配管応力 サステインド/熱膨張 検定(ASME B31.3)

支持間隔と内圧から持続応力 SL を、脚長と変位から熱膨張応力 SE を出し、B31.3 の許容応力 Sh・SA と比較する

支持間隔と内圧から持続応力 SL を、脚長と変位から熱膨張応力 SE を出し、ASME B31.3 の許容応力 Sh・SA と比較する。応力範囲低減係数 f が2022年版で変わった影響も同じ画面で確認できる。

SCH40 に保温込み57kg/m、支持5m、脚10m。SL も SE も余裕がある標準的な配置

材料と温度

ASME B31.3 Table A-1 の炭素鋼4系統から Sc / Sh を温度で自動内挿する。ステンレス等は「手入力」を選ぶ

変位サイクル中の最低温度。Sc をここから引く

Sh をここから引き、fm の371℃判定にも使う

配管諸元

6B=168.3 / 8B=219.1 / 10B=273.1

呼び肉厚。腐れ代は差し引いていない

ゲージ圧。PD/(4t) に使う

持続荷重(SL)

配管・内容物・保温の合計。配管サポート間隔チェッカーの総荷重をそのまま入れられる

サポート間の距離。自重の曲げ応力はここから出る

自重の曲げモーメントをどう見るか。M = wL²/10(連続)/wL²/8(単純支持)/wL²/12(両端固定)。配管は連続支持が一般的

熱膨張(SE)

配管熱膨張・伸縮量計算ツールの伸縮量 ΔL をそのまま入れる

変位を受け止める直角方向の脚。エルボから次のアンカーまで

炭素鋼203 / オーステナイト系195

規格条件

設計寿命中の起動停止回数。毎日1回×20年で約7,000回

f の式: 2022年版以降は 20N^−0.333、2020年版以前は 6N^−0.2

判定SL 16.0 / SE 108.6 MPa使用率 SL 12.7% / SE 33.1%
許容内
SL / Sh(持続応力・一次応力)12.7% / 100%(余裕あり

SL 16.0 MPa / Sh 125.5 MPa

SE / SA(熱膨張応力・二次応力)33.1% / 100%(余裕あり

SE 108.6 MPa / SA 328.6 MPa

持続応力 SL

16.0 MPa

内圧 5.9 + 曲げ 10.0

内圧の長手応力

5.9 MPa

PD/(4t)

自重の曲げ応力

10.0 MPa

M = wL²/10

許容応力 Sh

125.5 MPa

最高金属温度 300℃ での Table A-1 値

SL 使用率

12.7 %

SL / Sh

SL を満たす最大支持間隔

17.26 m

現状 5.00 m

熱膨張応力 SE

108.6 MPa

ガイデッドカンチレバー 3EaDoΔ/L²

許容応力範囲 SA

328.6 MPa

liberal 式を採用

SE 使用率

33.1 %

SE / SA

SA(基本式)

213.7 MPa

f(1.25Sc + 0.25Sh)

SA(liberal 式)

328.6 MPa

f[1.25(Sc + Sh) − SL]

SE を満たす最小脚長

5.75 m

現状 10.00 m

応力範囲低減係数 f

1.049

20N^−0.333

fm(f の上限)

1.2

引張強さ517MPa以下かつ371℃未満

許容応力 Sc

137.9 MPa

最低金属温度 20℃ での Table A-1 値

断面係数 Z

139,230 mm³

139.2 cm³(規格表と同じ単位)

許容値を100%とした使用率で SL と SE を並べる

SL 16.0 MPa(内圧 5.9 + 曲げ 10.0)SE 108.6 MPa(熱膨張・二次応力)12.7%33.1%許容0%50%100%
SL(内圧+自重)SE(熱膨張)許容SL の濃い部分が内圧、淡い部分が自重の曲げ

応力範囲低減係数 f とサイクル数 N の関係(2版を重ねて表示)

0.00.30.60.91.210²10³10⁴10⁵10⁶fm = 1.2N≒8,500 で交差N = 7,000 / f = 1.049
2022年版以降2020年版以前fm 上限現在の N

2本は N ≒ 8,500 で交差する。これより多いサイクルでは2022年版のほうが厳しい

いま 2022年版以降 で判定している。2020年版以前なら f = 1.021、SA = 320.0 MPa(SE 使用率 34.0%・許容内)になる。

簡易スクリーニング。配管応力解析ソフトの代替ではない

CAESAR II 等の配管応力解析の代替ではない。分岐・機器ノズル反力・地震荷重・応力集中係数(SIF)は対象外で、エルボやティーの直近では実際の応力がこの値より大きくなる(SIF は 1.5〜3 程度になることがある)。腐れ代は差し引いておらず呼び肉厚のまま断面性能を出しているので、保守側に見たいときは肉厚から腐れ代を引いて入力する。内蔵している許容応力表は炭素鋼4系統のみで、ステンレス・合金鋼は Sc / Sh を手入力する。応力範囲低減係数 f の式は2022年版で変わったので、プロジェクトが指定する版を確認すること。

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応力は出た。では、その数字は何と比べればいいのか

配管の熱応力でつまずくのは、たいてい計算そのものではない。伸縮量は線膨張係数を掛ければ出るし、完全拘束したときの応力も E·α·ΔT で出る。手が止まるのはその次だ。出てきた数字を、何と比べればいいのか。

材料の許容応力表を開いても、そこにあるのは温度ごとの基本許容応力 S だけ。熱膨張の応力をその値と突き合わせると、たいていの配管が一発で不合格になる。かといって「まあ実際は逃げるから大丈夫だろう」で押し通すわけにもいかない。

答えは、熱膨張の応力を材料の許容応力とそのまま比べてはいけない、というところにある。内圧や自重で生じる応力と、熱膨張で生じる応力は、そもそも壊れ方が違う。前者は一次応力、後者は二次応力。比べる相手も、比べ方も別なのだ。ASME B31.3 が持続応力 SL と変位応力範囲 SE を別々に定義し、許容値を Sh と SA という2つの記号で書き分けているのは、この違いを規格の構造そのものに埋め込んだ結果と言っていい。

このツールは配管の諸元・支持間隔・脚長を入れると SL と SE を同時に出し、それぞれ Sh と SA と比べて4通りの判定を返す。そして SA を決める応力範囲低減係数 f が2022年版で式ごと差し替わっている件も、2つの版を並べて確認できるようにした。

なぜこのツールを作ったのか

きっかけは既設の蒸気配管の温度を50℃上げる改造だった。伸縮量は既存ツールで出た。完全拘束の熱応力も出た。それでも「で、これは許容内なのか」に答えられなかった。伸びる量と、その伸びが応力として許されるかは別の問いで、後者に答えるには許容応力範囲 SA が要る。SA を出すには応力範囲低減係数 f が要り、f を出すには設計寿命中の等価全変位サイクル数 N が要る。この連鎖のどこにも既存の計算ツールが立っていなかった。

このサイトにある配管系の3本も、振り返ってみれば同じ形で止まっていた。配管サポート間隔チェッカーは「何mおきに吊るか」まで、配管熱膨張・伸縮量計算ツールは「何mm伸びるか」まで、エキスパンションループ設計ツールは「どんな形で吸収するか」まで。その結果が B31.3 の許容応力に収まっているかを判定するものが無い。3本とも入口や出口ではあるのに、判定の一段だけ空白だった。

もう一つの出発点は、調べ物の最後の最後で見つけた事実だ。f の式は2020年版まで f = 6N^−0.2 だったが、2022年版から f = 20N^−0.333 に変わっている。勾配が5から3になったので、低サイクル域では緩く、高サイクル域では厳しくなる。にもかかわらず、日本語で読める解説がほとんど無い。手元の資料が何年版に基づいているかを意識しないまま SA を出すと、同じ配管が版によって合格にも不合格にもなる。この2つを一度に潰せるものを作った。

サステインド応力とは何か — 一次応力と二次応力の分かれ道

荷重で決まる応力は、釣り合うまで下がらない

内圧と自重は「荷重」だ。配管がどう変形しようと、内圧は管を押し広げ続けるし、自重は下向きに引っ張り続ける。応力が材料の耐えられる値を超えて材料が降伏しても、荷重は消えない。降伏で少し伸びれば断面が細くなり、同じ荷重でも応力はむしろ上がる。だから一次応力は、超えた瞬間に破壊へ向かって走り出す。

B31.3 が持続応力 SL に対して「Sh を超えてはならない」という一発勝負の判定を課しているのはこのためだ。SL は内圧の長手方向応力と自重の曲げ応力の和で、Sh は最高金属温度における基本許容応力そのものである。

変位で決まる応力は、降伏したところで止まる

熱膨張はまったく違う。配管が100mm伸びようとして、アンカーが「動くな」と押し返す。このとき配管に生じる応力は、100mmという変位を無理やり押し込んだ結果だ。もし応力が高すぎて材料が降伏したら、降伏したぶん配管は塑性的に伸び、押し込む必要のある弾性ひずみが減る。つまり応力は自分で下がる。これが二次応力の自己緩和性で、一度の起動で配管が裂けることはまず無い。

問題は繰り返しだ。針金を1回曲げても切れないが、同じ場所を何十回も往復させると折れる。あれと同じことが起動停止のたびに起きる。二次応力は1回では壊れず、サイクル数で壊れる。だから許容値をサイクル数の関数にしなければならない。応力範囲低減係数 f の正体はこれである。運転寿命の中で何回温度を往復させるかを N として、N が多いほど f を小さくし、許容応力範囲 SA を絞り込む。

熱膨張応力 SE 求め方 — ガイデッドカンチレバー法

SE の出し方には流儀がいくつかあるが、本ツールはガイデッドカンチレバー法を採る。エルボで直角に曲がった配管の片側の脚を、先端が回転しない片持ち梁とみなす。この梁に先端変位 Δ を与えたときのモーメントは M = 6EIΔ/L² で、これを σ = Mc/I に入れて c = Do/2 を代入すると、断面二次モーメント I がきれいに消える。

一次応力(荷重で決まる・超えたら即アウト)
  内圧の長手方向応力  Slp = P · Do / (4t)
  自重の曲げ応力      Sb  = M / Z      M = w · Ls² / k
  持続応力            SL  = Slp + Sb   判定: SL ≦ Sh

二次応力(変位で決まる・繰り返しでアウト)
  先端が回転しない片持ち梁   M = 6 · Ea · I · Δ / L²
  σ = M · c / I に c = Do/2 を代入すると I が消えて
  熱膨張応力          SE  = 3 · Ea · Do · Δ / L²
  許容応力範囲        SA  = f (1.25 Sc + 0.25 Sh)
                      判定: SE ≦ SA

I が消えるということは、肉厚が SE に効かないということだ。厚い管にすれば内圧には強くなるが、熱膨張には強くならない——むしろ剛性が上がるぶん反力は増える。この直感に反する性質が、熱応力を「太さと変位と脚長だけ」の問題に還元してくれる。SA の2つの式と f の適用条件はPiping World の解説に、ガイデッドカンチレバー法の導出はWhat Is Piping の解説にそれぞれ一次情報がある。

SA を間違えるとどこで損をするか

SA は f と Sc と Sh の3つで決まる。このうち f を安全側に丸めておけばいいだろう、という判断が最初の落とし穴になる。

f には上限 fm があり、規定最小引張強さが517MPa(75 ksi)以下で、かつ最高金属温度が371℃(700°F)未満なら 1.2、どちらかを外れると 1.0 になる。f を無条件に 1.0 と決め打ちすると、サイクル数の少ない系ではそのぶん SA を捨てることになる。使用例のケース8で並べたとおり、同じ配管・同じ N=1,000 で fm が 1.2 か 1.0 かだけの違いにより、SA(基本式)は 244.5 MPa と 203.8 MPa に分かれる。約17%の差だ。ループを1つ入れるか入れないかが、この差で決まることは珍しくない。

逆方向の間違いのほうが危ない。fm の条件を「引張強さ517MPa以下なら1.2」とだけ覚えて温度条件を落とすと、高温側で SA を過大に評価する。使用例のケース3がまさにこれで、A106 Gr.B の引張強さは60 ksi(413.7MPa)だから引張強さの条件は通るが、金属温度380℃は371℃を超えている。温度条件を実装から落とすと f が 1.0 ではなく 1.173 になり、SA を約17%過大に出す。しかも判定は「合格」のまま返ってくるので、誤りに気づく機会が無い。

許容応力表は、出所で値が食い違う

Sc と Sh の出所も同じ性質の罠を持っている。MPa/℃ 表記で出回っている二次資料は A106 Gr.B の300℃を121MPaとしているが、ASME B31.3 Table A-1 の実表(ksi/°F 刻み)を300℃に内挿すると125.5MPaになる。約4%の差だ。そして公表計算例が使っているのは126MPaのほうで、内挿値と一致する。二次資料の MPa 表は条件の違う版から作られたものらしく、そのまま転記していれば保守側とはいえ公表例を再現できない実装になっていた。本ツールが ksi/°F の実表を持ち、内挿してから換算する形にしたのはこの調査結果による。

内蔵する許容応力表を炭素鋼4系統(A106 Gr.A / Gr.B / Gr.C・A516 Gr.70)に絞ったのも同じ理由だ。独立した2つの資料で裏が取れた範囲がここまでで、オーステナイト系ステンレスは Table A-1 の該当欄に設計者の判断を要する注記が付くことがあり、機械的に転記できない。裏が取れないものを内蔵して自動で引くより、Sc と Sh を手入力させるほうが誠実だと判断した。Table A-1 の抽出PDFfm の適用条件の解説が根拠になっている。

配管応力の判定が要る4つの局面

蒸気配管の熱応力チェック。 支持間隔と脚長が図面で決まったあと、その配置で SL と SE が許容内かを確認する。ケース1の構成なら SL 使用率12.71%・SE 使用率33.07%で、熱膨張側が設計を支配していることが一目で分かる。

サポート1本欠落の影響評価。 点検でハンガーが外れていた、あるいは干渉で1本抜くしかない、というとき、スパンが倍になると曲げ応力は4倍になる。ケース5では支持24mで SL が Sh を11%超え、しかも持続応力が超えたせいで SE 側の許容値まで下がる。

既存配管の温度上げ改造。 運転温度を上げると Sh が下がり、変位が増え、SA も動く。3つが同時に動くので暗算が効かない。材料と温度と変位を入れ替えて再判定するのが速い。

ループを入れるか迷ったときの当たり付け。 脚長を伸ばして済むのか、ループが要るのか。最小脚長の逆算値が現状に対してどれだけ離れているかで判断がつく。ケース10のように0.75m足りないだけなら配置の見直しで済むが、倍必要ならループの検討に移る。

基本の使い方は3ステップ

1. シナリオプリセットを選ぶ。 蒸気6インチ・温水4インチ・高温プロセス8インチ・低温2インチ・大口径10インチの5種があり、選ぶと17項目の入力がまとめて入れ替わる。近いものを土台にしたほうが早い。

2. 配管諸元と支持間隔・脚長を実物に合わせる。 外径・肉厚・設計圧力・最低/最高金属温度・単位重量・支持間隔・変位・脚長を実際の値に直す。単位重量は配管サポート間隔チェッカーが出す総荷重をそのまま入れられるし、変位 Δ は配管熱膨張・伸縮量計算ツールの伸縮量 ΔL をそのまま入れられる。線膨張係数の表を持たずに済ませているのは、この受け渡しを前提にしているからだ。

3. 使用率と逆算値を読む。 SL/Sh と SE/SA の使用率がゲージで並ぶので、どちらが設計を支配しているかを見る。超過していれば、SL 側なら最大支持間隔、SE 側なら最小脚長が数値で出る。どれだけ足りないかがその1行で分かる。サイクル数 N と適用する版(2022年版以降か2020年版以前か)は、プロジェクトの指定に合わせて最後に確認しておく。

使用例10ケース:入力値・結果・解釈

数値はすべて実装の検証に使った16件のテストベクターから取っている。うち2件は公表されている計算例との突合そのものだ。

ケース1:蒸気配管 6インチ・300℃(標準的な配置)

入力 A106 Gr.B / 外径168.3mm・肉厚7.11mm(6インチ SCH40)/ 設計圧力1.0MPa / 20→300℃ / 単位重量57kg/m・支持間隔5m(連続支持)/ 変位106mm・脚長10m・Ea 203GPa / N=7,000・2022年版

結果 判定 ok。SL=15.95MPa(内圧5.918+曲げ10.04)、Sh=125.5MPa、使用率12.71%。SE=108.6MPa、SA=328.6MPa(基本式213.7/liberal 式328.6)、使用率33.07%。f=1.049、fm=1.2、Sc=137.9MPa、断面係数 Z=139,230mm³。最大支持間隔17.26m、最小脚長5.75m。

解釈 両方とも余裕がある。SL の使用率は1割強で、計算上は支持を17.26mまで飛ばしても持続応力は許容内に収まる(実際にはたわみとサポート基準が先に効くが)。SE の使用率のほうが3倍近く高く、この配管は熱膨張側で設計が決まっている。

ケース2:温水配管 4インチ・80℃(f が上限で頭打ち)

入力 A106 Gr.B / 114.3mm×6.02mm / 0.8MPa / 20→80℃ / 34kg/m・支持4m(連続)/ 変位25mm・脚5m / N=3,000・2022年版

結果 ok。SL=13.92MPa(内圧3.797+曲げ10.13)、Sh=137.9MPa、使用率10.1%。SE=69.61MPa、SA=397MPa(基本式248.2/liberal 式397)、使用率17.54%。f=1.2、fm=1.2、Sc=137.9MPa、Z=52,678mm³。最大支持間隔14.56m、最小脚長2.094m。

解釈 N=3,000 では式の値が 1.390 になるが、fm=1.2 で頭打ちになる。80℃は Table A-1 の100°F〜200°F 区間にあたり、この区間の S は20 ksi 一定なので Sc と Sh がどちらも137.9MPaで揃う。低温・低サイクルの系では f が上限に貼り付き、サイクル数を減らしても SA は増えない。

ケース3:高温プロセス 8インチ・380℃(fm が 1.0 に落ちる)

入力 A106 Gr.B / 219.1mm×8.18mm / 1.6MPa / 20→380℃ / 85kg/m・支持5.5m(連続)/ 変位150mm・脚12m / N=5,000・2022年版

結果 ok。SL=19.86MPa(内圧10.71+曲げ9.151)、Sh=109MPa、使用率18.23%。SE=139MPa、SA=288.7MPa(基本式199.6/liberal 式288.7)、使用率48.14%。f=1.0、fm=1.0、Sc=137.9MPa、Z=275,554mm³。最大支持間隔18.02m、最小脚長8.326m。

解釈 380℃は371℃を超えるので fm が 1.0 に落ちる。引張強さは517MPa以下なのに、温度条件だけで上限が下がるところがこのケースの肝だ。式の値は 1.173 なので、温度条件を落とした実装なら f=1.173 が採用され、SA が約17%過大に出る。SE の使用率が48%とすでに半分近いこの配管では、その17%が判定を左右しうる。

ケース4:低温配管 2インチ・−25℃(収縮側・曲げ支配)

入力 A106 Gr.B(Table A-1 では A333 Gr.6 と同一行)/ 60.3mm×3.91mm / 1.2MPa / −25→20℃ / 18kg/m・支持3m(連続)/ 変位20mm・脚4m / N=2,000・2022年版

結果 ok。SL=21.94MPa(内圧4.627+曲げ17.31)、Sh=137.9MPa、使用率15.91%。SE=45.9MPa、SA=387.4MPa(基本式248.2/liberal 式387.4)、使用率11.85%。f=1.2、fm=1.2、Sc=137.9MPa、Z=9,176mm³。最大支持間隔8.323m、最小脚長1.377m。

解釈 低温配管では最低金属温度が−25℃、最高が常温20℃という向きになる。Table A-1 は−20°F〜100°F を同一値で括るので Sc=Sh=137.9MPa。注目したいのは SL の内訳で、曲げ17.31MPa が内圧4.627MPa の4倍近い。小口径は Z が9,176mm³ と小さく、支持3mでも自重の曲げが持続応力の8割を占める。細い配管ほど支持間隔がそのまま SL に効く。

ケース5:大口径 10インチ・サポート1本欠落(SL 超過)

入力 A106 Gr.B / 273.1mm×9.27mm / 1.0MPa / 20→250℃ / 121kg/m・支持24m(連続)/ 変位90mm・脚9m / N=7,000・2022年版

結果 判定 ng-sustained。SL=146.8MPa(内圧7.365+曲げ139.4)、Sh=132.1MPa、使用率111.1%。SE=184.8MPa、SA=215.4MPa(基本式215.4/liberal 式は使えない)、使用率85.8%。f=1.049、fm=1.2、Sc=137.9MPa、Z=490,181mm³。最大支持間隔22.7m、最小脚長8.336m。

解釈 サポートが1本抜けて隣接スパンと合体し、支持間隔が24mになった想定。曲げ応力が139.4MPa まで跳ね上がり、SL が Sh を11%超える。ここで効いてくるのが liberal 式の適用条件だ。liberal 式は SL が Sh より小さいときにしか使えないので、SL が Sh を超えた瞬間に SA が基本式の215.4MPaへ落ちる。持続応力の超過が、熱膨張側の許容値まで道連れにする——SE 使用率が85.8%まで上がっているのはそのせいだ。逆算値は22.7mなので、24mを2.7m詰めれば SL は収まる。

ケース6:Piping World の公表計算例を再現

入力 材料は手入力(Sc=138MPa・Sh=126MPa・引張強さ517MPa以下)/ 168.3mm×7.11mm / 1.0MPa / 20→300℃ / 57kg/m・支持5m(連続)/ 変位106mm・脚10m / N=18,000・2020年版以前

結果 ok。f=0.8455、SA(基本式)=172.5MPa。SA=265.5MPa(liberal 式を採用)、SE=108.6MPa、使用率40.92%。SL=15.95MPa、Sh=126MPa、使用率12.66%。Sc=138MPa。最大支持間隔17.29m、最小脚長6.397m。

解釈 公表されている計算例は同じ条件で f=0.845・SA(基本式)=172.4MPa としており、丸め誤差の範囲で一致する。公表例はさらに SL=60MPa を仮定して liberal 式で228.2MPaを出しているが、同じ SL=60 を本モデルの式に入れると228.3MPaになる。f の式・基本式・liberal 式の3つを1つの例で同時に検証できたケースだ。なお本ツールは SL を配管諸元から計算するので、この構成では SL=15.95MPa となり liberal 式の値は265.5MPaになる。

ケース7:同じサイクル数で版だけ切り替える(f の式が変わった影響)

入力 ケース1と同じ配管で N=45,000 に上げ、適用する版だけを切り替える。

結果 2022年版:f=0.5643、SA=176.8MPa(基本式115/liberal 式176.8)、SE 使用率61.44%、最小脚長7.839m。2020年版以前:f=0.7039、SA=220.6MPa(基本式143.4/liberal 式220.6)、SE 使用率49.26%、最小脚長7.019m。

解釈 入力は1文字も変えず、版のセグメントを切り替えただけで SE 使用率が49.26%から61.44%へ動く。SA(基本式)で見れば114.98MPaと143.42MPaで25%の差だ。この2つの f はどちらも配管応力解析ソフトのベンダーが公表している値と一致する。ついでに言うと、2022年版の指数を厳密に 1/3 として計算すると f=0.56229 になり、公表値の0.5643と合わない。規格の表記どおり0.333として実装したのはこの突合の結果である。

ケース8:fm が 1.2 と 1.0 で SA がどう変わるか

入力 ケース1と同じ配管で N=1,000。Aは A106 Gr.B のまま(引張強さ60 ksi・300℃)、Bは材料を手入力にして Sc=137.9・Sh=125.5 とほぼ同値を入れ、引張強さ区分だけ「517MPa超」に変える。

結果 A:fm=1.2、f=1.2、SA=376MPa(基本式244.5/liberal 式376)、SE 使用率28.89%、最小脚長5.375m。B:fm=1.0、f=1.0、SA=313.3MPa(基本式203.8/liberal 式313.3)、SE 使用率34.68%、最小脚長5.889m。

解釈 Sc も Sh もほぼ同じで、変えたのは引張強さの区分だけ。それだけで SA(基本式)が244.5MPaから203.8MPaへ、約17%下がる。N=1,000 では式の値が2.005もあるので、実際の f は完全に fm で決まっている。高張力材に替えると内圧には強くなるが熱膨張の許容範囲はむしろ狭くなる、という設計上の逆転がここに現れる。

ケース9:梁モデルの3択で SL がどう動くか

入力 ケース1と同じ配管で、自重の曲げモーメントの見方だけを変える。

結果 連続支持 M = wL²/10:SL=15.95MPa(曲げ10.04)、使用率12.71%、最大支持間隔17.26m。単純支持 M = wL²/8:SL=18.46MPa(曲げ12.55)、使用率14.71%、最大支持間隔15.44m。両端固定 M = wL²/12:SL=14.28MPa(曲げ8.364)、使用率11.38%、最大支持間隔18.91m。

解釈 最も保守的な単純支持と最も緩い両端固定で、SL は18.46MPaと14.28MPaに分かれる。最大支持間隔で見れば15.44mと18.91mで3.5m近い差だ。配管は一般に連続支持として扱うが、末端スパンや振れ止めの入り方次第では単純支持で見ておくほうが安全なこともある。なお SE は梁モデルに依存しないので、3択のどれを選んでも108.6MPaのまま動かない。持続応力と熱膨張応力が独立した照査であることが、この一点にも出ている。

ケース10:脚が短くて SE が超過する

入力 ケース1の脚長だけを10mから5mに短縮。

結果 判定 ng-expansion。SE=434.6MPa、SA=328.6MPa、使用率132.3%。SL 側は15.95MPaのまま変わらず、使用率12.71%。最小脚長5.75m。

解釈 SE は脚長の2乗に反比例するので、脚を半分にすると応力はちょうど4倍になる。108.6MPa が434.6MPaになったのはその通りの結果だ。逆算値は5.75mなので、あと0.75m伸ばせば許容内に入る。この「あとどれだけ」が数値で出ることが、判定だけを返すツールとの実用上の差になる。持続応力側はまったく無傷であることも、SL と SE を別々に見るべき理由をそのまま示している。

仕組みとアルゴリズム

熱膨張応力の評価法:3つの候補から選んだ理由

SE をどう出すかには3つの選択肢があった。

(1) 完全拘束の軸応力 σ = E·α·ΔT 配管の熱膨張・伸縮量計算ツールが出しているのがこの値だ。両端を剛に留めた最悪値なので、スクリーニングとしては意味がある。ただし実際の配管はエルボで曲がっており、その方向に逃げるので、この値がそのまま出ることはまず無い。判定に使うには保守的すぎる。

(2) ガイデッドカンチレバー法 SE = 3·Ea·Do·Δ/L² 本ツールが採用した古典解。脚を先端が回転しない片持ち梁とみなす。エキスパンションループ設計ツールが使っている Kellogg 式 L = √(K·E·Do·ΔL/σA)(L字は K=3)は、この式を L について解いた形そのものだ。つまり同じ物理式の順方向と逆方向を、2本のツールが分担している。

(3) 有限要素法。 SIF・分岐・支持の非線形・ノズル反力まで扱える本来の解だが、ブラウザで完結する簡易評価の範囲を超える。

(2) を選んだうえで、(1) との違い(拘束の有無)と (3) との違い(応力集中係数や分岐が入らない)は免責として明示している。エルボやティーの直近では実際の応力がこの値より大きくなる。

計算フロー

1. 入力検証(数値12項目・選択肢4項目)
   範囲外は理由別のメッセージを返し、計算に進まない

2. 基本許容応力を引く
   Sc = lookupS(材料, 最低金属温度)
   Sh = lookupS(材料, 最高金属温度)
   lookupS: Table A-1 の温度列で隣接2点を探して ksi 値を線形内挿し
            6.894757 を掛けて MPa にする
            転記範囲(−29〜426.67℃)の外は外挿せず端の値で止める

3. 断面性能
   Di = Do − 2t
   I  = π/64 × (Do⁴ − Di⁴)
   Z  = 2I / Do

4. 持続応力          SL = P·Do/(4t) + M/Z
   M = (w × 9.80665 / 1000) × (Ls × 1000)² / k
   k = 10(連続支持)/ 8(単純支持)/ 12(両端固定)

5. 熱膨張応力        SE = 3 × (Ea × 1000) × Do × Δ / (L × 1000)²

6. 応力範囲低減係数
   f_raw = 20 × N^(−0.333)    // 2022年版以降
   f_raw = 6 × N^(−0.2)       // 2020年版以前
   fm    = (引張強さ ≦ 517MPa かつ 最高金属温度 < 371℃) ? 1.2 : 1.0
   f     = min(f_raw, fm)

7. 許容応力範囲
   SA_basic   = f × (1.25 Sc + 0.25 Sh)
   SA_liberal = (SL < Sh) ? f × (1.25 (Sc + Sh) − SL) : 使えない
   SA         = SA_liberal が使えるなら大きいほう、でなければ SA_basic

8. 逆算
   最大支持間隔 = √((Sh − Slp) × Z × k / w_N) / 1000
   最小脚長     = √(3 × Ea × Do × Δ / SA) / 1000

設計判断で迷ったところ

許容応力表を ksi のまま持つ。 内挿してから MPa に換算する順序にしてある。°C と °F は線形関係なので、隣接2点間の線形内挿はどちらの単位で行っても同じ値になる。したがって換算は最後に1回で足りるし、表そのものは原典の刻みのまま持てる。MPa/℃ 表記の二次資料を転記していたら公表計算例を再現できなかった、という調査結果が背景にある。

変位 Δ を直接受け取る。 線膨張係数 α と温度差を入力させる代わりに、伸びた量そのものを入れてもらう形にした。α の温度依存表を内蔵せずに済むうえ、配管熱膨張・伸縮量計算ツールが出した ΔL をそのまま渡せる。

f の指数を 0.333 とする。 厳密に 1/3 とすると N=45,000 で0.56229になり、公表値の0.5643と合わない。0.333 なら0.56430で完全一致する。ケース7がこの判断を固定している。

f の下限クランプを実装しない。 規格には f の下限0.15があるが、入力できる上限 N=1,000,000 でも2022年版の f は0.2009までしか下がらない。到達しない分岐は書かないほうが、実装も検証も素直になる。

計算例:ケース6を手で追う

Sc = 138 MPa, Sh = 126 MPa(手入力)
N = 18,000, 2020年版以前 → f_raw = 6 × 18000^(−0.2) = 0.84547
fm = 1.2(引張強さ517MPa以下 かつ 300℃ < 371℃)
f  = min(0.84547, 1.2) = 0.84547

SA(基本式)   = 0.84547 × (1.25 × 138 + 0.25 × 126)
             = 0.84547 × (172.5 + 31.5)
             = 0.84547 × 204 = 172.5 MPa

SL = 15.95 MPa、Sh = 126 MPa なので SL < Sh → liberal 式が使える
SA(liberal)  = 0.84547 × (1.25 × (138 + 126) − 15.95)
             = 0.84547 × (330 − 15.95) = 265.5 MPa

SA = max(172.5, 265.5) = 265.5 MPa
SE = 108.6 MPa → 使用率 40.92%  → 判定 ok

公表されている値は f=0.845・SA(基本式)=172.4MPa で、いずれも一致する。SA として表示されるのは liberal 式の265.5MPaのほうなので、どちらの式を採用したかを結果に必ず併記するようにした。同じ入力でも SL が Sh を跨いだ瞬間に採用式が切り替わって値が飛ぶので、式名が無いと数字を再現できなくなる。ケース5で SA が215.4MPaに落ちているのはまさにこの切り替わりだ。

応力解析ソフトの代わりではない——配管ツールの守備範囲を並べてみる

前半で触れたとおり、配管まわりの計算ツールは「何mm伸びるか」「何mのループが要るか」までは答えるが、その結果で応力が許容内なのかには踏み込まない。ここではその前提の上で、実際に手が届く道具それぞれと、このツールが何を分担しているのかを並べる。

日本語の配管ツールはフープ応力で止まっている

日本語で使えるオンラインの配管計算ツールは数えるほどしかない。NovaSolver の配管重量・熱膨張計算ツールはその貴重な一つで、ASME B36.10 の肉厚テーブルを内蔵し、DN15〜DN200・SCH10/40/80/XXS の組み合わせで最大8セグメントの重量を積算し、熱膨張量と最大フープ応力まで返す。作りは丁寧で、重量拾いの道具としては素直に便利だ。

ただし出力される応力はフープ応力(円周方向)で、判定も「降伏の60%と比べる」という指針の提示にとどまる。フープ応力は内圧で肉厚を決めるための量であって、自重の曲げや熱膨張の変位とは別系統の話だ。SL・SE を Sh・SA と突き合わせる体系は入っておらず、ガイデッドカンチレバー法も支持間隔からの曲げ応力も持たない。B31.3 の許容応力表も内蔵していない。ページ自身が「複雑な配管系の熱応力解析にはFEAが必要」と断り書きを置いている。

英語圏のループ計算機は、許容応力が入力欄になっている

エキスパンションループの計算機は英語圏にいくつかある。式はガイデッドカンチレバー法そのもので、必要な脚長を返してくれる。だが比較相手の許容応力はユーザーが直接打ち込む欄になっている。つまり「SA をいくつと置くか」という、一番判断が要るところがツールの外に出されている。サイクル数から f を出し、Sc・Sh と組み合わせて SA まで導くものは、探した範囲では見つからなかった。

検索した範囲では、SL と SE を両方出して B31.3 の許容応力と比較するブラウザ完結ツールは、日本語・英語とも見当たらなかった。応力範囲低減係数 f を2つの版で並べて比較できるものも同様だ。

CAESAR II は代替ではなく、次の工程

配管応力解析の本来の解は CAESAR II や AutoPIPE といった専用ソフトにある。応力集中係数、分岐部、支持の非線形挙動、機器ノズルへの反力まで、実配管で効くものをひととおり扱える。このツールはその代替ではない。SIF も分岐も支持の非線形もノズル反力も持たないので、置き換えようとすると必ず足りない。

位置づけは前段だ。モデルを組み始める前に、「この配置でそもそも成立しそうか」を数十秒で見る。脚長が明らかに足りないルート、サポートが1本抜けたときに持続応力側が先に飛ぶ配置——そういうものはモデルを組むまでもなく分かる。手戻りの一番高い工程に入る前に篩をかけるための道具だと思ってほしい。

サイト内の3本と、何を分担しているのか

このサイトには配管の熱膨張まわりのツールが先に3本ある。それぞれが答える問いが違う。

配管サポート間隔チェッカーが答えるのは「何mおきに吊るか」。MSS SP-69 / JIS B 8607 の推奨スパンとたわみ制約から間隔を出す。あちらが出す総荷重(kg/m)は、このツールの単位重量にそのまま入る。あちらは曲げ応力を計算していない(推奨スパンはルックアップ表、たわみは δ = wL⁴/(185EI))ので、応力の照査はこちらが受け持つ相補関係になる。

配管熱膨張・伸縮量計算ツールが答えるのは「何mm伸びるか」。線膨張式で伸縮量を出す。その値がこのツールの変位 Δ になる。あちらも熱応力を返すが、あれは両端を完全に拘束したらどうなるかというスクリーニング値で、エルボで曲がった実配管に生じる応力ではない。このツールの SE がその実際の値にあたる、という棲み分けだ。

エキスパンションループ設計ツールが答えるのは「どんな形で吸収するか」。Kellogg 式で L/Z/U 字のアーム長を返す。この Kellogg 式は、こちらの SE の式を脚長について解いた形と同じものだ。つまり同じ物理式の順方向と逆方向を、2本のツールが分担している。あちらは許容応力を直接入力する設計なので、このツールが出した SA をそこに入れると、ループ寸法の根拠が B31.3 に揃う。

守備範囲の外にも2本ある。ウォーターハンマー圧力計算ツールが扱う水撃はオケージョナル荷重で、B31.3 では持続応力とは別の組合せ式で照査する(このツールは対象外にしている)。**クリープ寿命計算ツール(Larson-Miller)**は、内蔵の許容応力表を打ち切った 426.7℃ より上——許容応力がクリープ支配に移る温度域の受け皿になる。

応力範囲低減係数 f の指数 0.2 はどこから来たのか

f がサイクル数の関数になる理由そのものは前半で扱った。残る疑問は、なぜ指数が 0.2 という中途半端な数字なのか、というところだ。

S-N 曲線の勾配が、そのまま式になっている

金属の疲労データを、応力の振幅と破断までの繰り返し数で両対数プロットすると、広い範囲でほぼ直線に乗る(疲労(材料)— Wikipedia)。この直線を σ ∝ N^(−1/m) と書いたときの m が、S-N 曲線の勾配と呼ばれる値だ。

2020年版までの f = 6N^−0.2 を見ると、指数の 0.2 は 1/5 にあたる。つまり勾配 m = 5 の S-N 直線をそのまま持ってきて、係数 6 で高さを合わせただけの式ということになる。f は「サイクル数が増えたぶんだけ許容応力範囲を落とす係数」なので、落とし方の傾きに疲労曲線そのものの傾きを使うのは筋が通っている。数字の出どころが分かると、半端に見えた 0.2 が急に読みやすくなる。

面白いのは頭打ちの位置だ。f の上限 fm を 1.2 として 6/N^0.2 = 1.2 を解くと、N = 5⁵ = 3,125 になる。キリのいい数字ではないが、5 の5乗というかたちで勾配 5 がそのまま顔を出す。裏を返せば、係数 6 と指数 0.2 のどちらか一方でも間違えるとこの境界値がずれるので、実装や手計算が正しいかを確かめる目印としても使える。2022年版の式で同じことをすると、境界は N ≒ 4,669 に移る。

2022年版で勾配が 3 になった意味

2022年版から式は f = 20N^−0.333 に変わった(Paulin Research Group: ASME B31 Updates to Stress Range Factors)。指数の 0.333 はほぼ 1/3 にあたるので、勾配が 5 から 3 に立ったことになる。より新しい疲労データに合わせた結果だ。

勾配が急になると、サイクル数が増えたときの落ち方が速くなる。2本を重ねて描くと N ≒ 8,500 付近で交差し、それより少ないサイクル側では2022年版のほうが f が大きく(緩く)、多いサイクル側では2022年版のほうが小さく(厳しく)出る。「新しい版だから厳しい」でも「緩い」でもなく、どちら側にいるかで向きが変わる。ツールの f–N 曲線は2本を重ねて描いてあるので、いま入れているサイクル数が交差点のどちら側にあるかがそのまま読める。同じサイクル数で版だけ切り替えたときの実数の動きは、使用例の対比に並べてある。

許容応力表は、今も ksi と °F の刻みで作られている

B31.3 の Table A-1 を眺めると、炭素鋼の値が 20 / 19.9 / 19 / 17.9 …… と並ぶ。妙にキリがいい。単位が ksi(キロポンド毎平方インチ・Pounds per square inch — Wikipedia)だからだ。温度列も 100 / 200 / 300 …… °F と 100°F 刻みで、℃ に直すと 37.78 / 93.33 / 148.89 …… という半端な列になる。

つまり MPa と ℃ で書かれた許容応力表は、どれも元の ksi/°F 表を換算したものだ。20 ksi はきれいに 137.895 MPa になるが、逆向きにはならない。規格由来の数字が妙に半端に見えるときは、たいてい単位の向きが逆になっている。

手を動かすときのTips

N は起動停止の回数だけではない

B31.3 の N は「等価全変位サイクル数」で、据付温度と運転温度を往復する回数を数える。日常的な起動停止だけでなく、運転中に温度が上下する系ではその変動も1サイクルに数える。バッチプロセスで1日に3回昇温するなら、同じ20年でも単純に3倍の差が出る。N を過小に見積もると f が大きく出て、SA を甘い側に評価してしまう。迷ったら多めに見ておくほうが安全側に倒れる。

最大支持間隔は「応力から見た上限」でしかない

逆算で出る最大支持間隔は SL ≦ Sh を満たす限界であって、そこまで伸ばしていいという意味ではない。実際の配管では、たわみ量とサポート基準の推奨スパンのほうが先に効くことが多い。応力に余裕があるのにスパンを詰めているように見えたら、たいていはたわみか排水勾配が効いている。順序としては推奨スパンで間隔を決めてから、このツールで応力側も足りているかを確かめる形になる。

SE の超過は、脚を伸ばすより形を変えるほうが早いことがある

SE は脚長の2乗に反比例するので、脚を1.5倍にすれば応力は 1/2.25 まで落ちる。効き目は大きい。ただし直線でその長さを取れる現場は多くない。逆算で出た最小脚長が現実的でない値になったら、脚を伸ばす発想からいったん離れて、ループを入れる・ルートを振る側で吸収を稼ぐほうが早いことがある。

版は両方見てから決める

適用する版のセグメントを切り替えると、入力を一切変えずに f と SA が動く。プロジェクトが版を指定しているならそれに従うのが原則だが、両方で成立する寸法にしておくと、途中で適用版が変わったときに設計をやり直さずに済む。どちらの向きにどれだけ動くかは、使用例で版だけを切り替えた対比を見てほしい。

手入力材料では Sc と Sh を同じ表から取る

材料を「手入力」にすると Sc と Sh を自分で入れることになる。このとき、片方を規格表から・片方を別の解説記事から、といった取り方をすると、基準の違いがそのまま SA の誤差として乗る。同じ表・同じ版の同じ行から2つとも読むこと。常温弾性係数も材料に合わせて直しておく。

よくある質問

ステンレス配管の Sc / Sh はどこから取ればいい?

内蔵の材料プリセットは炭素鋼4系統に絞ってある。ASME B31.3 Table A-1 のオーステナイト系ステンレスの欄には設計者の判断を要する注記が付くことがあり、独立した2つの資料で裏を取り切れなかったためだ。ステンレス・合金鋼・非鉄は材料を「手入力」に切り替えて、手元の Table A-1 から最低金属温度と最高金属温度それぞれの S 値を読み、Sc / Sh に入れてほしい。あわせて規定最小引張強さの区分と、常温弾性係数(オーステナイト系なら 195 GPa 程度)も実材料に合わせておくこと。この2つを既定のまま残すと SA と SE の両方がずれる。

SL がほとんどのケースで許容内に収まるのはなぜ?

内圧による長手方向の応力は、肉厚を決めるときに使うフープ応力のちょうど半分にあたる。そして肉厚は先にそのフープ応力で決まっている。だから長手側には最初から倍の余裕がある。自重の曲げ応力のほうも、サポート基準どおりのスパンなら Sh に対して1割前後にとどまることが多い。SL が Sh を超えるのは、サポートが1本抜けてスパンが実質倍になったような、配置側の異常があるときだ。支持間隔24mのケースがまさにそれにあたるので、使用例で結果の出方を確かめてほしい。

SA(liberal 式)が「使えない」と表示されるのはどんなとき?

SL が Sh 以上になったときだ。liberal 式は、持続応力が許容応力に対して余らせている分を変位応力範囲の側に回して使う考え方なので、余りがゼロ以下になると成立しない(式そのものの導出は前半の解説にある)。この場合ツールは基本式の値だけで判定に進む。表示が切り替わったら、SA の議論をする前に SL の超過を解消すべきサインだと考えていい。支持間隔24mのケースがこの状態になり、逆算で出る最大支持間隔が次の一手の目安になる。

2022年版と2020年版以前、どちらで計算すべき?

原則はプロジェクトの仕様書が指定する版に従う。契約図書で B31.3 の版が指定されているなら、f の式もその版のものを使う。指定がなければ設計着手時点で有効な版を選ぶのが無難だ。両方に切り替えられるようにしてあるのは、既存設備の再評価で「当時は旧版で通っていたが、今の版でも成立するか」を確かめる用途を想定したため。サイクル数が少ない側と多い側で有利不利が逆転するので、どちらか一方だけを見て安心しないほうがいい。

応力集中係数(SIF)を入れていないと、どれくらいずれる?

SIF は継手形状による応力の割り増しで、値が 1 を下回ることはない。したがってこのツールが返す SE は、エルボやティーの直近で実際に生じる応力の下限にあたる。SE がすでに SA を超えているなら、SIF を入れれば当然もっと超えるので、この判定が覆ることはない。逆に許容内と出た場合でも、使用率が高いときは継手位置で足が出る可能性がある。余裕が薄い結果は、SIF と分岐を扱える解析ソフトで確かめる前提で読んでほしい。分岐・ノズル反力・地震荷重も同じ理由で対象外にしてある。

入力した配管条件はどこかに送信される?

送信されない。計算はすべてブラウザの中で完結していて、外径・肉厚・設計圧力・温度・サイクル数といった入力がサーバーに送られることはない。プラントの配管条件は、組み合わせによっては設備の内容がある程度推測できてしまう情報なので、ここは仕様として明示しておく。ページを閉じれば入力内容はどこにも残らないし、シナリオのプリセットを選び直せばいつでも既定値に戻せる。

まとめ:許容値が「何回繰り返すか」で変わるということ

配管の熱膨張応力は、値そのものより「何と比べるか」のほうが難しい。比べる相手の SA は材料だけでは決まらず、その配管が寿命の間に何回昇温降温するかで動く。同じ寸法・同じ温度でも、日に1回起動する配管と年に数回しか止めない配管では合否が分かれる。この一点さえ腹に落ちれば、あとは入力を実物に合わせていくだけだ。

支持間隔をどう決めるかは配管サポート間隔チェッカー、伸縮量が何mmになるかは配管熱膨張・伸縮量計算ツール、吸収する形を決めるのはエキスパンションループ設計ツールが担当している。このツールはその3本が出した数字を受け取って、B31.3 の許容応力に収まっているかを判定する位置にある。行き来しながら使うと、配管一系統の検討がひととおり回る。

手元の解析結果と合わない、こういう条件も見たい、といった気づきがあればお問い合わせページから知らせてほしい。

M

Mahiro

Mahiro Appの開発者。配管の伸縮量までは出せても「その応力が許容内か」に答えるページが無いことに、既設蒸気配管の昇温改造で手が止まって気づいた。応力範囲低減係数fの式が2022年版で変わっている話は、日本語の解説がほぼ無いまま設計判断に効いてくる。

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