エキスパンションループ設計ツール

L/Z/U字ループのアーム長をKellogg近似で並列計算し、3形状を一画面で比較

💡 配管の熱膨張ΔLを計算し、L/Z/U字ループ3形状のアーム長(Kellogg近似)を同時比較。U字が最も短く済むため一般に推奨される。

代表シナリオ

材質と温度

配管仕様

許容応力はB31.1/B31.3典型で138MPa。SUSは高温域で低下する。

計算結果(3形状比較)

推奨形状U字ループアーム長 3,452mm
最短

吸収すべき伸縮量 ΔL(膨張)

93.6 mm

α=11.70×10⁻⁶/K × L=50m × ΔT=160K

L字 アーム長

6,905 mm

×1.3推奨 8,976mm

Z字 アーム長

6,905 mm

L字と同式

U字 アーム長

3,452 mm

×1.3推奨 4,488mm

L字

アーム6905mm

Z字

アーム6905mm

U字(推奨)

アーム長3452mm

ℹ 計算値は最小必要アーム長です。施工余裕として実アーム長≧計算値×1.3を推奨します。

Kellogg近似の最小アーム長。摩擦・継手柔軟性は未考慮。重要配管は応力解析(CAESAR II等)で検証を。

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関連ツール

真夏の工場で、直線配管が9cm伸びた話

炭素鋼の蒸気配管を、真夏の昼間に点検したことがある。朝20℃、運転180℃。50m引き通しの炭素鋼100A(Do=114.3mm)は、運転温度に達した瞬間に9.36cm伸びる。人の足より長く、子どもの身長の半分近い。これが逃げ場なくまっすぐアンカーとアンカーの間に閉じ込められたらどうなるか。熱応力が数百MPa級に跳ね上がり、フランジがギシッと鳴ったかと思うと、T継手のルート部が裂ける。蒸気がブロウアウトして、運が悪ければ人が被災する。

だから熱い配管も冷たい配管も、どこかで伸縮を吸収してやらないといけない。一番素直な方法が「曲がりを付けておく」こと。L字・Z字・U字、どれも目的は同じで、配管を曲げることで熱伸縮を曲げ変形として逃がす仕組みだ。これをエキスパンションループと呼ぶ。

でも、曲げの「腕の長さ」をどれくらい取ればいいのか、は意外と出てこない。教科書は英語のASME B31系資料ばかり、日本語のまとまった計算例も少ない。現場では「えいやっ」で3m取ってみたり、「スペースないから1mでいい?」と聞かれて困ったり。そこで、炭素鋼でもSUSでもPVCでも、入力4つ+材質プリセットで3形状のアーム長を並列表示するツールを作った。設計書にそのまま貼れる数値が、5秒で出る。

なぜ作ったのか

最初のきっかけは、Kindle第5冊『配管設計入門』第5章のドラフトを書いているときだった。エキスパンションループの章で計算例を出そうとしたら、M.W.Kellogg社の1956年の名著『The Design of Piping Systems』を開くハメになる。The Design of Piping Systems(M.W.Kellogg, 1956)は配管設計者のバイブルで、いま読んでも十分通用する。ただ英文の近似式と、係数表と、図表の山。とても非設計者に「はい、これで計算できます」とは言えない。

日本語で探しても、JIS B 8266(圧力容器)や火力発電所関連のガイドに断片はあるが、L/Z/U字のアーム長を並列に比較できる無料ツールはほぼない。有料の配管応力解析ソフト(CAESAR IIなど)は優秀だが、年間ライセンス数百万円で中小の設計部には手が届かない。

そこで「プラント本番にはCAESAR IIが要るとしても、初期検討と2次元ルート計画の段階までなら、Kellogg近似で十分」という割り切りで作ったのがこのツール。L字・Z字・U字の3形状を同じ入力から同時に計算して並べるのがポイントで、他のWebツールにありがちな「U字だけ」「Z字だけ」という単独計算ではない。なぜなら現場は「L字で収まるならL字、だめならU字」と形状を比較しながら決める仕事だからだ。既存アプリの /pipe-insulation/pipe-sizing と組み合わせて、保温厚・管径・ループ長を一連の流れで検討できるようにしてある。

プラント配管設計20年の先輩に見せたところ「初期検討で電卓をパタパタ叩く時間が消える」と言われ、この切り口で間違っていないと確信した。詳細解析は別物、初期検討に全振りしたシンプルさを武器にしている。

エキスパンションループとは何か

熱膨張がもたらす配管の伸縮

金属もプラスチックも、温度が上がれば伸びる。これは物性値として知られていて、長さL[m]の棒が温度差ΔT[K]で伸びる量は次の式で表せる。

ΔL [mm] = α × L [m] × 1000 × ΔT × 1e-6

α は線膨張係数で、単位は ×10⁻⁶/K。炭素鋼は約11.7、SUS304は17.3、銅は16.8、PVCに至っては70。同じ温度差でもPVCは炭素鋼の6倍伸びる。意外と知られていないが、SUSは炭素鋼の1.5倍伸びるので「ステンレスだから大丈夫」は錯覚だ。

炭素鋼 100A(Do=114.3mm)を50m引き通して20℃→180℃にすると、

ΔL = 11.7 × 50 × 1000 × 160 × 1e-6 = 93.6 mm

約9.4cm。これを両端アンカーで押さえ込むと、そのぶんの歪みが全部応力に変わる。鋼材の線膨張を阻害すると、たった1℃で約2.4MPaの圧縮応力が発生する計算で、ΔT=160℃なら400MPaに近い。SS400の降伏応力が245MPaだから、素直にひずみを閉じ込めれば降伏してしまうわけだ。

L/Z/U字ループの幾何学

ここで登場するのが「曲げで逃がす」発想。アンカーAとアンカーBを結ぶ直線ルートの途中に、直角の曲がりを入れてオフセットさせる。アンカー間が伸びると曲がり部が撓んで、そのたわみが応力を吸収する役割を担う。

  • L字: 直角一箇所。最も単純だが、直交するルート方向のスペースが必要
  • Z字: 平行オフセット(例えば壁にぶつかる前に横にずらして戻す)。梯子の段差のような形
  • U字: L字の逆で、ループ状に膨らんで戻る。最も曲げ効率が良い

同じ熱伸縮量ΔLを吸収する場合、L/Z字は sqrt(3 × E × Do × ΔL / σ_A) のアーム長が必要で、U字は sqrt(0.75 × E × Do × ΔL / σ_A)。分子の係数が 3 と 0.75 で4倍違う。平方根を取ると2倍で、U字はL/Z字の1/2のアーム長で済む。理由は後述の§8で解説する。

Kellogg近似の立ち位置

この手計算式は、M.W.Kellogg社が1956年に公表した『The Design of Piping Systems』で定式化された近似解法で、通称Kellogg近似と呼ばれる。ASME B31.1(動力配管)ASME B31.3(プロセス配管)、日本でいうJIS B 8266(小型圧力容器の構造)にも、同系統の式が採用されている。

Kellogg近似は「両端完全固定・曲げ優位・弾性域」を仮定したもので、配管を一様な梁として扱う。実際には曲げ管継手のフレキシビリティ係数k、3次元応力、周囲摩擦など考慮すべき要素があるが、初期検討のレンジ推定には十分な精度だと広く認められている。詳細解析はCAESAR IIやROHR2のようなFEMベースのパイプストレスソフトで行うのが本番だ。

実務での重要性

蒸気ブレイクは人を殺す

なぜ熱伸縮の計算をいちいちやるかと言えば、配管破損が直接人命に関わるからだ。蒸気ブレイクの事故史は数多い。過去に米国OSHAが報告した工場の高温蒸気事故事例では、熱応力で疲労破壊した蒸気配管が破裂して作業員が全身火傷を負った例がある。180℃の飽和蒸気は10気圧を超えており、ひとたび破れれば数十メートル先まで蒸気が吹き抜ける。火傷だけでなく酸欠・視界喪失も伴い、助かる確率は運任せになる。

JISとASMEの要求事項

日本国内でのプラント配管は、主にJIS B 8265(圧力容器の構造)JPI-8R-11(石油化学プラント配管基準)、建築設備では空気調和・衛生工学会SHASE-S010などが設計根拠として引かれる。いずれも「熱応力の吸収措置を講じなければならない」という趣旨の条文を持つ。

建築設備基準法施行令でも、消火・給湯・冷温水配管について「温度変化による伸縮に対して有効な対策を施すこと」とあり、具体的な計算はASME B31や業界ガイドラインに委ねられている。つまり設計者が数値根拠を示せないと、検査段階でアウトになる。

コスト影響とリトロフィット

熱伸縮対策を怠った場合の実害は火災事故だけではない。実際のプラント改修では「運転温度を上げたら配管が座屈したので、アンカーを外しループを追加する工事」がよく発生する。配管を切って曲げてつないでの改修費は、1スポットで数百万円コース。事前に100A 50mを炭素鋼で引くなら、計算上L字6.9m or U字3.5mのアームが必要と分かっていれば、ルート計画の初期段階でスペースを確保できる。ツールで5秒、現場判断で500万円という割り算だ。

応力集中点を忘れるな

注意したいのは、アーム長が足りるだけでは安全が保証されない点。ループのエルボ部は曲げモーメントが集中するため、本来はフレキシビリティ係数kとSIF(Stress Intensification Factor)を考慮する必要がある。ASME B31.3 Appendix Dにk、SIFの表がある。このツールはKellogg近似の「直線梁近似」で計算しているため、実配管ではk=2前後のたわみ効果が加算されて多少余裕が出るのが普通。ただし疲労寿命まで見るなら本格解析が要る。

活躍する場面

  • プラント新設の初期ルート計画 — アンカー位置とサポート位置を決める段階で、ループ用スペースの当たり付けをする。炭素鋼50m引くならU字アーム3.5m確保、SUS 30mの高温プロセスなら5m弱、というサイズ感を数秒で掴める
  • 既設工場のリニューアル — 運転温度を上げるプラント更新で、既存配管の熱伸縮量が想定を超えるケース。アンカー追加 or ループ追加のどちらが現実的かを比較判定
  • LNG・液体窒素など極低温設備 — SUS 100mを20℃→-160℃に冷やすと30cm以上縮む。ループが無いと低温脆性割れの原因になる。ダイキン技報のLNG配管特集では極低温専用ループの設計例が解説されている
  • ビル設備の冷温水・給湯 — 長大な立管や横引き管で「夏と冬で動く音(ティック音)」が出る場合、伸縮吸収が不足しているサイン。銅20m給湯管で2cm動く程度はザラで、ループ or 伸縮継手が必要
  • 屋外露出配管の寒暖差対策 — 屋根上の太陽熱温水や、屋外露出の消火管は周囲気温差で年間30℃以上の変動を受ける。室内配管より伸縮量が過小評価されがち

基本の使い方(3ステップ)

  1. 材質を選ぶ — 炭素鋼・SUS304・SUS316・銅・PVCのプリセットから選択。カスタム入力も可能(α・E を直接指定)
  2. 温度とアンカー距離を入力 — 初期温度T₀(施工時または停止時)、運転温度T₁、固定点間距離L(m単位)
  3. 配管外径と許容応力を入力 — 外径Do(mm)、許容配管応力σ_A(MPa、B31.1/B31.3典型138)

入力すると即座にΔL(伸縮量)と、L/Z/U字それぞれのアーム長が表示される。「推奨形状」は通常U字が選ばれる(最短で済むため)。結果に余裕を加える場合は表示値×1.3を実アーム長として採用するのが、本ツールの推奨ワークフロー。

具体的な使用例(6ケース)

ケース1: 蒸気配管 炭素鋼 100A × 50m × 20→180℃(工場メインヘッダー)

  • 入力: material=炭素鋼, Do=114.3mm, L=50m, T₀=20℃, T₁=180℃, σ_A=138MPa
  • 結果: ΔL=93.6mm, L_arm_L=6905mm, L_arm_Z=6905mm, L_arm_U=3452mm, 推奨=U字
  • 解釈: 3500mm角のU字ループを組めば吸収可能。L字/Z字だと7m近くアームが要り、通路を横断してしまう可能性が高い。実施設計では1.3倍の 約4500mm を確保する

ケース2: 冷温水配管 SUS304 50A × 80m × 5→60℃(ビル空調循環)

  • 入力: material=SUS304, Do=60.5mm, L=80m, T₀=5℃, T₁=60℃, σ_A=115MPa
  • 結果: ΔL=76.1mm, L_arm_L=4815mm, L_arm_U=2408mm, 推奨=U字
  • 解釈: SUSは炭素鋼より伸びやすいので、細管でもΔLが7.6cmに達する。U字アーム2.4m、実施では 約3100mm 確保。ビルシャフト内だと水平方向の占有スペースが問題になりやすい

ケース3: プロセス配管 SUS316 150A × 30m × 20→300℃(高温化学プロセス)

  • 入力: material=SUS316, Do=165.2mm, L=30m, T₀=20℃, T₁=300℃, σ_A=137MPa
  • 結果: ΔL=134.4mm, L_arm_L=9687mm, L_arm_U=4843mm, 推奨=U字
  • 解釈: 30mしかないのにΔLが13cmを超える。U字アーム4.8mは巨大で、配管レイアウトの初期段階で「この条件でループを入れるスペースがあるか」をまず確認すべきケース。無い場合はアンカー分割 or ベローズ検討

ケース4: LNGライン SUS304 8B × 100m × 20→-160℃(LNG受入設備)

  • 入力: material=SUS304, Do=216.3mm, L=100m, T₀=20℃, T₁=-160℃, σ_A=115MPa
  • 結果: ΔL=-311.4mm(縮み方向), L_arm_L=18415mm, L_arm_U=9208mm, 推奨=U字
  • 解釈: 極低温では配管が31cmも縮む。U字アームでも9.2m必要で、LNGプラント特有の巨大配管ループが発生する理由が数値で分かる。実際のLNG基地では複数のアンカーで分割し、1セクションあたり30m程度に抑える設計が多い

ケース5: 給湯管 銅 3/4B × 20m × 20→80℃(集合住宅セントラル給湯)

  • 入力: material=銅, Do=34.0mm, L=20m, T₀=20℃, T₁=80℃, σ_A=50MPa
  • 結果: ΔL=20.2mm, L_arm_L=2127mm, L_arm_U=1063mm, 推奨=U字
  • 解釈: 銅管は炭素鋼の1.4倍伸びる。20mでも2cm伸縮するため、U字1.1m(実施で 約1400mm)のコンパクトなループで十分。PSラインでのリターンベンド配置と相性がいい

ケース6: PVC排水管 15m × 20→60℃(工場排水)

  • 入力: material=PVC, Do=48.6mm, L=15m, T₀=20℃, T₁=60℃, σ_A=20MPa
  • 結果: ΔL=42.0mm, L_arm_L=1020mm, L_arm_U=510mm, 推奨=U字
  • 解釈: PVCは線膨張がSUSの4倍もあるので、15mで4.2cm伸びる。ただしヤング率が鋼の1/60と低いため、同じ応力を発生させるのに要るアームは短くて済む。U字0.5m、実施で 約700mm。逆に盲点なのがPVCの応力緩和(クリープ)で、長期荷重では見かけの強度が落ちる

仕組み・アルゴリズム

Kellogg式の導出

配管ループを「両端固定の片持ち梁(あるいは門形ラーメン)」とモデル化し、一端に強制変位ΔLが加わったときの曲げ応力を求める。梁理論で曲げ応力σは次のように書ける。

σ = (6 × E × Do × ΔL) / (L_arm² × 2)
  = (3 × E × Do × ΔL) / L_arm²

この式をL_armについて解くと、

L_arm = sqrt(3 × E × Do × ΔL / σ_A)

これがL字・Z字の式になる。係数3は「両端固定梁の端部曲げモーメント」の定数から来ている。

U字が半分で済む理由

U字ループは「門形」の幾何をしていて、変位ΔLが2本のアーム(往復)に分配される。1本あたりの変位は ΔL/2 だが、戻り配管を介したモーメントの打ち消し効果もあり、近似的に曲げ効率が4倍になる。結果として、

L_arm_U = sqrt(0.75 × E × Do × ΔL / σ_A) = L_arm_L × 0.5

係数0.75は3の1/4で、平方根を取ると1/2。「U字はL字の半分のアーム長で同じ応力」と覚えておくと現場感覚として便利。Kelloggの原典は曲げモーメント分布の積分式で係数を導出しているが、実務的には丸呑みで問題ない。

計算例(ケース1の手計算)

炭素鋼 100A 50m 20→180℃の例で、数値をステップバイステップで追う。

入力:
  α = 11.7 ×10⁻⁶/K
  E = 205 GPa = 205,000 MPa
  L = 50 m
  Do = 114.3 mm
  ΔT = 180 - 20 = 160 K
  σ_A = 138 MPa

Step 1: 熱伸縮量
  ΔL = 11.7 × 50 × 1000 × 160 × 1e-6
     = 93.6 mm

Step 2: L字アーム
  L_arm_L = sqrt(3 × 205000 × 114.3 × 93.6 / 138)
         = sqrt(47,677,513)
         ≈ 6905 mm

Step 3: U字アーム
  L_arm_U = sqrt(0.75 × 205000 × 114.3 × 93.6 / 138)
         = sqrt(11,919,378)
         ≈ 3452 mm

Step 4: 実施設計推奨(×1.3)
  L_arm_U_推奨 = 3452 × 1.3 ≈ 4488 mm

1.3倍の係数は、曲げ管継手のフレキシビリティ余裕・施工誤差・長期疲労を見込んだ業界慣用値。ASME B31系も「1.25-1.5倍」を推奨しており、1.3はその平均値。

FEM解析との精度比較

Kellogg近似とCAESAR IIのような3次元FEM解析は、単純なL/Z/U字ループならほぼ同じ答えを返す。差が出るのは、

  • 曲げ管継手の柔軟性(k係数2前後で実際のたわみが大きい)
  • 複数分岐の干渉(T管やサブヘッダーが絡む場合)
  • サポート摩擦(ガイド・ストッパーの摩擦力が無視できない)

これらが絡むとKellogg近似は**安全側(余裕あり)**に出ることが多い。初期検討でKellogg、本番解析でFEM、という二段構えが実務のデファクトスタンダードになっている。

他ツールとの違い — 3形状同時計算と配管設計ハブの一員

既存の国内資料を検索すると、エキスパンションループの設計例はL字だけ、あるいはU字だけ単独で解説されるものが圧倒的に多い。このツールは L/Z/U の3形状を一画面で並列計算 し、同じ入力条件に対するアーム長を横並びで比較できる点が大きな違いだ。設計初期に「どの形状が場所を食わないか」を即断するには、3形状を突き合わせないと意味がない。

さらに独自の実装として以下を備える。

  • SVG可視化: 各形状のアウトラインとアーム寸法を2次元投影で描画。推奨形状(通常U字)は青でハイライトし、アーム長が固定点距離の1/3を超えた場合は赤で警告する
  • 材料プリセット6種: 炭素鋼/SUS304/SUS316/銅/PVC/カスタム。線膨張係数αと縦弾性係数Eをセットでもち、材質切替で両者が同時に更新される。ステンレス系は炭素鋼より約1.4倍αが大きいため、材質違いの効き方を切替ボタン一つで体感できる
  • Kellogg近似で即答: CAESAR II のような有限要素ソルバを立ち上げるまでもなく、初期検討段階で桁感をつかむには十分。L_arm = sqrt(3·E·Do·|ΔL|/σ_A) を JS 側で瞬時に評価している
  • 実用最小値300mmの自動適用: PVCなど低ヤング率材料では計算アームが数十mmに落ちてしまうが、これは物理的には正しくとも施工的に意味をなさない。ツール側で下限を切り込み、現場で機能する数字に整える

配管設計は単独のツールで完結しないため、本サイトでは /pipe-insulation(保温厚み)・/pipe-sizing(管径選定)・/expansion-tank-sizing(膨張タンク容量)と本ツールを横並びのハブとして設計している。ΔLを読んでからタンクに流れる、管径を決めてから外径を本ツールに入れる、といった相互参照がしやすい。

豆知識・読み物 — ループが無かった時代の蒸気事故

エキスパンションループという発想は、実は 蒸気機関の時代まで遡る。19世紀後半、英国の工場では高圧蒸気配管が直線のまま壁を貫通しているものが多く、季節変動と稼働時のサイクルで配管が押し合い、壁ごと崩落する事故が頻発した。伸縮を許容するという概念そのものが、現代人が思うほど自明ではなかった時代だ。対策として登場したのが「ラージラジアスのベンド」、いわゆるU字ループの原型である。

身近なところでは、道路橋の伸縮継手 も同じ発想の親戚と言える。長大橋は夏冬で数十cm単位で伸縮するため、路面には鋸歯状の金属プレートが埋め込まれ、橋桁の動きを吸収している。配管のU字ループを水平に寝かせたような構造、と言えば伝わるだろうか。東京港連絡橋(レインボーブリッジ) のようなメガ構造物では1つの継手で100mm超の伸縮を許容する設計だ。

極端な例はLNGプラントの極低温配管で、運転温度は−162℃。常温からの温度差が180℃以上あり、収縮量は蒸気配管の膨張量と同等かそれ以上になる。LNGプラントのプラン図を見ると、長距離配管ルートに数百m間隔でU字ループがずらりと並ぶ独特の幾何学模様が現れる。あの並びはすべて熱収縮を吸収するための計算結果であり、見た目の蛇行は偶然ではない。詳しくは 日本エルエヌジー輸送協会 の技術資料にLNG配管の設計思想がまとまっている。

1984年のインド・ボパール事故をはじめ、配管破損から始まる重大事故 の多くは熱応力の見積もり不足や腐食との複合要因だ。Kellogg法はあくまで初期検討の近似で、重要配管では ASME B31.3 の詳細応力解析が要求される。数値の桁を見誤らないための「最初の一歩」として本ツールを使ってほしい。

Tips — 設計のコツ

  • アンカーは「動かしたくない点」に置く — 機器ノズル、壁貫通部、大型バルブなどが候補。アンカーから両側に伸びる配管がそれぞれΔLの半分ずつ膨張する前提で計算しているため、アンカー位置を変えると片側のΔLが倍になる。現場で「ループが入らない」ときは、アンカーを中間にずらす手がある
  • ループは水平面に寝かせるほうが有利 — 鉛直ループは自重でたわみ、下側の配管が踏まれやすい。水平寝かせなら保温材やサポートが干渉しにくく、メンテ時にも目視しやすい
  • 保温厚みは計算後に確認する — アーム長を決めてから /pipe-insulation で保温厚を出すと、ループ内側の曲率でカバーが巻けない事例がたまにある。外径 + 保温厚の2倍がアーム長の1/4より小さいことをざっと確認すると安全
  • SUS配管は炭素鋼より大きく作る — αが約1.4倍なので、同条件でもアーム長が20%ほど長くなる。材質切替ボタンで数字を見比べ、材質決定前にループスペースを確保しておこう
  • 「実アーム長≥計算値×1.3」を口癖にする — Kellogg近似は曲げ管柔軟性係数kや摩擦を無視しているため、計算値ギリギリで作ると実応力がσ_Aを超える。1.3倍は経験的な安全側マージンとして定着している

FAQ

Z字とL字の違いは?計算式は同じに見える。

式は同じ L_arm = sqrt(3·E·Do·|ΔL|/σ_A) を使う。違いは 幾何形状と設置スペース だ。L字は直角2本の腕でΔLを吸収するのに対し、Z字は3辺構成で進行方向を変えずに伸縮を逃がせる。建屋の梁をまたぐとき、動線を塞がずにループを組みたい場合はZ字が選ばれやすい。アーム長は同じでも、平面レイアウト上の「幅」や「高さ」の必要寸法が変わるので、SVG可視化で実際の形を見比べてほしい。

柔軟性係数kとは何か?なぜツールでは使っていないのか。

柔軟性係数(Flexibility factor)kは、曲げ管(エルボ)が直管より柔らかく変形するという現象を補正する係数で、ASME B31.3 の Appendix D に定義されている。典型的には90°ロングエルボで k≒1.65 程度。Kellogg近似はこのkを省略しているため、真の応力は本ツール計算値より低く出る。つまり ツール値は安全側(保守的) だ。詳細解析でkを考慮するとアーム長を10〜20%短縮できる余地がある、と覚えておけばよい。

ベローズ継手(エキスパンションジョイント)を使えばループ不要では?

用途次第だ。ベローズは同じΔLをコンパクトに吸収できる反面、内圧推力 が固定点にそのまま伝わるため、大口径・高圧配管では強固なメインアンカーが必須になる。さらにベローズ本体は消耗品で、サイクル寿命(通常数千〜1万回程度)を超えると疲労破壊リスクがある。一方エキスパンションループは追加部品なしの「配管形状だけで解決する」方式で、ベローズよりメンテフリーだ。プラント設計では 1次側(安全系)はループ、2次側はベローズ のような使い分けが典型パターン。

冷配管(マイナス温度)でも使えるか?

使える。式は温度差の絶対値 |T₁-T₀| で効くため、収縮(ΔL<0)でも膨張でも同じアーム長が必要になる。ただし実務では2点注意がある。(1) 低温では材料の靭性が低下し脆性破壊リスクが上がるため、低温用ステンレス(SUS304L等)を選ぶ、(2) 結露・着氷でループ外側に氷塊が付きサポートを圧迫することがあるため、保温のシール性を高める必要がある。LNG・液体窒素配管では線膨張が蒸気配管並みかそれ以上になり、U字ループの並列配置が主流だ。

Kellogg近似の精度と限界は?詳細解析との差はどれくらい?

M.W. Kellogg社が1960年代に整備した手法で、直管を片持ち梁と見なして最大曲げ応力を評価する 単純化モデルだ。エルボの柔軟性・摩擦・自重・内圧による一次応力を無視するため、計算値は詳細FEM(CAESAR II、AutoPIPE等)と比べて10〜30%保守的になるケースが多い。プラント実務では、(1) 初期レイアウト検討・配管スペース確保はKellogg、(2) 重要系統の最終確認は詳細解析、という役割分担が定着している。本ツールは(1)の用途で使ってほしい。

ループのどの位置に一番応力が集中する?

アーム根元のエルボ部分、特に外側のクラウン(曲げ外周)に最大応力が立ちやすい。ガイドやサポートは エルボから数Do以上離した直管部 に置くのが原則だ。また、2本のアームが合流する中央の折り返し点も二次応力が高くなるため、この位置に溶接継手や分岐を作らないよう配管ルートを設計する。

まとめ

エキスパンションループは、配管の熱膨張を「形状」で吸収する最もシンプルで信頼性の高い手法だ。L/Z/U 3形状のアーム長をKellogg近似で並列計算し、SVG可視化と材料プリセット6種で初期検討を一画面に収めた。配管設計は保温厚・管径・膨張タンクと連動して決まるため、/pipe-insulation で保温厚を、/pipe-sizing で管径を、/expansion-tank-sizing で膨張タンク容量をあわせて検討してほしい。計算値の1.3倍を実アーム長として採用し、重要配管は詳細応力解析で仕上げるのが現場流だ。設計の違和感や要望があれば お問い合わせ から気軽に連絡してほしい。

M

Mahiro

Mahiro Appの開発者。蒸気ブレイクの事故報告書を読むたび、Kellogg近似の手計算を後輩にコピペで送ってきた。3形状を一画面で並べられれば、初期検討の電卓作業は丸ごと消える——そう信じて作った配管設計の『最初の3分』用ツール。

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