配管熱膨張・伸縮量計算ツール

材質・温度差・長さから線膨張式ΔL=α·L·ΔTで伸縮量と拘束時熱応力を同時算出

材質と温度差から配管の伸縮量 ΔL と拘束時熱応力 σ を算出。3段判定(不要/伸縮継手/ループ)で設計可否を即決できる。

代表シナリオ

配管材質

温度・配管長

計算結果

判定ループ必須許容 30mm
要ループ

温度差 ΔT

160.0 K

伸縮量 ΔL

149.76 mm

単位長さあたり

1.872 mm/m

拘束時熱応力 σ

383.8 MPa

許容 120MPa

判定根拠: 伸縮量149.8mmが許容値30mmを超過。エキスパンションループでの吸収が必要。
計算式: ΔL = α × L × ΔT = 11.70×10⁻⁶/K × 80m × 160.0K = 149.76mm / σ = E × α × |ΔT| = 205.0GPa × 11.70×10⁻⁶/K × 160.0K = 383.8MPa
拘束時熱応力が許容応力(120MPa)を超えています。配管を完全拘束する設計は避け、伸縮継手またはループで応力を逃がしてください。
※ 曲げ・ねじれ・摩擦は未考慮。詳細は JIS B 8266 等を参照。

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📘 配管設計・熱応力解析の定番参考書

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蒸気管80mは真夏に15cm伸びる、その数字を先に知っておきたい

炭素鋼の蒸気管を80m据え付けて、冬に20℃で固定ナットを締めた。翌夏、180℃の蒸気を流したら、配管は約15cm伸びていた ── 計算上は149.76mm。サポート金具の長穴を食い尽くし、どこかで曲がるか、フランジのボルトを引きちぎるか、壁を押し抜くかの三択だ。

配管の熱膨張は、見えないのに確実に起きる。現場で「なんとなく継手を入れておく」で済まされがちな領域だけど、PVCなら鋼の6倍、PEなら17倍も伸びる。材質を変えた瞬間に設計の前提がひっくり返る世界だ。

このツールは、材質・温度差・配管長の3つだけで、伸縮量ΔLと拘束時熱応力σを同時に出す。さらに「伸縮継手が要るのか、ループまで切らないとダメなのか」を3段で判定してくれる。電卓で `α × L × ΔT` を打つのと、そこから許容値判定まで含めて設計根拠に落とすのは、全く別の作業だよね。そこを一画面で終わらせたかった。

なぜ作ったのか

きっかけは、給水配管をSGP(炭素鋼)からHIVP(PVC)に切り替える改修案件だった。施工会社の若手が「塩ビだから熱膨張は無視でいい」と言い切ったのを見て、これはまずい、と思った。

実際はPVCの線膨張係数は70×10⁻⁶/Kで、炭素鋼の11.7×10⁻⁶/Kの約6倍。50mで水温が10→50℃になると、鋼管なら23mm程度で済むところ、PVCは140mmも伸びる。支持金具のスパンを詰めないと、真ん中でU字に座屈する。

そのとき既存の熱膨張計算ツールをいくつか当たってみたら、鋼管の単位長さ伸び表しかないサイトが大半だった。英語のエンジニアリング系には優れたものもあったけど、日本語でPVC・PE・アルミ・鋳鉄・黄銅まで並列に比較できるツールは見つからなかった。

さらに不満だったのは、「伸縮量ΔL」だけ出して終わりのツール。現場で本当に必要なのは「だから伸縮継手が要るのか」「ループに切り替えるのか」という判断だよ。ΔLが80mmあったとしても、許容値30mmを超えるならベローズでは無理でループ設計。そこまで出して初めて設計図面に落とせる。

もう一つ悩んだのが、拘束時熱応力 σ=E·α·ΔT の扱い。完全拘束は現実には稀だけど、配管の一部が動けない構造なら応力は発生する。炭素鋼で ΔT=160K なら σ=383MPa、これは炭素鋼の降伏点を超えるレベルで、放置すれば座屈か亀裂に至る ── そこまでの警告を自動で出したかった。

結局、設計者が10秒で材質を切り替えて、伸縮量と熱応力と判定を同時に見られる。そんな一枚のダッシュボードを目指したのがこのツールだ。

線膨張係数とは

線膨張係数 α の物理的な意味

線膨張係数 α(アルファ)は、温度が1K上がったとき、材料が元の長さに対して何倍伸びるかを示す値だ。単位は `×10⁻⁶/K`(ppm/K と書かれることもある)。炭素鋼なら11.7×10⁻⁶/K、つまり1mの棒が1K上がると0.0000117m(11.7μm)伸びる。

式で書くと、

ΔL = α × L × ΔT

だけ。ΔLが伸縮量[m]、Lが元の長さ[m]、ΔTが温度差[K]。超シンプルだけど、ここに材料科学のすべてが凝縮されている。

なぜ温度で伸びるのか ── 格子振動のたとえ

原子は絶対零度以外では常に振動している。温度が上がると振動の振幅が増え、隣り合う原子同士の「平均的な距離」が少しずつ広がる。これが膨張の正体だ。

イメージとしては、バネでつながれた粒の列を想像すると分かりやすい。静かなら隣と10cmで安定。ところがみんなで前後に揺れ始めると、バネの非対称性(押し縮めるより伸ばす方が楽)のせいで、平均距離がじわじわ10.1cm、10.2cmと広がっていく。温度とはこの揺れの激しさのことで、格子振動が大きいほど熱膨張する。

材料で α が違うのはなぜか

原子間の結合が強い材料ほど、揺れても平均距離が広がりにくい。つまり α は小さい。

  • 金属結合(緩め): 鋼11.7、銅16.8、アルミ23.1
  • イオン結合(やや強い): 鋳鉄10.5
  • 共有結合(強い): 石英2以下、セラミック
  • 分子間力(弱い): PVC 70、PE 200

PEが鋼の17倍伸びるのは、高分子の鎖の絡み合いが金属結合よりはるかに緩く、熱で簡単に形が変わるからだ。配管材料を選ぶとき「PEは安いし軽い、で終わり」にしてはいけない理由がここにある。

規格と実用値

JIS B 0151(鋼管の機械的性質)やASME B31.1(動力配管規格)には、実務で使う線膨張係数の標準値が載っている。厳密には温度域で α は変化する(常温と500℃では異なる)が、配管設計では常温〜運転温度の平均値を使う慣例だ。このツールも常温域の代表値を材料プリセットに採用している。

より深く知りたい場合は Wikipedia: 熱膨張 で格子振動の数理モデル(グリュナイゼン則)まで追える。

実務での重要性

膨張を無視すると何が起きるか

1990年代、国内のある化学プラントで蒸気トレース配管(約120m、炭素鋼、120℃)を全長拘束サポートで固定した結果、運転開始3日目にフランジボルトが疲労破断、高温蒸気が漏れて火傷事故が発生 ── こうした事例は業界内で繰り返し紹介されてきた。計算上は ΔL=168mm、拘束時応力は288MPaで材料の許容応力120MPaを大幅に超えていた。

熱膨張の吸収を怠ると、以下のいずれかが起きる。

  • フランジからの漏洩: ボルトに引張軸力が乗り続け、疲労で緩む
  • サポート金具の変形: 長穴を食い切って曲げ荷重が配管本体に移る
  • 配管の座屈: 細長い配管が高温で圧縮を受け、U字に曲がる
  • 機器接続ノズルの破損: ポンプ・タンクのノズルに推力が伝わり、ケーシングに亀裂

いずれも事故の一歩手前。JIS B 8266(圧力容器構造規格)やASME B31.1・B31.3では、配管応力解析の実施を明確に求めている。完全自由にしろというわけではなく、膨張を「逃がす経路」を設計で確保せよというのが各規格の本質だ。

許容値の感覚

設計実務では次の3段で判定する慣例がある。

  • ΔL ≤ 3mm: サポートの長穴・クランプのクリアランスで吸収可能。追加対策不要
  • 3mm < ΔL ≤ 30mm: ベローズ伸縮継手・スリーブ継手で吸収
  • 30mm < ΔL: エキスパンションループ(L字・U字・Z字)で配管自身を曲げて吸収

ツールではこの3段判定を自動で行い、許容値を任意入力で30mm以外にもカスタマイズできる。プラント配管でメーカーから「うちのベローズは最大50mm」と指定された場合などに使えるようにした。

材質選定に与える影響

同じ「50mで水温が30℃上がる」条件でも、材質が違えば必要な対策がまったく違う。

  • 炭素鋼: ΔL=17.6mm → 伸縮継手推奨
  • SUS304: ΔL=25.9mm → 伸縮継手推奨(ギリギリ)
  • PVC: ΔL=105mm → ループ必須
  • PE: ΔL=300mm → ループ必須(大規模)

プラスチック管にするとコストは下がるが、サポート間隔も半分以下に詰める必要があり、総工費で見ると必ずしも安くならない。この「総合判断」を設計初期に詰めるのが配管設計の肝だ。

活躍する場面

蒸気・温水配管の基本設計: プラント内の高温配管で、ベローズの要否と配置間隔を決める段階で使う。ΔT=150K超の蒸気系なら、ほぼ確実にループが必要になる。

プラスチック配管の採用検討: HIVP・PE管を長距離で使う給水・排水・農業用水の場面。鋼管と並列で ΔL を比較し、サポートスパン・継手数の増加を見込んだ見積もりを出せる。

冷凍・低温配管の設計: 冷媒配管やブライン配管。収縮方向(ΔL がマイナス)でも応力は発生する。SUS316の−40℃冷凍設備など、低温側の膨張吸収は見落とされがち。

設計レビューでの第三者確認: ベンダー提出資料の配管応力計算をざっと検算する場面。CAESAR IIの結果が怪しいとき、手計算レベルでオーダーチェックに使える。

基本の使い方

  1. 材質を選ぶ: 炭素鋼・SUS304/316・銅・PVC・PE・アルミ・鋳鉄・黄銅の9種類+カスタム。選択と同時にαとEが自動で設定される
  2. 温度を入力: 据付時の温度T₀と運転温度T₁を℃で入れる。冷却側ならT₁<T₀でマイナスΔLになる
  3. 配管長を入力: 固定点から固定点までの長さをm単位で。必要なら許容伸縮量も上書き(未入力時は30mm)

結果は伸縮量ΔL・単位長さあたり・拘束時熱応力σ・3段判定が1画面で表示される。コピーボタンで設計書に即貼り付け可能だ。

具体的な使用例

ケース1: 炭素鋼 蒸気管 80m・20→180℃

入力: 材質=炭素鋼、T₀=20℃、T₁=180℃、L=80m

結果: ΔT=160K、ΔL=149.76mm、単位長さあたり=1.872mm/m、σ=383.76MPa、判定=ループ必須

解釈: 150mm近い伸びは許容値30mmの5倍。伸縮継手単体では吸収不可能で、U字ループを1〜2箇所入れる必要がある。熱応力384MPaは炭素鋼の許容120MPaを大幅超過で、完全拘束すればフランジ破壊に直結する。現場では「80mをそのまま蒸気で使う」設計そのものを見直すべきケース。

ケース2: PVC給水管 50m・10→50℃

入力: 材質=PVC、T₀=10℃、T₁=50℃、L=50m

結果: ΔT=40K、ΔL=140mm、単位長さあたり=2.8mm/m、σ=9.52MPa、判定=ループ必須

解釈: 温度差はたった40Kなのに、PVCは炭素鋼の6倍膨張するため140mmも伸びる。熱応力は9.52MPaと低めだけどPVCの許容10MPaに迫る。給水でも夏冬の温度差で大きく動くので、屋外配管は特に要注意。支持間隔も1m程度に詰めて座屈を防ぐ必要がある。

ケース3: SUS304 冷凍配管 30m・−20→200℃

入力: 材質=SUS304、T₀=−20℃、T₁=200℃、L=30m

結果: ΔT=220K、ΔL=114.18mm、単位長さあたり=3.806mm/m、σ=734.558MPa、判定=ループ必須

解釈: 低温据付から高温運転への切替で温度差220K。30mでも114mm伸びる。拘束時応力734MPaはSUS304の許容137MPaの5倍超。冷凍設備のデフロスト配管などで起きる過酷条件で、ループ+ベローズの併用が必須。据付温度が真冬か真夏かでも挙動が変わるので、ツールで両端ケースを比較すべき。

ケース4: 炭素鋼 10m・20→60℃(小規模配管)

入力: 材質=炭素鋼、T₀=20℃、T₁=60℃、L=10m

結果: ΔT=40K、ΔL=4.68mm、σ=95.94MPa、判定=伸縮継手推奨

解釈: 温水循環ポンプ周りの短い配管。5mm程度の伸びなので小型のベローズで十分。熱応力96MPaは許容120MPaに近いので拘束条件には注意が要るが、短管ならループまでは不要。この規模の判断を素早く下せるのがツールの価値。

ケース5: 銅管 20m・7→80℃(冷温水兼用管)

入力: 材質=銅、T₀=7℃、T₁=80℃、L=20m

結果: ΔT=73K、ΔL=24.528mm、単位長さあたり=1.226mm/m、σ=134.904MPa、判定=伸縮継手推奨

解釈: 冷水7℃と温水80℃を切り替える冷暖房系配管の典型例。銅は炭素鋼の約1.4倍膨張するためΔLは25mm弱。許容30mm以内ギリギリで伸縮継手で対応可能。ただし熱応力135MPaは銅の許容69MPaの倍近くあり、完全拘束は絶対禁止。自由端を最低1つ確保すること。

ケース6: PE 40m・15→60℃(地中配管)

入力: 材質=PE、T₀=15℃、T₁=60℃、L=40m

結果: ΔT=45K、ΔL=360mm、単位長さあたり=9.0mm/m、σ=8.1MPa、判定=ループ必須

解釈: PEの α=200×10⁻⁶/K はとにかく桁違い。40mでも36cm伸びる。熱応力は低いものの、これだけ動くと接続部を引きちぎる。地中配管なら埋設の摩擦で拘束されるが、上部に立ち上がるジョイント部でトラブルが起きやすい。融着継手で剛結しつつ、適度に蛇行させる施工が定石。

ケース7: アルミ 15m・−40→30℃(低温冷媒配管)

入力: 材質=アルミ、T₀=−40℃、T₁=30℃、L=15m

結果: ΔT=70K、ΔL=24.255mm、単位長さあたり=1.617mm/m、σ=113.19MPa、判定=伸縮継手推奨

解釈: 冷媒配管を低温据付→常温に戻す想定。アルミの α=23.1は金属の中でも大きい部類で、15mでも24mm伸びる。許容30mm以内で継手対応可能。熱応力113MPaはアルミの許容55MPaの2倍超。ブライン・冷媒系では低温側の収縮応力もチェックが必要で、ツールではT₀<T₁の逆転ケースでも符号付きで正しく出る。

仕組み・アルゴリズム

候補手法の比較

熱膨張の計算手法には大きく3つのアプローチがある。

  • 線形近似(このツール採用): ΔL = α·L·ΔT。常温〜中温域で10%以内の精度。シンプルで検算しやすい
  • 多項式モデル: α = a₀ + a₁T + a₂T²。高温域(500℃以上)で誤差低減できるが、係数取得にASME Section II Part Dなどの規格値が必要
  • FEM解析(CAESAR II等): 3次元配管モデル全体を有限要素で解く。曲がり・サポート摩擦・ノズル反力も厳密に扱える

採用したのは線形近似だ。配管設計の初期段階・概略設計では、正確な α の温度依存より「材質選定の大小関係」と「吸収方法の判断」の方が重要。初期スクリーニングで「鋼管 vs PVCで5倍違う」を可視化する方が現場に効く。高精度計算は最終段でCAESAR IIに投げる、という分業が実務に合っている。

実装の計算フロー

// 入力: material, t0, t1, L, allowable
// プリセットから α[×10⁻⁶/K] と E[GPa] を取得
const alpha = materialPreset.alpha
const E = materialPreset.eGPa

// 温度差
const dT = t1 - t0

// 伸縮量 [mm]
const dL = alpha * (L * 1000) * dT * 1e-6

// 単位長さあたり [mm/m]
const dLPerM = alpha * dT * 1e-3

// 拘束時熱応力 [MPa]
// σ = E × α × |ΔT|
// (E[GPa] × 1000) × (α × 1e-6) × |ΔT| = MPa
const sigma = E * 1000 * alpha * Math.abs(dT) * 1e-6

// 3段判定
const allow = parseFloat(allowableStr) || 30
if (dT === 0) judgement = "温度差なし"
else if (Math.abs(dL) <= 3) judgement = "不要"
else if (Math.abs(dL) <= allow) judgement = "伸縮継手推奨"
else judgement = "ループ必須"

拘束時熱応力の根拠

σ = E·α·ΔT は、完全拘束された棒が温度上昇した際に、伸びたい量を無理矢理押し戻すために必要な応力として導出される。

フックの法則より σ = E·ε(ε はひずみ)。自由膨張のひずみは ε = α·ΔT なので、これを打ち消す逆方向の応力が必要 ── それが熱応力だ。単位系は E[GPa]×1000 で[MPa]に変換、α[×10⁻⁶/K]×1e-6 で無次元ひずみに変換、ΔTは[K]のまま、最終的にMPaで出てくる。

完全拘束は実際には稀だが、サポート摩擦・機器ノズル・基礎への固定で部分的に拘束される箇所が必ず発生する。その最悪ケースを事前に把握することで「ここは絶対動かせる構造にしないとマズい」という設計判断につながる。

計算例(炭素鋼 80m 20→180℃)

ステップバイステップで追ってみる。

  1. 材質=炭素鋼 → α=11.7×10⁻⁶/K、E=205GPa
  2. ΔT = 180 − 20 = 160K
  3. ΔL = 11.7×10⁻⁶ × 80×1000mm × 160 = 11.7 × 80000 × 160 × 1e-6 = 149.76mm
  4. 単位長さあたり = 11.7×10⁻⁶ × 160 × 1000 = 1.872mm/m
  5. σ = 205×1000 × 11.7 × 160 × 1e-6 = 205000 × 11.7 × 160 × 1e-6 = 383.76MPa
  6. 判定: |ΔL|=149.76mm > 30mm → ループ必須

この数値がブラウザ上で即座に出る。電卓で毎回打ち直して3桁ずつ掛け算するより、材質をプルダウンで切り替えて瞬時に比較できる方が設計検討の速度は段違いだ。

判定ロジックの閾値設計

3mm・30mmという閾値は、JIS B 8266やベローズメーカーのカタログ値を参考にした実用的な区切り。

  • 3mm以下: サポートの長穴・クランプの樹脂スリーブで吸収可能(機械設計の一般的なクリアランス)
  • 30mm以下: 汎用ベローズ・スリーブ継手の標準吸収範囲
  • 30mm超: ループ設計に切り替え、または特注大型ベローズ

許容伸縮量の入力欄を任意にしたのは、プロジェクトごとに継手メーカー・型式が違うため。デフォルトは保守的に30mmを採用し、実際の機器仕様に応じて50mm・100mmなどに上書きできる。

他ツールとの違い

配管熱膨張計算は古典的なテーマだから、エクセル表や英語サイト、メーカーのカタログ末尾の早見表など、選択肢自体は多い。それでもこのツールを作った理由は明確だ。「同じ画面で複数材料を試せる」「鋼管とプラ管を並列で扱える」「伸縮量と熱応力を同時に出す」 — この3つを満たす日本語ツールが見当たらなかった。

まず材料カバレッジ。鋼管メーカーの早見表は炭素鋼とSUSしか載っていないことが多い。逆に塩ビメーカーのカタログはPVC/PEだけ。両方を扱う設備設計者は、表を二冊めくって電卓で換算するハメになる。本ツールは炭素鋼・SUS304/316・銅・PVC・PE・アルミ・鋳鉄・黄銅の9材料に加え、カスタム入力でαとEを直接指定できる。研究用の特殊樹脂や複合管も即座に試せる。

次に「伸縮量と拘束時熱応力の同時表示」。一般的な早見表はΔL=α·L·ΔTの伸縮量だけを示し、応力σ=E·α·ΔTは別ページか別資料に分かれている。しかし設計判断では「どれだけ伸びるか」と「拘束したらどれだけ応力が乗るか」を並べて見ないと意思決定できない。本ツールは1画面に並べ、さらに材料の許容応力を超えた場合は赤字で警告する。

そして3段判定(不要 / 伸縮継手推奨 / ループ必須)。3mm以下なら通常の支持金具で吸収可能、許容値(既定30mm)以下ならベローズ・スリーブ継手、それ以上ならエキスパンションループという実務の意思決定ステップを内蔵した。早見表では数字を見て自分で判断する必要があるが、本ツールは判定理由まで出力する。Kindle第5冊『mahiroAppsで学ぶ配管設計入門』の演習教材として連動利用も可能。

豆知識・読み物

熱膨張は配管だけの問題ではない。身の回りの巨大構造物には、必ずと言っていいほど「伸縮を逃がす仕組み」が組み込まれている。

本州四国連絡橋の伸縮継手。明石海峡大橋(中央支間1991m)は、夏冬の温度差で橋桁が約2m伸縮する。橋の両端には巨大な伸縮装置(フィンガージョイント)が組み込まれており、車両が通過すると独特の「ガタン」という音がする。あれは故障ではなく、橋が呼吸している証拠だ。鋼材の線膨張係数は配管と同じ約11.7×10⁻⁶/Kだから、温度差40℃で2km級の橋なら1m近く動く計算が成り立つ。

新幹線のレール遊間。在来線の25mレールには昔、4〜18mmの遊間(隙間)が設けられていた。あの「ガタン、ゴトン」のリズム音はレール継ぎ目を車輪が踏む音だ。新幹線では走行性向上のためロングレール(200m〜1500m)を採用しているが、今度は遊間を作れない。代わりに伸縮継手と締結装置の摩擦力でレール内部の熱応力を抑え込んでいる。配管の完全拘束と同じ理屈で、巨大な縦圧縮力(座屈リスク)と引張力(破断リスク)が常に内在している。

配管の歴史とJIS。日本の配管設計は明治期の蒸気機関導入とともに始まり、戦後の重化学工業化で体系化された。配管フレキシブル継手はJIS B 8266(圧力容器の構造-特定規格)やJIS B 2352(ベローズ形伸縮管継手)で規定されている。これらの規格には「設計温度範囲」「繰返し疲労寿命」「許容変位」が定められており、本ツールの判定ロジックもこれらの標準値を参考にしている。歴史を辿ると、「ループ式」が古典で、ベローズ継手は1900年代後半に普及した比較的新しい技術であることが分かる。詳細は圧力容器(Wikipedia)も参照。

Tips

実務で配管熱膨張を扱うときの小ワザを5つ。早見表だけでは見えにくい「経験則」を共有する。

  • 据付温度は冬の最低気温に合わせる: T₀(初期温度)は据付した日の気温ではなく、その配管が生涯で経験する最低温度を入れるのが安全側。屋外配管なら冬の朝、地下埋設なら年平均気温。「据付当日が真夏で30℃あったから30℃で計算しよう」とすると、冬場に配管が想定外に収縮し、固定点に予想外の引張応力がかかる。
  • 拘束点の距離を意識する: 本ツールの「配管長L」は固定点から固定点までの距離を入れる。途中のサポートが滑り支持(ガイド・スライド)なら拘束にカウントしない。逆に固定支持を入れすぎると配管全体がキシキシと音を立てて変形する。原則「直管30mごとに固定点1つ+伸縮吸収機構」が目安。
  • 配管ルートに必ず曲がりを入れる: 完全な直管Lは現場では非常に稀で、必ず90°曲がりが入る。曲がり部分は膨張をループとして吸収する機能を持つ。だから直管中央にだけ伸縮継手を入れるよりも、ルート全体で曲がりを活用する方が経済的なケースもある。
  • プラスチック管の支持間隔は鋼管の半分以下に: PVC・PEは弾性率Eが鋼の60〜200分の1。自重でも垂れるし、温度上昇で軟化する。50A鋼管なら3m間隔のサポートでもPVC50Aは1.5m以下に詰める必要がある。本ツールで膨張量を確認したら、必ずメーカーの支持間隔表と併せてチェック。
  • 保温配管は表面温度ではなく流体温度で計算: 「保温したから表面は40℃しかない」と表面温度をT₁に入れる人がいるが、それは間違い。膨張を起こすのは配管本体(金属)の温度で、保温内部の金属温度は流体温度とほぼ等しい。流体180℃の蒸気管なら、保温の有無にかかわらずT₁=180で計算する。

FAQ

地下埋設配管でも温度差ΔTを考える必要があるの?

ある。地下は外気温の影響が小さいが、流体温度の変化は配管本体に伝わる。例えば消火配管は普段15℃の地中水温だが、消火運転時は10℃前後の水道水が通り、夏場は地中熱で30℃近くまで上がる。年間で20K前後の温度差は普通に発生する。さらに地下は土壌に拘束されているため摩擦が大きく、伸縮が逃げ場を失って固定点に応力が集中しやすい。地中配管こそ伸縮設計が重要。

気密試験時と運転時、どちらの温度で計算すべき?

運転時の最大温度差で計算するのが原則。気密試験は通常常温の空気・水を使うため、ΔTはほぼゼロ。しかしその後、運転に入って蒸気を流せば一気に180℃に達する。設計はワーストケース、つまり「据付直後の最低温度から運転時の最高温度まで」の差で行う。蒸気管なら「冬場据付10℃ → 蒸気200℃」の190K差で計算する。気密試験はあくまで漏れの確認であり、熱応力評価とは別物と捉えること。

保温配管と裸配管で熱膨張は変わる?

膨張量自体は変わらない。膨張を決めるのは配管金属の温度だから、保温の有無に関係なく流体温度がそのまま金属温度になる(厳密には熱伝達抵抗の分だけ僅かに低いが、設計上は無視)。保温の効果は「外気への放熱を防ぐ」「結露防止」「火傷防止」「省エネ」であり、膨張抑制ではない。むしろ保温配管は表面温度で誤判断されやすいので注意。膨張計算には必ず流体温度を使うこと。

冷凍配管(マイナス温度)での注意点は?

3つある。1つ目は収縮方向の検討。例えばT₀=20℃据付、T₁=−40℃運転のブライン配管なら、ΔT=−60Kで配管は収縮する。固定点には引張応力が発生し、フランジボルトの緩みやフレア継手のリーク原因になる。2つ目は伸縮継手の低温対応。ベローズの一部は−10℃以下で脆化するため、低温用ステンレス(SUS304L等)を選定。3つ目は着霜と凍結膨張。配管表面の着霜・結露氷は伸縮を物理的に妨げ、サポートを破壊することがある。冷凍配管では断熱材+防湿層+スライドサポートをセットで設計する。

プラスチック管は本当に鋼管の6〜17倍も膨張するの?

本当だ。線膨張係数αで比較すると、炭素鋼が11.7×10⁻⁶/K、PVCが70×10⁻⁶/K(約6倍)、PE(ポリエチレン)が200×10⁻⁶/K(約17倍)。50mのPE管が10℃→50℃に上がると、ΔL=200×10⁻⁶×50000mm×40K=400mmも伸びる。しかしプラ管はヤング率が小さいため、拘束時の応力σ=E·α·ΔTで見ると鋼より小さくなる。膨張は大きいが応力は小さい — この特性を活かして、プラ管はループ径を大きく取って自由に呼吸させる設計が定石。剛体的に拘束する設計は厳禁。

許容伸縮量の30mmという既定値は何を根拠にしている?

汎用ベローズ形伸縮管継手(JIS B 2352準拠)の標準軸方向変位量を参考にしている。一般的な単式ベローズ継手は片側15〜30mm程度の吸収能力を持つため、30mmを超えるとスリーブ式の長尺継手か、より自由度の高いエキスパンションループ設計が必要になる、というのが実務の判断ライン。許容値はメーカーや継手形式で大きく異なるため、本ツールでは任意で書き換えられるようにしている。設計時は使用予定継手のカタログ値を入力すること。

まとめ

配管の熱膨張は古典的なテーマでありながら、現場では「気づかれず・見過ごされ・後から事故になる」典型的な落とし穴だ。本ツールは材質9種+カスタムで伸縮量と拘束時熱応力を同時に算出し、3段判定で「継手かループか」の意思決定までサポートする。

膨張量がループ判定に達した場合は、続けてエキスパンションループ計算でループ脚長と曲げ応力を確認してほしい。また保温配管の温度設定や放熱量を確認するなら配管保温計算が役立つ。設計レビューや見積もり段階で、これらのツールを連携させて使うと精度が一段上がる。質問や要望はお問い合わせからどうぞ。

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Mahiro

Mahiro Appの開発者。蒸気トレース配管の固定ナットを夏に噛み締めすぎてリークさせた経験から、熱膨張は先に電卓で叩くのが一番安上がりだと痛感している。

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