結果 — 有効しめしろ 17.9〜66.9μm。面圧 13.0〜48.6 MPa。伝達トルク 352.7 N·m、圧入力 44.0 kN。ハブ安全率 3.23 に対して軸の安全率 2.80。トルク安全率 1.18。判定 注意。

解釈 — このケースの読みどころは安全率の逆転だ。ハブは十分厚いので 3.23 と余裕があるのに、軸のほうが 2.80 と低い。中空軸は外から押されると内面に応力が集中し、相当応力が 175 MPa まで上がる(ハブ側は 152 MPa)。ハブだけ見ていれば安心と判断してしまう構成であり、軸の安全率を並べて出す意味がここにある。中実軸なら軸の相当応力は面圧そのもの(48.6 MPa)で済む。

ケース6:φ20 H7/p6 — 有効しめしろが消える

入力 — d=20 / H7・p6 / dh=45 / L=20 / 同材 S45C調質 / μ=0.12 / 研削 Rz3.2 / 必要トルク 10 N·m

結果 — 公称しめしろ 1〜35μm。平滑化 5.1μm を引いた結果、有効しめしろは 0.0〜29.9μm。面圧 0.0〜123.5 MPa、伝達トルク 0.0 N·m、トルク安全率 0.00。判定 NG。

解釈 — バグではない。φ20 の H7/p6 は最小しめしろが 1μm しかないので、研削面の平滑化だけで消えてしまう。「公差の下振れ側では締結力がゼロになりうる」という物理的に正しい結論だ。参考までに、仕上げ補正を「補正なし」にすると有効しめしろは 1.0〜35.0μm、伝達トルクは 6.2 N·m になる。それでも必要トルク 10 N·m には届かない。p6 が軽圧入向けとされる理由が数字で見える。

ケース7:ハブが降伏する(φ50 H7/u6・dh60・SS400ハブ)

入力 — d=50 / H7・u6 / dh=60(dh/d=1.2)/ L=40 / ハブ SS400・軸 S45C調質 / μ=0.12 / 必要トルク 200 N·m

結果 — 有効しめしろ 39.9〜80.9μm。面圧 25.1〜50.9 MPa。伝達トルク 473.2 N·m、トルク安全率 2.37。ところがハブ安全率 0.74。判定 NG。

解釈 — トルクだけ見れば余裕十分に見えるのに、ハブは降伏している。フープ応力は 282 MPa、相当応力は 333 MPa で、SS400 の降伏点 245 MPa をあっさり超える。ハブが降伏する有効しめしろは 59.5μm と算出されるので、上振れ側の 80.9μm がその線を越えていることも同時に分かる。u6 を薄肉ハブに使ってはいけない、という判断がここで下せる。

ケース8:実測しめしろを直接入れる(φ45・30〜70μm)

入力 — 直接入力モード / d=45 / しめしろ 30〜70μm / dh=80 / 中実 / L=40 / 同材 S45C調質 / μ=0.12 / 必要トルク 400 N·m

結果 — 有効しめしろ 24.9〜64.9μm。面圧 38.9〜101.5 MPa。伝達トルク 594.4 N·m、圧入力 68.9 kN。ハブ安全率 1.65、トルク安全率 1.49。判定 注意。

解釈 — 現物の測定値から入る使い方だ。公差表に縛られないので、抜取り検査で得た実際のばらつき幅をそのまま入れられる。トルク安全率 1.49 は推奨の 1.5 をわずかに割っており、摩擦係数の見積りひとつで判定が動く領域にいることが分かる。なお同じモードで φ30 に 14〜70μm ではなく 14〜48μm を入れれば、ケース1 の記号モードと結果が完全に一致する。2つのモードは同じ計算エンジンを通っている。

5種のはめあい記号を一括で比較する

ケース1 の条件(φ30・dh60・中実・L30・S45C調質・μ0.12・研削 Rz3.2・係数0.8・必要 50 N·m)を固定したまま、軸の公差域だけを振り替えた比較表が結果に出る。

はめあい公称しめしろ有効下限伝達トルクハブ安全率判定
H7/p61〜35μm0.0μm0.0 N·m2.39NG
H7/r67〜41μm1.9μm24.6 N·m1.99NG
H7/s614〜48μm8.9μm116.4 N·m1.66OK
H7/t620〜54μm14.9μm195.0 N·m1.46OK
H7/u627〜61μm21.9μm286.7 N·m1.28注意

記号ひとつで伝達トルクが 0 から 286.7 N·m まで動き、その裏返しでハブ安全率が 2.39 から 1.28 へ単調に落ちていく。トルクと応力は完全なトレードオフで、この表の中で必要トルクを満たしつつ安全率が残る行を選ぶのが締りばめ設計の実体だ。この条件では s6 が中央にあり、t6 まで許容できる。穴側を H6 に締めれば最小しめしろは 22μm に増えて伝達トルクは 221.2 N·m に上がり、逆に H8 に緩めれば最小しめしろが減ってトルクは落ちる(φ50 H8/u6 では 1085.6 N·m まで低下する)。

摩擦係数を振ると答えの幅が見える

同じ条件で摩擦係数だけを振った感度表も常時表示される。

μ伝達トルク圧入力トルク安全率
0.0877.6 N·m25.0 kN1.55
0.1097.0 N·m31.2 kN1.94
0.12116.4 N·m37.5 kN2.33
0.15145.5 N·m46.8 kN2.91
0.20194.0 N·m62.4 kN3.88

μ が 0.08 から 0.20 に動くだけで、伝達トルクも圧入力も 2.5倍になる。この計算で最大の不確かさは材料でも公差でもなく摩擦係数だという事実が、表を見れば一目で分かる。そして重要なのは、安全側の向きが列によって逆になっていることだ。伝達トルクの列では μ を小さく見るほど安全側だが、圧入力の列ではプレス能力を選ぶ以上 μ を大きく見るほど安全側になる。単一の μ を選んで一組の答えを出すのではなく、幅で見るしかない。

仕組み — 公差表の引き方と、粗さをどう差し引くか

式そのものは §3 で導出したので、ここでは実装上どう組み立てたか、そのときどこで判断が要ったかを書く。

手法比較1:しめしろを単一値で扱うか、両端で扱うか

圧入計算の実装には2つの流儀がある。ひとつはしめしろを1つの数値として受け取り、1つの答えを返す方式。式が素直で画面も単純になるので、既存ツールの多く(Interference fit の一般的な解説に沿った教科書的実装)はこちらだ。もうひとつは公差域の両端を同時に流す方式。計算量は倍だが、返す答えが「範囲」になる。

後者を採った。理由は判定の構造にある。締りばめの合否は「最小しめしろでトルクが足りる」かつ「最大しめしろで降伏しない」の連立で決まるので、片端の答えだけでは合否そのものが判定できない。単一値方式では、ユーザーが2回入力して2つの答えを頭の中で連立させる必要がある。両端方式なら、その連立をツール側で閉じられる。総合判定を1つの状態カードで出せるのも、両端を持っているからだ。

手法比較2:粗さの平滑化係数を 0.8 と 0.4 のどちらにするか

DIN 7190 は表面の山がつぶれる分を s = 係数 × (Rz_ハブ + Rz_軸) として差し引く。この係数は 2001年版では 0.8 だったが、2017年の改訂で 0.4 に引き下げられた。片方に決め打ちせず、両方を選べるようにしてある。

決め打ちを避けたのは、どちらが安全側かが出力ごとに逆を向くからだ。ケース1 の条件で係数を 0.8 から 0.4 に変えると、平滑化量は 5.1μm から 2.6μm に半減し、有効しめしろは 8.9〜42.9μm から 11.4〜45.4μm に増える。すると伝達トルクは 116.4 → 149.9 N·m と上がり、トルクにとっては非安全側の変化になる。ところが同時にハブの相当応力も 294 → 312 MPa へ上がり、安全率は 1.66 → 1.57 に落ちる。応力にとっては安全側の変化だ。同じ係数変更が、片方の出力を甘く・もう片方を厳しくする。

摩擦係数の非対称と構造は同じで、この計算には「これを選べば全部安全側」という設定が存在しない。だからツールは既定を 0.8(トルク側に保守的)に置きつつ、切り替えられる形にして、どちらの向きに効くかを注記で示す方針にした。

実装詳細:公差表の引き方で間違えやすい3点

(1)寸法区分は「超え〜以下」で引く。 JIS の基準寸法区分は「30を超え40以下」という書き方をするので、判定は lo < d <= hi になる。φ30 は「30を超え…」ではなく「24を超え30以下」に入る。ここを lo <= d < hi で書くと、区分の境界にあたる φ30・φ50・φ80・φ120 で1つ隣の値を拾ってしまう。

(2)しまりばめ用の区分は p6/r6/s6 の粒度で切ってはいけない。 p6・r6・s6 は 18〜30 をひとまとめにできる区分があるが、t6・u6 は 18〜24 と 24〜30 で値が違う。粗い区分でテーブルを組むと、t6/u6 を選んだときだけ静かに間違った値が出る。区分は細かい側に合わせて11個持たせてある。

(3)軸の上の許容差は基本偏差から作る。 テーブルが持っているのは下の許容差 ei だけで、上の許容差は es = ei + IT6(本ツールの軸クラスはすべて等級6)として計算する。穴側は H なので下の許容差 EI は常に 0、上の許容差 ES が IT6/IT7/IT8 そのものになる。ここから δmax = esδmin = ei − ES が出る。

範囲を φ3〜120 に絞ったのは、t6・u6 の基本偏差を表形式の資料で裏取りできた範囲がそこまでだったからだ。ISO 286-1 の定義式で外挿すれば φ120 超も埋められるが、そうすると同じテーブルの中に「表由来の値」と「式由来の値」が混在する。混ぜずに切り、φ120 超は直接入力モードで受けることにした。なお t6 は ISO 286 自体が φ24 から定義しているので、φ24以下では計算せず理由を返す。

計算例:φ30 H7/s6 を1ステップずつ

1. 寸法区分   φ30 → 「24を超え30以下」(lo < d <= hi)
2. 軸 s6      ei = 35μm、IT6 = 13μm → es = 35 + 13 = 48μm
3. 穴 H7      EI = 0、ES = IT7 = 21μm
4. しめしろ   δmax = es − EI = 48μm
              δmin = ei − ES = 35 − 21 = 14μm
5. 平滑化     研削 Rz3.2 どうし、係数0.8
              s = 0.8 × (3.2 + 3.2) = 5.1μm
              有効しめしろ = 8.9〜42.9μm
6. 面圧       qh = 30/60 = 0.5、同材・中実なので p = E·δ·(1−qh²)/(2d)
              p_max = 206000 × 0.04288 × 0.75 / 60 = 110.4 MPa
              p_min = 22.9 MPa
7. トルク     T_min = 0.12 × 22.9 × π × 30² × 30 / 2 / 1000 = 116.4 N·m
8. 圧入力     F_max = 0.12 × 110.4 × π × 30 × 30 / 1000 = 37.5 kN
9. ハブ応力   σeq = 2 × 110.4 / (1 − 0.5²) = 294 MPa
              安全率 = 490 / 294 = 1.66

ステップ6で使っている簡約形は同材・中実のときだけ成立する。異材や中空軸では Ch/Eh + Cs/Es を素直に計算する一般形に戻る。ステップ9の相当応力は Tresca(最大せん断応力説)で評価しており、内面では周方向の引張 σθ と半径方向の圧縮 −p の差がそのまま相当応力になるので 2p/(1−qh²) という簡潔な形になる。

なお本ツールは弾性域だけを扱う。DIN 7190 には、ハブの一部が降伏することを許容する弾塑性設計の規定もあるが、設計の自由度が上がるかわりに前提条件が増える。ハブ安全率が 1 を割った時点で「設計不可」と返し、弾塑性の領域には踏み込まない方針にしてある。

焼きばめツール・はめあい記号ツールとの役割分担

圧入計算そのものを載せたページは、探せばいくつも出てくる。ラメの厚肉円筒式で面圧と伝達トルクを出すシミュレーターは実在するし、穴基準・軸基準でシートを分けた Excel を配布している技術士事務所もある。だから「圧入が計算できること」は差にならない。差がつくのは、前半で触れたとおり、設計者が実際に往復している手順のどこまでを1画面で閉じるかのほうだ。

公開されている圧入計算ツールとの機能差

実際に触って確認した非対応項目は4つある。

  1. はめあい記号から公差域を引けない — しめしろは単一の数値として手入力する設計になっている。図面には H7/s6 と書いてあるのに、そこから μm を取り出す作業だけは自分で表を開くことになる
  2. 最小しめしろと最大しめしろを同時に扱えない — 入力欄がしめしろ1つなので、両端を見るには数値を入れ替えて2回回すしかない
  3. 表面粗さによる平滑化がない — 圧入で潰れる山の分を差し引かないので、有効しめしろという概念そのものが画面に出てこない
  4. 焼きばめ温度が出ない — 「熱応力は考慮していない」と明記しているものもある

このツールはこの4点を埋めてある。さらに、外部ツールに無い出力を2つ持っている。

ひとつは p6 / r6 / s6 / t6 / u6 の5種を同一条件で並べる比較表だ。φ30・ハブ外径60・中実軸・はめあい長さ30・S45C調質・μ0.12・研削 Rz3.2 の条件なら、伝達可能トルクは p6 で 0.0 N·m、r6 で 24.6、s6 で 116.4、t6 で 195.0、u6 で 286.7 N·m と並ぶ。同時にハブ安全率は 2.39 → 1.99 → 1.66 → 1.46 → 1.28 と下がっていく。トルクを取りにいくほどハブの余裕が減るという当たり前の関係が、入力を1回もやり直さずに1画面で読める。

もうひとつは 摩擦係数の感度表。μ = 0.08 / 0.10 / 0.12 / 0.15 / 0.20 の5点について、伝達可能トルクと圧入力とトルク安全率を並べる。同じ条件で μ を 0.08 から 0.20 に振ると、伝達トルクは 77.6 → 194.0 N·m、圧入力は 25.0 → 62.4 kN まで動く。2.5倍の幅だ。μ は圧入計算で最大の不確かさなので、単一の答えを1つ出すより幅を見せるほうが設計判断としては正しい。しかもトルクは μ を小さく見るのが安全側、圧入力は μ を大きく見るのが安全側で、保守側が出力ごとに逆を向く。感度表で両方を同時に並べているのは、この非対称を1つの μ で押し切れないからだ。

サイト内5本の使い分け

締結まわりのツールは似た顔をしているが、担当する工程が違う。

  • JIS はめあい検索ツール — 公差域そのものを読む担当。すきまばめ・中間ばめも含めて φ3150 まで引ける。「H7/s6 は何 μm か」だけを知りたいときはこちら
  • 本ツール(圧入・締りばめ しめしろ計算) — しまりばめの力学に特化。公差域から面圧・伝達トルク・圧入力・ハブ応力まで一気に進む。はめあい記号からの自動計算は φ120 まで、しめしろ直接入力なら径の制限なし
  • 熱膨張フィットシミュレーター — 温度を振ったときにしめしろがどう変わるかを見る担当。焼きばめ・冷やしばめの温度設計、運転温度でのしめしろ減少はこちらが本職。本ツールが出す焼きばめ温度は副次的な出力で、式と組立余裕を意図的に揃えてある
  • キー溝強度チェッカー — 圧入だけでトルクが足りないとき、キーを併用する側の検討。ここで注意したいのは、キーの伝達トルクと圧入の伝達トルクを単純に足さないこと。剛性が違うので分担は等分にならず、実務では「キーが主・圧入は位置決めと振れ止め」か「圧入が主・キーは非常時の保険」のどちらかに寄せる
  • 軸径選定シミュレーター — そもそもの軸径を決める上流工程。軸径が決まってから締結の話になるので、順番としてはこちらが先に立つ

豆知識 — 「焼きばめ」は鉄道の車輪から広まった

締りばめという技術が土木・機械の世界で最初に大規模に使われたのは、鉄道車両の車輪だ。

初期の鉄道車輪は、鋳鋼や鍛鋼の輪心(ホイールセンター)の外側に、レールと接するタイヤと呼ばれる鋼の輪をはめた二重構造をしている。摩耗するのはレールに触れるタイヤだけなので、減ったらタイヤだけ交換すれば輪心と車軸は使い回せる、という発想だ。このタイヤの取り付けが焼きばめそのもので、英語版 Wikipedia の Railway tyre には、加熱して膨らませたタイヤにフランジ側を上にして輪心を落とし込み、冷えて締まったところで溝に固定リング(発明者の名から Gibson ring と呼ばれる)を入れる、という手順がそのまま書かれている。

面白いのは、なぜしめしろだけに頼らず固定リングを入れるのかという理屈だ。この構造の車両ではブレーキシューをタイヤに直接押し当てるので、制動のたびにタイヤが加熱される。加熱されればタイヤは膨らみ、しめしろは減る。かといって、その加熱を織り込んでしめしろを増やせばいいという話でもない。しめしろを大きくすればタイヤ自身の引張応力が上がり、割れのリスクに振り替わるだけだからだ。しめしろを増やす方向には天井があるので、足りない分は別の機構(固定リング)で受け持たせる。このツールが「ハブが降伏する有効しめしろ」を逆算して上限として出しているのは、まさにこの天井を数値で見せるためだ。

なお、緩みではなく疲労側の事故だが、1998年のドイツ・エシェデ列車事故は高速列車のタイヤが破損して脱線し、101人が亡くなっている。振動低減のために輪心とタイヤの間にゴム層を挟んだ構造が、タイヤのたわみを大きくしたことが背景にある。圧入・焼きばめ部が「静的につかまっていればいい」だけの部位ではないことを、この事故は示している。詳しくは焼きばめ(Wikipedia)も参照してほしい。

冷やしばめ・フレッティング・遠心力

冷やしばめは、ハブを加熱する代わりに軸をドライアイスや液体窒素で縮める方法だ。ハブが薄肉で加熱すると変形する、樹脂やゴムの部品が近くにある、調質材を焼戻し温度に近づけたくない、といった場面で選ばれる。ただし縮められる量は温度差 × 線膨張係数で決まり、常温から液体窒素まで下げても −196℃ 程度、鋼なら 1m あたり 2.5mm 前後しか縮まない。加熱側のほうが取れる温度差が大きいので、大きなしめしろが要るときは焼きばめのほうが素直だ。

フレッティングコロージョンは、圧入部の疲労を語るときに避けて通れない現象。しっかり締まっているように見える圧入部でも、曲げや振動が加わると接触面ではミクロン単位のすべりが起きている。この微小すべりが酸化皮膜を削り、露出した新生面がすぐ酸化し、生じた硬い赤錆がさらに研磨材として働く、という悪循環に入る。結果として圧入端部に微小な亀裂が生まれ、素材そのものの疲労限度より大幅に低い応力で折れることがある。圧入軸の疲労設計で段差部の隅Rや逃げ溝がうるさく言われるのはこのためだ(フレッティング — Wikipedia)。

遠心力もしめしろを食う。高速回転するとハブは自分の質量で外へ膨らむので、静止時のしめしろがそのまま残るわけではない。減少量はおおよそ

Δしめしろ ∝ ρ × ω² × dh² / E
(ρ=密度, ω=角速度, dh=ハブ外径, E=ヤング率)

の形で効く。ポイントは ω の2乗で入ることで、回転数が2倍なら影響は4倍になる。フライホイールや高速スピンドルのように周速の大きい用途では、静止状態の計算だけで決めてはいけない。このツールは弾性域・静止状態に絞っているので遠心力は見ていない。高速回転の案件では、ここで得た面圧を出発点にして別途評価してほしい。

もうひとつ、トルクと軸方向力は同じ摩擦を取り合うという点も覚えておきたい。伝達トルクの式も抜去力の式も同じ μ·p·接触面積から出ているので、回しながら同時に引き抜き方向の力がかかる用途では、両方を満額使えるわけではない。合成すべりの評価が要る。

Tips

1. 迷ったらまず s6 を基準にする。 しまりばめの中で s6 は「トルクは十分取れるがハブの余裕もまだ残る」ちょうど真ん中にあたる。p6 から順に上げていくより、s6 を出発点にして足りなければ t6 / u6、過剰なら r6 に落とすほうが早い。5種の比較表を見れば1回で当たりが付く。

2. 面取りと圧入速度で端部を守る。 計算上は面圧が一様でも、実物では圧入の入り口が最も過酷になる。軸端に 15〜30° の面取りを付け、ハブ側の穴口にも逃げを取ると、かじり(ガリ)と端部の割れが目に見えて減る。速度も同じで、速く押し込むほど摩擦熱と応力集中が増える。特に鋳鉄ハブでは、押し込み速度を落とすだけで割れ率が変わる。

3. 潤滑は圧入力を下げるが、伝達トルクも同じだけ下げる。 油を塗れば押し込むのは楽になる。ただし μ が下がれば伝達トルクも比例して下がる。「入れやすくする」ための潤滑が「回らなくなる」原因になりうるので、潤滑ありで組むなら μ もそれに合わせて下げた値で照査する。感度表で μ を1段下げた行を見れば、どれだけ余裕が減るかがすぐ分かる。

4. 実測しめしろがあるなら直接入力モードに切り替える。 公差域は「まだ現物が無い設計段階」の話だ。穴と軸を測ってあるなら、実測値から決まる最小・最大を直接入れたほうが精度が高い。ロットのばらつきを実測から拾えば、公差幅いっぱいで見るより現実的な設計値になる。φ120 を超える径でもこのモードなら計算できる。

5. μ を自社の実測値に置き換えるのが、いちばん効く改善。 このツールの出力で最も不確かなのは材料定数でも公差表でもなく μ だ。同じ材料・同じ仕上げでも 0.1〜0.4 に散る。もし社内に圧入力の実測記録があるなら、圧入力から μ を逆算できる。実測の圧入力を計算値で割った比が、そのまま使うべき μ の補正になる。この1手間で、以降の全案件の精度が上がる。

よくある質問

はめあい記号から自動で計算できるのが φ3〜120mm までなのはなぜ?

公差表の裏取りが取れた範囲がそこまでだったからだ。しまりばめ用の軸の基本偏差のうち、p6 / r6 / s6 は比較的広い径まで表が公開されているが、t6u6 は「常用するはめあい」の表から φ120 を境に外れてしまい、独立した2つ目の情報源で突き合わせられなかった。ISO の定義式から計算して埋めることもできたが、そうすると同じ表の中に「表から取った値」と「式から作った値」が混在する。値の出どころが行によって違う表は、後から検証できない。混ぜるくらいなら範囲を切るほうが誠実だと判断した。

φ120 を超える径でも計算自体は問題なくできる。最小・最大しめしろを直接入力するモードに切り替えれば、径の制限なしで同じ照査が回る。公差域は JIS はめあい検索ツールや手元の表から拾って μm で入れればいい。

表面粗さの平滑化係数、0.8 と 0.4 はどちらを選べばいい?

見たい出力によって答えが逆になる、というのがこの設問の厄介なところだ。

係数を大きく取るほど有効しめしろが小さく出るので、トルクも応力も控えめに出る——この向きの非対称は前半の仕組みの節で数値付きで見たとおりだ。

使い分けの結論だけ言えば、トルクが足りるかを確かめるときは 0.8、ハブが割れないかを確かめるときは 0.4 で回して、両方で成立していることを確認するのがいちばん安全だ。切り替えは一手なので、重要な締結では2回見ておく価値がある。なお 0.8 は DIN 7190:2001 の値、0.4 は 2017年改訂で引き下げられた値で、どちらも規格に載っている数字だ。片方が間違いというわけではない。

摩擦係数 μ は何を入れればいい?

社内の実測値があるなら、迷わずそれを使ってほしい。同じ鋼どうしの圧入でも、脱脂の程度・仕上げ・圧入速度で μ は 0.1〜0.4 に散る。文献値をそのまま使うより、自社の工程で測った1点のほうが確実に精度が高い。

手がかりが何もない場合の目安は、油潤滑で圧入するなら 0.05〜0.10、乾燥状態で圧入するなら 0.08〜0.15、焼きばめで脱脂してあるなら 0.12〜0.20、鋼×鋳鉄や鋼×アルミの組み合わせなら 0.08〜0.15 あたり。ただしこれは幅を持った目安であって、確定値ではない。だからこそ μ を5点振った感度表を常時出している。単一の μ で出した1つの答えを信じるより、幅のどこに自分の設計が落ちるかを見るほうが判断を誤りにくい。

焼きばめの加熱温度が、熱膨張フィットシミュレーターの答えと一致するのはなぜ?

意図的に式と定数を揃えてあるからだ。組立余裕は 0.02mm、線膨張係数は同じ材料テーブルの値、基準温度は 20℃ で、必要温度差の求め方も同一にしてある。同じ入力で2つのツールが違う温度を出したら、どちらを信じればいいのか分からなくなる。それは計算ツールとして最悪の状態なので、重なる部分は最初から一致させる方針を取った。

ひとつだけ注意点がある。焼きばめ温度の計算には、表面粗さの平滑化を引く前の公称の最大しめしろを使っている。加熱して膨らませる相手は図面上の寸法差であって、圧入時に潰れる山の分ではないからだ。ここで有効しめしろを使うと2つのツールの答えがずれてしまう。

このツールの焼きばめ温度はあくまで副次的な出力で、基準温度は 20℃ 固定にしてある。基準温度そのものを振りたい、冷やしばめと比較したい、運転温度でのしめしろ変化まで見たい、という場合は熱膨張フィットシミュレーターのほうが本職だ。

入力した寸法・材質・トルクの値は、どこかに送信される?

送信されない。計算はすべて閲覧しているブラウザの中で完結していて、入力値がサーバーへ送られることも、どこかに保存されることもない。ページを閉じれば入力内容は残らない。

圧入の設計値は、接触面直径・はめあい長さ・ハブ外径・材質がそろうと部品の形状がかなり具体的に特定できてしまう。社外に出せない図面の数値を扱う場面が普通にあるので、そもそもデータを持たない作りにしてある。社内ネットワークの外に情報を出せない環境でも、そのまま使ってもらって構わない。

圧入したあと、抜こうと思えば抜ける?抜去力は圧入力と同じ?

理屈のうえでは、抜去力は圧入力とほぼ同じになる。どちらも μ・接触面圧・接触面積の積で決まり、押す方向か引く方向かが違うだけだからだ。このツールが出す圧入力の上限値は、そのまま「抜くのに必要な力の目安」としても読める。

ただし実際には、抜くほうが重くなることが多い。組んでから時間が経つと接触面に酸化皮膜や赤錆が生じ、摩擦係数が上がる。前述のフレッティングで生じた酸化物が噛み込んでいれば、なおさら重い。屋外機や高温部で長期間使われた圧入部では、計算値の何倍もの力が必要になったり、そもそも破壊しないと外れなかったりする。定期的に分解する前提の部品なら、圧入で締結しきらずキー併用や別の締結方式を検討したほうがいい。

また、抜去では押し込みと逆向きに力がかかるため、入り口を守っていた面取りが効かない。分解を想定するなら、抜き治具をかける座面や押しねじ穴を最初から設計に入れておきたい。

まとめ

しめしろは公差の幅だけばらつく。最小側で「トルクが足りるか」、最大側で「ハブが割れないか」を同時に見なければ設計にならない。はめあい記号を選ぶだけで両端が出て、粗さで消える分まで差し引いた実際の締結力が読める。

公差域そのものを引きたいときは JIS はめあい検索ツール、温度を振ってしめしろの変化を見るなら 熱膨張フィットシミュレーター、圧入だけでトルクが足りないときは キー溝強度チェッカー と併せて使ってほしい。

計算結果の疑問点や、こういう条件も扱ってほしいという要望があれば お問い合わせページ から知らせてほしい。

M

Mahiro

Mahiro Appの開発者。図面にH7/s6と書いたあと、公差の下限で本当にトルクが足りるのかを別紙で検算し直す往復が面倒で作った。小径のp6が表面粗さだけでしめしろを失うことは、実際に滑らせてから知った。

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